政治経済レポート:OKマガジン(Vol.37)2002.11.25

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


皆さん、こんばんは。議員会館705号室からメルマガをお送りしています。外は雨です。すっかり寒くなってきました。風邪などをひかないように、くれぐれもご自愛ください。

1.雇用保険料率引き上げ見送り:代替財源確保か給付削減か?

先週末(22日)、政府は雇用保険料率(現行1.4%、労使折半)の引き上げを見送る方針を固めました。当初、来年6月に1.6%に引き上げることを計画していたようですが、景気低迷の折から、企業や勤労者の負担を増やし、景気に悪影響を与えると考えたようです。適切な判断だと思います。

しかし、このあとが問題です。失業率の上昇から、雇用保険財政は破綻寸前です。このままでは、来年度の雇用保険特別会計(注)は約4300億円の資金不足となります。穴埋め財源である雇用保険積立金もなくなりかけています

(注)正確には「労働保険特別会計雇用勘定」と言います。

さて、そこで政府の選択肢はふたつしかありません。ひとつは、代替財源を用意して現在の給付水準(失業手当等)を維持すること、もうひとつは、給付水準を削減することです。しかし、現在の景気情勢、雇用情勢からすると、給付水準を削減して雇用のセーフティネット(安全網)を縮小することは適切な対応とは言えません。政府の採るべき選択肢は、明らかに前者しかありません。それでは、代替財源としては何があるのでしょうか。

まず第1は、来年の通常国会冒頭で議論されることになった補正予算の一部を財源に充てることです。補正予算規模は6兆円、そのうち1兆5千億円はセーフティネット強化策の財源です。ここから捻出することが考えられます。しかし、雇用保険以外の使途もありますので、捻出できないかもしれません。その場合、与党の要請で5千億円の上積みが行われた公共事業予算(1兆5千億円)の一部を回すことが考えられます。全ての公共事業が全く景気浮揚効果がないとは言いません。ただ、過去のメルマガでもお伝えしているとおり、「無駄な公共事業(=一部の悪徳政治家や悪徳官僚の利権的な公共事業)」よりは、雇用保険財源に回す方が、国民に与える心理的な景気浮揚効果、安心効果は大きいでしょう。

このほか、既存の雇用対策財源の余剰資金を活用することが考えられます。例えば、鳴り物入りで導入された退職前長期休業助成金、建設業労働移動支援助成金などです。いずれも、過去にごく僅かしか利用者がいないそうです。いったい、確保していた財源はどうなったのでしょうか。ほかにも、新規成長分野雇用創出特別奨励金や、昨年度の補正予算で実行された緊急地域雇用創出特別交付金などもあります。これらの実情を徹底的に精査する必要があります。

筋が違うとは言え、続々と出てくる外務省の不正プール金なども雇用対策に回したいものです。いずれにしても、明日(26日)の財政金融委員会で塩爺に聞いてみます。

2.長期金利と経済政策運営:どっちに転んでも大変

塩爺に聞いてみたいことは、もうひとつあります。それは、今後の長期金利に対する考え方です。読者の皆さんも一緒にお考えください。

景気がよくなった場合はどうでしょう。景気がよくなれば長期金利は上昇します。では、景気が悪くなった場合はどうでしょう。これには、日本の国債発行残高が400兆円近くに及んでいることが影響します。先々、景気対策の財源確保のためにさらに国債が増発されれば、国債市場の需給が緩和して、長期金利は上昇するかもしれません。

景気がよくなっても、悪くなっても、長期金利が上昇するかもしれない。実は、このことが今の日本経済には非常に重要な意味を持ちます。

長期金利が上昇すると、国債の発行コストが上昇し、国の公債費が増加します。つまり、財政運営がますます苦しくなります。また、日銀や市中銀行が国債を大量に保有しています。したがって、長期金利が上昇(国債価格が低下)すれば、日銀や市中銀行は多額の損失を被ることになります。

こうした状況下、今の政府には、長期金利を上昇させないような経済政策運営が求められています。国債30兆円枠の意義は、長期金利を上昇させないための「財政規律維持の決意」を示す、「政府から国民へのメッセージ」だったと言えます。

しかし、補正予算編成の方針が決まったことから、「メッセージ」は雲散霧消しました。今までよりも、長期金利の上昇リスクが高まりました。それでは、政府はこれからどうやって長期金利を上昇させないような経済政策運営をするのでしょうか。

それは、上記1.の話題で触れたような財源不足に対して、政府がどのような姿勢で臨むかにかかっています。選択肢は基本的に5つです。第1は国債増発(民間部門による国債消化)、第2は増税、第3は日銀の利用(日銀による実質的な財政ファイナンス、国債の直接・間接の引受けも含みます)、第4は政府部門の資産売却、第5は歳出削減です。

