政治経済レポート:OKマガジン(Vol.56)2003.9.7

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


阪神の優勝マジックはいよいよ「6」になりました。少々気が早いですが、阪神ファンの皆さん、おめでとうございます。中日ファンとしても、星野監督率いる阪神は兄弟チームのような感覚です。まあ、民主党と自由党のような関係です(我田引水でしょうか・・・)。

1.マジック(1):名目成長率2%

さて、マジックと言えば、政治や経済でも摩訶不思議なことがいろいろと起きています。小泉首相が公約にするかもしれないと報道された名目成長率2%もそのひとつです。

そもそも、それをどうやって実現するかについては何も情報がありません。手段が種明かしされないところは実にマジック的です。仮にできるとしたら、なぜ今までやらなかったのでしょうか。練習していたのでしょうか。

ところで、成長率の前に「名目」とつけたところはさすがマジシャン小泉です。竹中さんのアドバイスでしょうか。実は、名目成長率=実質成長率+GDPデフレーターという関係にあります。

企業に置き換えてみます。社長が「今期の売上げを2%向上させる」と約束したとしましょう。ある社員が聞きました。「社長、それは販売数を2%増やすということですか、それとも単価を2%上げるということですか」。

そう、上記の名目成長率の式はこれと同じ関係にあります。名目成長率2%が仮に実現できたとしても、実質成長率0%、GDPデフレーター(つまりインフレ率)2%という組み合わせもあります。「それでもいいじゃないか」というご意見もあろうかと思いますが、その場合、インフレ率2%をどうやって達成するのでしょうか。日銀にそれを約束させるということでしょうか。そうであるなら、いよいよインフレターゲティング政策に踏み切るということですね。

経済政策にとってより重要なのは、潜在成長率と実質成長率の関係です。つまり、「日本は本来どのぐらい成長できる力を持っているのか」、そして「時の政権がそれをどのぐらい現実のものにできているのか」ということです。秋の臨時国会では、成長率マジックについてしっかりと議論したいと思います。

2.マジック(2):年金制度改革

一昨日(5日)、坂口厚生労働大臣が来年の年金制度改革の試案を発表しました。秋以降の重要な争点です。

ポイントは3つです。150兆円の過去の積立金を取り崩して今後の給付に使う、今後の給付水準を現役世代の55%とする(現在は59%)、保険料の上限を年収の20%とする(現在13.58%)ということのようです。

さて、崩壊寸前の年金制度は、これでマジックのように立て直せるのでしょうか。今回の試案は、あくまで現行制度を前提としています。過去に何度も現行制度を前提とした変更を行ってきました。しかし、年金受給開始年齢が「逃げ水」のようにドンドン後ろ倒しになってきました。まさしくマジックです。

制度改革に失敗してきた過去の政治家、官僚の皆さんは、言ってみればステージの上で何度もマジックを失敗したマジシャンたちです。でも、まだそのマジシャンがステージの上にいます。「さあ、皆様、今度は驚くべきマジックをご披露致します。真っ黒な年金制度がパッと真っ赤なバラ色に変わります」と言われても、「へぇ〜、できるならやってみたら」という感じです。

150兆円は本当に今もあるのか、特殊法人や公共事業に援用して焦げ付いているのではないのか。給付水準引き下げや保険料引き上げを打ち出す前に、無駄な歳出を止めて年金財源を捻出できないのか。年金財源で高額の退職金を得たり、企業の厚生年金基金に天下ってノホホンとしてきた「年金官僚」の責任はどうなるのか。これまでのマジックの失敗の原因と責任を明らかにしなくては、新しいマジックの成功など到底信用できません。

少なくとも、民間企業の年金制度と公務員の年金制度は一本化する必要があります。つまり、公的な国民年金制度はひとつであるべきです。そのためには、まず、各分野の現行年金制度の実態を明らかにすることが第一歩です。

料金(保険料)を払ってマジック(年金制度)を楽しみにしている観客(国民)の皆さん、今度は騙されないでください。マジシャン(政権+官僚)を交代させてみるのも一興ですよ。

3.マジック(3):株高と債券安

株価が上昇してきました。結構なことです。その背景に、年金財源や財投資金(=皆さんの郵便貯金)を流用した政府のPKO(プライス・キーピング・オペレーション=価格操作)がないことを祈ります。

株価上昇が、日本の潜在成長率や実質成長率の向上、あるいは企業業績や家計所得の本格的な回復に裏付けされたものであるならば大歓迎です。しかし、裏付けがなければマジックです。今回の株価上昇が本物か偽物かについても、秋の国会論戦の中で確かめなくてはなりません。

株高の背後で、債券安=金利上昇が始まっているのは心配の種です。金融機関経営への影響は深刻です。とくに地方金融機関が心配です。株式保有額が少ないために株高の恩恵をあまり受けられない一方で、最近は債券(国債、地方債)保有額を高めていたからです。

ざっと計算してみた印象としては、金融機関全体で株高による含み益増加と債券安に伴う含み損増加は2兆5千億円程度でほぼ拮抗(きっこう)しています。「さあ、真っ黒な紙が一瞬にして真っ白になりました」というマジックも、何のことはない、裏表で色が違う紙をひっくり返しただけかもしれません。心配の種がマジックの種だったなどということにならないことを祈ります。

株価上昇を本物にするためには、貴重な政策財源を無駄遣いすることなく、産業競争力強化や国民の将来不安解消のために適切に使うことが必要です。それによって、設備投資や個人消費が回復するとともに、日本企業に対する内外の需要が本格的に好転し始めるのです。

経済政策にマジックはありません。事実を隠蔽(いんぺい)しないこと、論理矛盾した政策を行わないことが大前提です。経済政策のステージから、過去に何度も失敗したマジシャン(政権+官僚)にはそろそろご退場頂くことが必要かもしれません。

(了)


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