政治経済レポート:OKマガジン(Vol.68)2004.3.13

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


参議院の予算審議が始まりました。衆議院の審議の中で竹中大臣が「野党も経済見通しを出したらどうですか」と発言されたのを受け、3月11日(木)の参議院予算委員会の場で、政府案よりも財政健全化志向の強い前提を置いて、マクロモデルによる推計結果を公表させて頂きました。推計に当たってご協力頂いた外部研究者の方々に心より御礼申し上げます。

1.不可解(1):詳細不明の内閣府推計

推計結果をみると、国と地方のプライマリーバランス(PB)が均衡するのは2015年度でした。PBとは公債費を除いた一般会計予算の収支のことです。家計に喩えると、借金の利息支払いを除いた1年間の収支のことです。これが均衡したり、黒字にならないと、財政も家計も健全化しません。

さて、今回の推計では、相当楽観的なシナリオを前提としたうえで、さらに、2007年度と2011年度の2回にわたって消費税率を引き上げるという内容を盛り込んで、ようやく2015年度にPBが均衡しました。もちろん、2007年度には年金制度の抜本改革を行っているほか、高速道路無料化の影響なども加味しています。地方への税源移譲も相当大胆に行っています。

一方、内閣府の推計では2013年度にPBが黒字化するとしていますが、データそのものは2008年度分までしか公開されていません。予算委員会で「内閣府推計では消費税率を上げているのですか」と質問したところ、「上げていません」との回答でした。それでどうして2013年度にPBが黒字化するのでしょうか。内閣府の推計には多くの疑問があり、信頼性が著しく乏しいと言わざるを得ません。まるで戦前の大本営発表のようです。

おまけに、財務省は異なる見通しを発表しています。しかも、「内閣府推計は楽観的すぎる」という趣旨の説明をマスコミに対して行っています。同じ政府内の組織が正反対のことを言っているのは、まったく困ったことです。

内閣府推計は詳細不明であり、どうして2013年度にPBが黒字化するのか全く分かりません。不可解極まりないとしか言いようがありません。大本営発表で国民を騙し、たいへんな戦禍を招いたのと同じように、デッチあげの数字で国民を騙し、日本経済を崩壊させないことを祈ります。内閣府関係者の良心に期待したいものです。なお、この件に関する詳しい話は来週発売の週刊東洋経済の「論点」のコーナーに寄稿しています。ご興味のある方は是非ご覧ください。

2.不可解(2):根拠不明の年金積立金運用利回り

ところで、去る2月10日、12日の衆議院予算委員会では、岡田克也幹事長と池田元久議員が名目長期金利(r=公債利子率)と名目成長率(n)の関係について竹中大臣と質疑を行いました。成長率が長期金利より高ければ、財政は徐々に健全化します。なぜなら、税収の伸びが借金(公債)の利払いの伸びを上回るからです。こういう状態を満たすことを、経済の世界では「ドーマー条件を満たす」と言います。「ドーマー」というのは経済学者の名前です。

さて、竹中大臣は過去30年間の平均値(nは6.5%、rは5.6%)を根拠に、成長率が長期金利を上回る状態が一般的であると主張しました。しかし、過去20年間の平均値を調べたところ、nは3.6%、rは4.9%でした。竹中大臣の言い分とは逆の結果です。また、他の先進国のデータをみても、成長率が長期金利を上回るのはごく例外的なケースです。竹中大臣は、成長率が長期金利よりも大きい状態を一般化することによって、PBが内閣府推計のように収束するということを述べたかったのでしょう。大本営発表はいけませんね、竹中さん。反省を求めます。

でも、もっと驚くべきことは、今国会の最大の争点である年金制度改革との関係です。現在、過去の年金保険料の積立金147兆円が無駄遣いされていた実態が次々と明るみに出ていることはご承知のとおりです。政府は「無駄遣いを行っていた年金運用基金を独立行政法人化して、今後は十分な運用収益をあげます」という案を示していますが、特殊法人を独立行政法人にしたから急にうまくいくという主張は全く根拠がありません。

さらに問題なのは、独立行政法人化された新組織が実現すると言っている予想運用利回りです。何と、内閣府推計の将来の成長率よりも高いのです。竹中大臣が主張するように長期金利よりも成長率が高く、さらにその成長率よりも年金積立金の運用利回りが高くなるというのは、あまりにも出来過ぎた話です。まさしく大本営発表です。

財務省と内閣府の見解の不一致、内閣府推計と厚生労働省の主張の矛盾、こうした不可解な事態を生み出しているのは小泉首相の責任です。丸投げにもほどがある。政策の詳細を自分の頭で理解しようとせず、全てにおいて「よきにはからえ」ではあまりにヒドすぎる。小泉首相にも大いに反省を求めたいと思います。

年金運用基金の独立行政法人化、新組織による高い運用利回り獲得のためのハイリスク運用など、政府の年金制度改革案は承服できません。積立金の縮小、年金運用基金の解体、ローリスク運用と民間事業者への分散委託の方向で、早急に対案をまとめたいと思います。

3.不可解(3):年金保険料督促推進員の急増

さて、マクロモデルを使って経済の先行きを推計する際に、「社会保障基金消費支出」という項目を徐々に少なくしていくような設定をしました。これは、社会保険庁の事務費や人件費を少なくすることを想定したものです。一方、内閣府の推計では、この項目は計算によって自動的に決まってくる仕組みになっているそうです。ちょっと難しい言い方かもしれませんが、私たちの推計では外生変数、内閣府推計では内生変数になっているということです。内閣府推計でこの項目がドンドン膨らむような内容になっていないことを祈ります。

国民の皆さんの財産である年金積立金が、この「社会保障基金消費支出」に該当する社会保険庁の事務費や人件費に流用され、ヒドイ無駄遣いをされていたことがドンドン明らかになっています。中でも、人件費の急増ぶりには目に余るものがあります。

同僚の長妻昭衆議院議員が政府に対して出した質問趣意書によって明らかになったことですが、年金保険料未納者への督促事務を行う推進員の人件費が3年間で90倍に膨れ上がっていました。

保険料を督促すること自体はけっこうなことです。しかし、この推進員という人たちは本当に働いているのでしょうか。推進員制度は2001年度に導入され、最初は389人でしたが、今では2566人になっています。1人当たりの人件費は、当初の19万円から250万円に急増しています。その一方で、保険料徴収率は10%以上も低下しています。まったく不可解なことです。

現時点では推測ですが、おそらく推進員の大半は(ひょっとすると全員)社会保険庁のOBでしょう。年収250万円と言えば、年金受給金額より多額です。社会保険庁OBの年金受給開始までのつなぎ、あるいは受給開始後の所得嵩上げを狙った制度でないことを祈ります。近日中に国会審議の中で確認させて頂きます。

(了)


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