政治経済レポート:OKマガジン(Vol.36)2002.11.8

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


昨日は、財政金融委員会で質疑に立たせて頂きました。日銀の株式取得に関して、速水総裁に僕の持論を述べさせて頂きました。たいへんお世話になった元上司でもある速水総裁に厳しいことを申し上げるのは断腸の思いでしたが、あえて苦言を呈させて頂きました。詳細はメルマガの中でご説明させて頂きます。だいぶ堅い話題ですが、重要な内容ですので、読者の皆さん、どうぞお許し下さい。

1.竹中ホットラインは有効に機能するか?

財政金融委員会では、竹中大臣とも質疑をさせて頂きました。竹中大臣は、去る10月30日に「金融再生プログラム」というものを発表しましたが、その中に盛り込まれている「貸し渋り・貸し剥がしホットライン」というアイディアに注目しています。

早い話、「金融機関との交渉において理不尽な金利引き上げ要求や返済要求、あるいは強引な担保設定(個人保証を含む)を要求された場合、さらには金融機関の不適切な営業行動についてお気付きの点があれば、金融庁に通報してください」という試みです。結構なことだと思います。通報された内容のうち、目に余るものがあれば行政指導を行うと謳っています。

そこで、昨日の委員会では「昨年度末に見られた自行株買い上げのためのバックファイナンス(=銀行が自行の株価下支えのために、取引先企業等に株購入資金を融資すること)の情報がホットラインに入ったら、これは当然行政指導の対象でしょうな。あるいは、そもそも先にバックファイナンス禁止の通達等を出してもいいと思いますが、そういうお考えはありますか?」と聞きました。

竹中大臣の答弁は、驚くことに「ケースバイケースです。通達を出すというのはちょっと・・・」という内容でした。こうしたバックファイナンスに「ケースバイケース」はないでしょう、竹中さん。そんなことの是非も判断できないのでしょうか。しっかりしてくださいよ。

もうひとつ聞きました。「銀行から、3か月、半年、あるいは1年ごとの融資継続交渉の際に、1%単位の金利引き上げ要求を突きつけられている中小企業の皆さんが多数いらっしゃるようです。あまりに極端な金利引き上げは、問題ではありませんか。そうした情報がホットラインに入ってきたらどうしますか」という質問に対しても、「ケースバイケースです。一概にお答えできません」という優等生回答でした。極端かつ公共性に反する銀行行動を指導、監督することこそ、金融庁の仕事ではないでしょうか。

1%単位の金利引き上げや過度な担保要求は、銀行と企業の間の「融資取引というゲーム」の「急なルール変更」にほかなりません。銀行幹部の皆さんは、竹中さんが進めようとしていた税効果会計基準の見直しを「急なルール変更」だと言って抵抗していましたが、何だか釈然としませんね。

企業家、事業主の皆さん、銀行取引で何か気になることがあれば、竹中ホットラインに連絡しましょう。でも、ホットラインと言いながら、実はファックスと電子メールでしかアクセスできないそうです・・・・。ま、それでもやらないよりはいいでしょう。もし、よほどひどいケースを竹中ホットラインに連絡しても、金融庁が何のアクションも起こさなければ、どうぞ遠慮なく僕のところまでご一報ください。金融庁に回答を求めたいと思います。竹中ホットラインの連絡先は以下のとおりです。

金融庁「貸し渋り・貸し剥がしホットライン」
ファックス03-3506-6699
電子メールjoho@fsa.go.jp

金融庁の公表文書に以下のように記載してありますので、念のためお伝えします。

情報を送付いただく際には、住所(都道府県)、年齢、性別、職業、業種についてもご記入ください。メールの際には、こちら(ホームページ)の様式(Microsoft Word形式)をダウンロードしてご利用ください。受け付けた情報については、検査・監督の実施にあたり、重要な情報として活用させていただきますので、金融機関名・支店名や取引の内容など、できるだけ具体的にご記入ください。

2.不健全な中央銀行の独立性:「ルビコン川を渡った」

去る9月18日、僕の古巣の日本銀行は、銀行保有株を取得するという歴史に残る大決断をしました。長年に亘り、「中央銀行や通貨(円)に対する信認維持の観点から、価格リスクによって、中央銀行の保有資産を劣化させる可能性がある株や不動産を取得することはできない」と主張していましたが、方針を180度転換したと言えます。

中央銀行による一般企業の株保有は、海外でも前例がありません。近代中央銀行制度の歴史を変える、前代未聞の出来事です。それほど、日本の金融機関及び経済が疲弊している証左であり、日本銀行による「非常事態宣言」にほかなりません。

