政治経済レポート:OKマガジン(Vol.81)2004.9.27

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


今日は内閣改造が行われました。注目されていた郵政改革担当大臣は竹中さんが就任しました。さて、これから郵政公社の民営化を巡って、どのような展開になるのでしょうか。この問題については、メルマガVol.58(2003.10.4)で基本的な考え方をお示ししました。ホームページにバックナンバーがアップしてありますので、もう一度ご覧頂ければ幸いです。今回は、9月10日に閣議決定された「郵政民営化の基本方針」(政府案)の内容を受けて、続編を送信させて頂きます。

1.「入口」問題と「出口」問題

まずは復習させてください。Vol.58をご覧頂いた読者の皆さんにはお分かりのとおり、郵政問題には、「入口」問題と「出口」問題の2つがあります。

「入口」問題は、郵政公社が資金を集めすぎて、民間金融機関の経営を圧迫しているというものです。

一方、「出口」問題は、国民の皆さんからお預かりした貯金(郵貯)・簡保の資金が、特殊法人や独立行政法人に渡ってムダ遣いされているということです。

ここまでの数行を読んでお気づき頂ければ幸いですが、「郵便」という言葉は一度も出てきません。郵政公社の行っている郵便、貯金、簡保の3つの業務のうち、郵便事業を民営化することは、「入口」問題にも「出口」問題にも、直接は関係ないと言えます。

「出口」でムダ遣いされる資金は、全て国民の皆さんの税金です。なぜなら、特殊法人や独立行政法人に渡された資金が返ってこなければ、最終的には税金で穴埋めして、貯金や保険の預入者、契約者に全額返済しなければならないからです。

2.郵政改革は財政金融問題

さて、「入口」でたくさんの資金が集められ、それが「出口」でムダ遣いをされると、その悪影響はムダ遣いにとどまりません。

郵政公社が「入口」で資金を集めすぎるということは、本来は民間金融機関に回る資金が少なくなるということです。そして、民間金融機関に回る資金が少なくなるということは、企業や個人に貸し付けられる資金が少なくなるということです。「入口」問題は、実は企業の資金繰りにも悪影響を与えているのです。

民間金融機関の皆さんは、長い間、この点を指摘しています。もっともな指摘です。でも、民間金融機関の皆さんにも、ひとことお願いをしておかなくてはなりません。「入口」問題が解決され、貯金や簡保の規模が縮小し、民間金融機関に預けられる資金が増えたとしても、それをシッカリと企業融資に回して頂かなくては、問題解決につながりません。

増えた資金で国債を購入したり、特殊法人や独立行政法人、あるいは第3セクターや公益法人ばかりに融資するようでは、貯金・簡保経由でムダ遣いされている構図となんら違いはありません。

ところで、政府案では、「企業の資金繰りに回る資金が少ないというのならば、郵政公社が融資業務を行えばいい」と主張しています。・・・小泉さん、竹中さん、それとついでに生田総裁に申し上げますが、それは止めた方がいいと思いますよ。郵政公社の皆さんはそういうトレーニングを受けていませんし、かなり無理があると思います。読者の皆さんは、どのようにお感じでしょうか。

「出口」問題、つまりムダ遣いの是正策については、驚くべきことに、今回の政府案では何も触れられていません。郵政改革の本質が「出口」問題であることは明々白々であるにもかかわらず、この点に本気で取り組もうとしていないところが、政府案の最大の問題点です。

いずれにしても、郵政改革が、実は財政金融問題であることがお分かり頂ければ幸いです。新聞やテレビは、郵政公社を民営化するかどうか、職員の身分が公務員のままかどうかといった点ばかり報道していますが、それは問題の本質ではありません。的確な報道とは言えません。

3.「目的」と「手段」:「代替」と「補完」

ここまで読んで頂いてお分かりのとおり、郵政改革の「目的」はムダ遣いと歪んだ金融構造の是正です。「目的」達成のために「手段」を駆使するのであり、「目的」そのものに言及していない「手段」とは、いったい何のための「手段」なのでしょうか。僕にはサッパリ理解できません。

ところで、郵政の金融事業(貯金・簡保)は、明治時代の郵政事業開始当時から存在していました。当時の国会における政府の説明によれば、「下級の多数の細民への補完」としてスタートしました。

明治時代は民間金融機関が未発達な時代でした。したがって、民間金融機関を利用できない国民、あるいは、民間金融機関の店舗がない地域(金融過疎地域)の国民への「補完」的な公共サービスの提供を「目的」としてスタートしたのです。

ところが、今回の政府案では、民間金融機関と競争させることを「目的」としています。こういう場合、民営化された郵政公社は、民間金融機関を「補完」するものではなく、「代替」する存在となってしまいます。郵政事業は、いつから「補完」から「代替」に「目的」が変質してしまったのでしょうか。

「郵便」事業の民営化は郵政改革の「目的」と何ら関係がないこと、郵政事業の「目的」は「代替」ではなく「補完」であることを再認識して、これからの論戦に臨みたいと思います。小泉さんは、はたしてこうした原理原則を理解できているのでしょうか。

郵政改革の「目的」、すなわち、ムダ遣いと歪んだ金融構造是正のための「手段」が、本当に今回の政府案の内容でいいのかどうか、そして小泉首相や竹中大臣が本当に「目的」を達成する気があるのかどうか、そういう点をシッカリと見極めたいと思います。

(了)


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