政治経済レポート:OKマガジン(Vol.70)2004.4.14

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


前代未聞の超金融緩和政策の下で、原材料や農産物の市場価格の高騰が目立ってきました。異常なこと(政策)は異常なこと(現象)に繋がる・・・政策当局にはバブルの経験から学んだはずの教訓を活かしてもらいたいものです。また、政策の根拠と責任の所在を明らかにしてほしいと思います。無責任はいけません。

1.中途半端(1):保険事業と社会保障

イラク情勢の影響ですっかりかすんでしまいましたが、国会では年金制度改革を巡る論戦もヒートアップしています。破綻同然の年金制度を立て直すには抜本改革が必要です。

現在の年金制度は3つの点で中途半端な構造を抱えています。それらの改善なくして、年金制度の再生はありえません。

第1は年金制度の定義です。前号でも少しとりあげた話題ですが、もう1度ご説明します。すなわち、年金制度は社会保障なのか、単なる保険事業なのか、その点が明確ではないのです。

平成9年度から、年金事業(社会保険庁)の事務費(経費)を皆さんが納めている保険料(積立金)で賄うことが認められています。財政難のために始まった特例措置がずっと続いています。何か変ですね。

国会では、谷垣財務大臣が「年金は保険事業であり、事業経費を事業収入から賄うのは当然」という答弁を繰り返しています。谷垣発言を素直に解釈すれば、日本の年金制度は保険事業であり、社会保障ではないことになります。

戦前に年金制度がスタートした頃は民間保険会社が未発達でした。したがって、国が年金制度を運営する意味もありました。しかし、民間保険会社が発達した今日、年金制度を保険事業と定義するならば国が運営する必然性はありません。せいぜい、民間保険会社が破綻した際のセイフティネットを整備するだけで十分でしょう。

一方、社会保障と定義するならば、谷垣発言は間違っています。社会保険庁の経費を保険料収入で賄うのは不適切です。公共政策としての社会保障であるならば、財源は税で賄い、関係経費は予算に計上するべきでしょう。さて、日本の年金制度は保険事業でしょうか、それとも社会保障でしょうか。

2.中途半端(2):積立方式と賦課方式

第2は、積立方式(自分の保険料を貯めておく方式)か、あるいは賦課方式(現役世代が引退世代を支える方式)か、という点です。

日本の年金制度は当初は積立方式を目指していました。ところが、1970年代以降、政治的配慮(=選挙を睨んだ人気とり)のために、給付引上げが断続的に行われ、だんだん賦課方式の色彩が濃くなってしまいました。

つまり、形式上は積立方式であり、多額の積立金を抱える一方、現実には制度変更のたびに賦課方式の傾向を強めていったのです。このため、日本の年金制度は「修正積立方式」と言われています。実に中途半端です。

政府は国民に対して基本的には「日本の積立方式です」と宣伝し続けました。もっとも、少子高齢化の進展や人口推計の失敗が重なり、たびたび保険料の引上げと給付の引下げを余儀なくされましたが、そういう際には「年金制度は賦課方式だから仕方ありません」という方便を使いました。

都合よく両者を使い分け、国民に正しい認識を定着させなかった政府の罪は重いと言わざるを得ません。

3.中途半端(3):確定拠出と確定給付

第3に、確定拠出(保険料が固定されている)か確定給付(給付金が固定されている)かが明確ではありません。

建前としては確定給付を採用しています。したがって、少子高齢化が進めば保険料を引上げざるを得ません。しかし、ここでも、過去、何度も何度も、政治的配慮(=選挙を睨んだ人気とり)のために保険料引上げが回避されてきました。その結果、将来の給付分の財源が確保できないという事実上の破綻状態に陥ってしまったのです。

昨年9月、社会保障審議会年金部会が「保険料固定方式に移行すべきだ」という提言を行いました。正しい主張です。

それを受け、今回の政府改革案では初めて保険料上限が設定されました。それが、新聞やニュースでよく報道されている厚生年金が年収の18.30%、国民年金が月額16900円という数字です。2017年度にその水準に達する見込みです。

ところが、法案の最後には妙な一文が挿入されました。曰く、「現役世代収入の50%を上回る給付を確保する」という付則(=つけたしの約束)です。

保険料上限を決める一方で給付の下限も保証し、結局、確定給付と確定拠出が混在したままです。実に中途半端です。

4.中途半端とはサヨウナラ

以上のように、日本の年金制度は、依然として「社会保障的な保険事業」、「修正積立方式」、「拠出も給付も未確定方式」という何とも得体の知れない中途半端な姿のままです。いやいや、むしろその傾向が強まっています。これでは現役世代や将来世代の信頼を得ることはできません。

もう時間的余裕はありません。この際、抜本改革をしたらどうでしょうか。国民年金、厚生年金、共済年金を一元化し、簡素な2階建て年金制度に移行することをお奨めします。

1階部分は間接税を財源とする「最低保証年金」とします。社会保障、賦課方式、確定給付の性格が強い制度です。保険料未納者問題、つまり国民の間の不公平が解消できます。

2階部分は保険料率固定の「所得比例年金」とします。保険事業、積立方式、確定拠出の色彩が濃い年金制度です。いずれは私的年金制度に移行することも可能です。人口動態が安定した後には、2階部分の選択は国民の自主的判断に委ねることが肝要だと思います。

日本という国は、いつの間にか無責任で中途半端な国になってしまいました。そろそろ、そうした体質ともサヨウナラをしたいものです。皆さん、そう思いませんか。

(了)


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