この政策については、内外において賛否両論があります。しかし、速水総裁がひとたび決断し、中央銀行が対外発表した以上、この政策の適否は今更「是非もない」と言わざるを得ません。批判に気後れして決断を撤回すれば、金融市場や中央銀行の信認に与える影響は計り知れません。もはや「ルビコン川を渡った」のです。

3.不健全な中央銀行の独立性:「法治国家」と「中央銀行」

とは言え、日本は「法治国家」です。日本銀行による株保有が、どのような法的根拠で行われるかについては、いくつかの選択肢があります。

日本銀行は、日銀法第43条の認可(法律に定めていないことを行う場合には、財務大臣の認可が必要)を受けて株保有を行うことを念頭に置いて対外発表しました。そして、実際に10月11日に認可を受けました。

しかし、上述のように、一国の中央銀行が対外発表した以上、その瞬間にもはや「是非もない」状態になります。認可が受けられない場合には、「非常事態なのに、政府と日本銀行がバラバラだ」という印象が内外の金融市場や国民に伝わり、経済はもっと悪い状態になる可能性があります。したがって、対外発表した段階で、もはや政府の側に判断の余地はなかったのです。

日銀法第43条は「打出の小槌」ではありません。日本銀行が「認可さえ受ければ何をやってもいい」という認識でいるとすれば、この点は間違っています。日銀法はあくまで「平時」の法律であり、先進国共通の中央銀行制度の枠内の法律と言えます。日本経済が「非常事態」であり、先進国中央銀行制度に前例のない政策を行う以上、別途の立法によって法的根拠を確立すべきでしょう。それが「法治国家」というものです。

速水総裁がこうした政策を選択する決断をしたことは理解できますが、日本銀行が立法府や行政府に何の説明もなく最終決定を行い、実務の詳細も内部で決めようとしていることは「法(のり)」を超えていると言わざるを得ません。速水総裁を支える幹部の皆さんは、法的根拠についてどのようなアドバイスをしたのでしょうか。

こうした短絡的な行動を取った結果、日本銀行は「失ったもの」と「負ったもの」があります。

「失ったもの」は、総裁をはじめ、中央銀行幹部の発言に対する「信頼」です。過去に発言していたことを、ある日突然180度転換したのですから、残念ですが、やむを得ないことです。仮に、別途の立法によってこの決断が行われていれば、「中央銀行としての原則は変えていない。しかし、経済が非常事態の中、国権の最高機関である国会が決めたことであれば、例外的、緊急的な対応として日本銀行としても協力する」という抗弁が成り立ちます。後世の人たちも、どのような経緯と背景で、日本銀行がそうした行動を選択したかを正しく理解してくれたことでしょう。残念ながら、中央銀行幹部の発言の重みが、著しく軽くなったと言わざるを得ません。

金融政策(例えば、公定歩合の変更)に関連する発言は、ある程度「前言を翻して良い」(=誤解を恐れずに言えば「嘘を言って良い」)というのは、内外の金融市場関係者の共通認識です。しかし、原理原則(例えば、株や不動産を保有しないこと)に関する発言は違います。この点の認識と判断が、やや間違っていたのではないでしょうか。

「負ったもの」はふたつあります。ひとつは、自主的な判断で第43条認可を申請した以上、株取得に伴うより明確な結果責任を負ったということです。もうひとつは、一般企業の株を取得することに伴う業務の公正性、透明性に関する立証責任です。例えば、取得する株の発行企業役員に元日銀幹部が在籍したり、後にその企業に幹部が再就職した場合、そうしたことが株取得と何ら関係がないことを立証する義務があります。

株取得は平成16年9月末まで行われ、最長平成29年9月末まで保有される仕組みになっています。速水総裁をはじめ、今日銀に在籍している皆さんは「断腸の思い」で今回の決断(株取得の決断)をしたことと思います (そう願いたいです。一部で報道されているような「政治に一石を投じた」という認識でいるとすれば、自ら「政治からの中立性」を放棄したことになります。日本銀行はそういう組織ではないはずです。こうした認識が事実であるとすれば、これも「法(のり)」を超えた発言と言えるのではないでしょうか)。

平成29年頃の幹部や職員の皆さんがどういうメンバーと状況になっているか分かりません。中央銀行に対する国民からの信頼を維持するためにも、「李下に冠を正さず」の精神で、将来的に問題の起きないルールを自主的に決めて頂くことが必要だと思います。

速水総裁の任期はあと僅かになりました。ご高齢の身にはたいへんな激務だったと思います。あと少しです。頑張ってください。速水総裁時代に行われた「中央銀行による株取得」という勇断の評価は、後世の事実によって左右されます。速水総裁には、残された任期の中で万全のルール作りをして頂くことを期待したいと思います。

(了)


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