どれがもっとも適切かは断定できません。政府の腕の見せ所です。いろいろな組み合わせがあるでしょう。しかし、個人的には、もっとも優先すべきは第5の歳出削減だと思います。無駄な歳出(外務省への過大な予算、無駄な特殊法人・公益法人への歳出等)を削減すれば、かなりの財源が確保できると思います。

今の日本の経済情勢下では、「歳出削減=緊縮政策」という伝統的な理解は必ずしも正しくありません。税や国債というかたちで、民間部門から資金を巻き上げ、ほとんど意味のない政策や事業に浪費する方が、むしろ景気を悪化させます。歳出削減や減税は、「自己増殖している公的部門の縮小=活動資金を収奪されている民間部門の再生」を意味します。

いずれにしても、この点も、明日(26日)の財政金融委員会で塩爺と議論してみます。

(ご参考)経済学にご興味がある方向けへの追加コメント:この問題は、ちょっと専門的に言えば、「リカード的世界」、「非リカード的世界」のいずれを想定して経済政策運営を行うか(=つまり、国債発行は景気に中立、マイナス、プラスのいずれと考えるか)ということと関係しています。また、「非ケインズ効果」(=国債発行により景気対策が、むしろ国民に経済破綻の危機感を感じさせる効果)の現実性をどのように考えるかということとも関係しています。この点も塩爺に聞いてみたいと思います。

3.日本の国際経済戦略:2つの戦術

11月20日の国際問題調査会で、日本とアジアの「経済交流」をいかに活発化するかという点について議論しました。当日は、外務省と経済産業省から、日本・ASEAN包括的経済連携構想、東アジア経済統合、中国のWTO加盟について、日本政府の現時点での考え方が説明されました。

「経済交流」という語感には、日本が「日の出の勢い」だった70〜80年代のように、アジア諸国を高いところから見おろしているような響きがあると感じるのは僕だけでしょうか。今やアジア諸国の多くは、貧富の差が激しいという国内問題を抱えつつも、国際経済競争の観点では、日本の強力なライバル国となっています。そうした中で、ASEAN諸国を自国の経済圏に取り込むことを企図して、中国や米国が積極的なアプローチをかけているほか、EUも関心を示しています。二国間経済提携(自由貿易地域=FTA)の面で、日本が中国の遅れをとっていることはご承知のとおりです。

「経済交流」というイメージを脱却し、厳しい「国際経済競争」をいかに勝ち抜くかという意識が必要です。

「国際経済競争」を勝ち抜くためには、具体的な戦術(=闘う手段、あるいは方針)が必要です。今日振り返ってみれば、プラザ合意(85年)以降の米国が、BIS基準(銀行に対する自己資本比率規制)と国際会計基準の2つのグローバルスタンダードを武器に市場を席巻したことは明らかです。米国自身にそうのような明示的な意思があったかどうかは推測の域を出ませんが、結果的にそのように整理できると思います。

世界の変化に対応できず、従来型の政治経済運営をしていた日本は「まんまとハマッた」と言えます。日本の指導者の結果責任は大きいと言わざるを得ません。

中国は、自国通貨安と安価な労働コストを武器に市場を制覇しつつあります。経済力が向上しているにもかかわらず、固定相場制を維持しようとしています。内陸部から臨海部(経済発展地域)に労働力を移動させ、しかも単純労働の賃金を一定水準以下に事実上規制しています。

さて、日本はどのような戦術を選択すべきでしょうか。国際問題調査会の席上で、僕としては2つの戦術を推奨しました。第1は、安全基準の普及です。中国や東南アジア諸国の農産物や工業製品等は、そうした点(農薬規制や品質基準等)でまだまだ懸念があります。日本としては、安全基準を日本発グローバルスタンダードとして定着させることで、日本産業の相対的競争力を向上させるとともに、安全基準の内容をアジア諸国との交渉カードに使うことが得策と考えます。

第2は、円安の推進です。とは言っても、日本が「円安にしてください」とお願いしても、中国や米国も「はい、そうですか」と言う訳にはいかないでしょう。自然に円安が実現される工夫が必要です。そのためには、国際金融市場における「円」の流通量を増やすことが不可欠です。具体策としては、貿易における円建決済比率を高めること(円でなければ取引しないというやや強引な策も必要かもしれません)、ODAを全て円ベースで実行すること等々を通じて、海外の経済主体の「円」の保有インセンティブを高めることが求められます。要は、アジア諸国通貨の「円ペグ」(円とリンクしていること)傾向を強め、円が基軸通貨(キーカレンシー)的な役割を果たすようになれば、自然に円安は進むと思います。日本政府(日本株式会社の経営陣)が、そのような方向にどうやって誘導するかが問われます。

外務省、経済産業省のみならず、農業問題になれば農水省、通貨問題になれば財務省・日銀等々、縦割り組織で対応していては、日本株式会社が「国際経済競争」を勝ち抜くことはできません。米国通商代表部のように、一元化された戦略部隊(対外交渉窓口)が必要です。

(了)


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