政治経済レポート:OKマガジン(Vol.88)2005.1.10

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


皆さん、明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い致します。今年は酉年。酉(鳥)は予知能力が高いことから、酉年は先行きの情勢を占う年とも言われます。先行きを予測するためには、事実を冷静に整理、分析することが必要です。成功は希望的楽観からは生まれません。政策においても、経営においても、善後策は客観的分析のみから創造されます。年頭に当たり、日本の先行きにとって重大な影響を与える2点について、改めて冷静に見つめ直してみます。

1.人口

政府の人口見通しでは、2007年から日本の人口が減り始めることになっています。これは、国立社会保障人口問題研究所の中位推計に基づく予測です。

しかし、過去の実績データは、どちらかと言えば、同研究所の低位推計の方に近い、あるいは低位推計以下であるのが実情です。日本の人口は昨年中にピークアウトし、既に減少過程に入っているという見方もあります。

日本の歴史において、戦争や天災、飢饉などの特殊な事情以外で、人口が減少したことはありません。有史以来、初めての出来事です。

人口が減れば、国内の経済的需要も当然減少。あらゆる産業で需要不足に直面します。その結果、売上減少に伴う企業業績悪化、人件費削減に伴う勤労者所得減少など、経済はダウンスパイラルに突入します。

企業、個人とも所得が低迷し、税収も減少します。その結果、財政赤字もより深刻化する可能性が高いでしょう。

「新年早々、辛気臭い話ばかりするな」という読者の皆さんの声が聞こえてきそうです。申し訳ありません。しかし、これが現実です。

理論的には、人口減少分を補うだけ、企業の資本収益率と個人の生産性が向上すれば、経済も財政も悪化しません。しかし、それをあたかも容易に実現できると主張することは、希望的楽観というものです。

ジョージ・ソロス氏と一緒に「クォンタム・ファンド」(有名な投資ファンド)を設立したことで高名なジム・ロジャーズ氏が含蓄のある発言をしています。曰く、「企業や国民の生産性を高めれば、人口減少下でもプラス成長が可能だと主張する政治家がいるとすれば、それは嘘つきか、頭が悪いか、あるいはその両方だ」。考えさせられます。

2.物価

分析が必要な事態はほかにもあります。物価です。

このメルマガでも何度もお伝えしていますが、現在の金融情勢は異常です。過去、経験をしたことのない超金融緩和政策が続いています。バブル時代以上です。にもかかわらず、本格的なデフレ解消の気配は感じられません。

原材料市況、あるいはREIT(不動産投資信託)など、局地的には物価上昇の動きも見られます。そのことが、超金融緩和政策が続いている傍証です。しかし、国内経済全般に亘る健全な物価上昇の動きには繋がっていません。

従来の経済政策理論では説明のできない事態です。それもそのはず。過去に例のない事態が起きているのですから、過去の理論や政策で対処しようとするところに無理があります。あるいは、この事態を解決するという「目的」に対して、現在選択されている「手段」が適していないのかもしれません。

前段の人口問題の視点から考えれば、こうした事態も合点のいく話です。人口減少に伴う需要不足がデフレの主因でしょう。加えて、その人口減少に適切な対処ができないために国民の将来不安を高め、財布のヒモを固くすることで一段と需要不足になるというダウンスパイラルに陥っています。そう考えると、人口減少対策が急務です。

ジム・ロジャーズ氏に批判されるかもしれませんが、あえて対処方法を整理してみます。ひとつは人口増加に直結する移民等の外国人受入増加、もうひとつは海外需要の開拓(従来の表現で言えば、輸出ドライブ。批判的な言い方としては、近隣窮乏化政策)、それでもだめなら、やはり企業と国民の生産性向上。

是非は別にして、論理的に考えると基本的な選択肢はこの3つしかありません。

バイオやIT、金融など、新たな需要を開拓する産業を創造するのが王道です。しかし、それとても人口減少の中で、国内需要だけでは日本経済の縮小均衡を抑止することは容易ではありません。やはり、海外需要に依存せざるを得ません。

しかし、そもそもそういう産業を創造できるのでしょうか。例えば、このメルマガでもとりあげている厚生労働省の医薬品医療機器総合機構(独立行政法人)。この組織が新薬等の認可手続きに時間とコストをかけすぎるために、日本の医療、バイオ関係企業は新製品や新技術の開発にドンドン後ろ向きになっています。これでは国際競争力も低下します。

デフレ打開のためには需要開拓。そして、需要開拓のためには産業活性化。だからこそ、産業活性化の障害要因除去、これこそが構造改革です。この原点に立ち返って、通常国会の論戦に臨みたいと思います。

3.本質的対応

とは言うものの、もっと本質的な対応は、人口を増やすことです。上述の外国人受入増加も一案。しかし、日本人自身が増加することが、より望ましいと考える人が多いのではないでしょうか。

フランスでは、第3子以上の出産、育児に対する政策的配慮を手厚くしたことで、人口が増加に転じたと言われています。もちろん、フランスも移民の国。外国人受入増加との相乗効果かもしれません。

残念ながら、日本はそのどちらも不十分です。昨秋の臨時国会で、厚生労働省の年金数理計算では2050年の出生率が1.39と想定されていることが明らかになりました。現在1.29のものが、どうすれば1.39に高まるのでしょうか。その点を国会で質問したところ、「様々な少子高齢化対策が奏効して、2050年には1.39になる」というのが厚生労働省幹部の答弁でした。過去に一度も出生率見通しが当たらず(=常に実績が予測を下回り)、社会保障財政の行き詰まりを招いている現実を直視してもらいたいものです。

ジム・ロジャーズ氏ならずとも、「嘘つきか、頭が悪いか、あるいはその両方だ」と言いたくなります。

4.気分転換

新年です。こんな話で終わると怒られそうですから、気分転換の話題で締めくくらせて頂きます。

酉は十二支の中では、富や財を司る干支です。そのため、酉=西の方角は縁起が良いと言われています。さらに、金鶏伝説。天から舞い降りた金の鶏の光で照らされた家が繁栄したことから、日当たりの良い家、場所は栄えると言われています。このふたつから、西の方角に光る物、できれば金の鶏の置物を置くと家が繁栄するそうです。お試しください。効果は保証しません。

愛知県ではまもなく新空港(セントレア)が開港、万博も開幕します。愛知県の酉=西部に位置する空港と万博が、酉年にとって縁起の良い「金鶏」になることを期待しています。空港に飛来するのは鳥ならぬ飛行機。万博マスコットのキッコロとモリゾーは森の精と紹介されていますが、縁起を担いで鳥と関係があることにしたいものです。

酉=鳥に因む格言や四文字熟語はたくさんありますが、「一石二鳥」もそのひとつ。空港の街となる愛知県常滑市の市長は石橋さん。常滑市にとってはまさしく「一石(石橋市長)二鳥(空港、万博)」。おめでとうございます。愛知県知事は神田さん。「石」がつかないのが「残念!!」。

政治家がダジャレやお笑いを言っている場合ではない「斬り!!」。よく考えたら僕も政治家でした。「切腹!!」。

今年もよろしくお願い致します。

(了)


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