政治経済レポート:OKマガジン(Vol.93)2005.3.23

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


引き続き、ライブドア騒動についてのお問い合わせが多いので、第3弾をお送りします。とりあえずの完結編です。Vol.91からVol.93の3本の内容を踏まえ、ライブドアとフジサンケイグループのこれからの展開を観察して頂ければと思います。今回の内容は、昨日(22日)の予算委員会において、小泉首相や関係閣僚の皆さんに話した内容です。

1.1.解毒

マスコミや政治の世界では、敵対的なM&Aがどんどん増えるので、防衛策としてのポイズンピル(毒薬)を整備するのは時代の流れという情報が氾濫しています。22日に国会に提出された会社法制の改正案にも、いくつかの防衛策が盛り込まれています。

ところが、ポイズンピルの整備は時代の流れという認識は正しくないようです。

欧州(EU)では、防衛策を抑制する法律が施行されています。なぜなら、敵対的M&Aと言われるものは、必ずしも「敵対的」ではないからです。

一般に「敵対的」と言われるのは、買収される側(今回のケースで言えばニッポン放送)の経営陣が相手側(今回のケースではライブドア)の提案に同意をしていない場合を指します。

しかし、買収側が提案する内容は、買収される側の株主にとってメリットのある場合も少なくありません。買収される側の企業は、資産や利益を十分に株主に還元していないのが一般的です。ちょっと専門的ですが、PBR(株価総資産倍率)が1倍以下の企業です。そういう企業が買収のターゲットにされます。

したがって、それぞれの企業がPBRを1以上に高め、株主や従業員に資産や利益を配当や給与などで十分に還元している場合は、あまり買収を仕掛けられません。つまり、防衛策は経営陣がそうした努力をするインセンティブを低下させるため、世界の潮流は防衛策=ポイズンピルを安易に導入することを抑制する、あるいは導入しても事後にそれを消却できる仕組みを用意するのが主流となりつつあります。この分野の用語では、ポイズンピルを「解毒する」と言われています。

もちろん、ポイズンピルが完全に否定されている訳ではなく、安易に導入したり、経営陣が保身のために乱用しないように気配りをしているということです。株主や、従業員を含む企業自体をメチャクチャにするような買収者には、堂々とポイズンピルを使えばいいと思います。

いずれにしても、ポイズンピルを安易に導入することは必ずしも株主の利益にならないこと、世界の潮流はポイズンピルを解毒する方向にあることをご理解頂きたいと思います。

2.合理的買収と破壊的買収

今までの説明でお気づきの読者の方も多いことと思いますが、いわゆる敵対的買収の中にはふたつの種類があります。

ひとつは、買収した企業を切り売りするようなケースです。これこそ敵対的買収であり、こうした買収者にはポイズンピルを行使することが正当化されます。

もうひとつは、買収対象の企業(=経営陣)が、資産や従業員などの経営資源を有効活用できず、株価を低迷させ、PBRが1以下にとどまっている(=企業の資産価値以下の株式時価総額しかない)ようなケースです。このケースでは、実は買収者側の提案を受け入れた方が、その企業自体の発展や株主の利益に寄与する場合もあります。

この両者による買収をひっくるめて敵対的買収と表現しているところに問題があります。M&Aの世界では、前者をフィナンシャルバイヤー、つまり売却益だけが目的の買収者、後者をストラテジックバイヤー、つまり企業の発展のために業務提携などを目指す買収者と定義しています。

22日の予算委員会では、僕なりの表現で、それぞれ、破壊的買収者、合理的買収者と命名しました。

欧米でも、日本でも、合理的買収者は市場や投資家に受け入れられ、買収に成功するケースも少なくありません。ボーダフォン(米国)によるマンネスマン(ドイツ)の買収、ケーブル&ワイヤレス(米国)による国際デジタル通信(日本)の買収などがこのケースに該当します。

今や日本の株式売買高の半分を外国人投資家が占めています。ポイズンピルや解毒を巡る世界的潮流を誤認して、合理的な買収までも敵対視するような風潮が蔓延すると、外国人投資家から嫌気されて、日本の株価にとってマイナスになる可能性もあります。

M&Aの是非、防衛策の是非については、こうした事実を冷静に理解したうえで、考えていく必要があります。

3.ウィルス

22日の予算委員会では小泉首相に日本の株価について感想を聞きました。「安いよりは高い方がいい」と、いつもの調子の無意味な答弁しか聞けませんでした。残念なことです。

実は、日本経済全体を日本株式会社に見立てた場合、日本株式会社はそのリソース(企業の技術力、資本力、労働力など)を有効活用できていません。日本株式会社の株価はその資産価値よりも低く評価され、言わばPBRが1以下の状態です。

つまり、買収され易い状態なのです。だから、外国人投資家のウェイトが高まり、経営資本に占める外資の割合が上昇しているのです。大きな視点で観察すると、やはり経済全体も合理的な動きを示しているのです。

そのことを小泉首相に説明しましたが、あまり理解できていない様子でした。日本株式会社の社長は小泉首相です。社長がこういう状態では、日本株式会社=日本経済の外資による買収はまだまだ進むでしょう。

ところで、ライブドアが資金調達のために駆使した価格変動型の転換社債型新株予約権付社債。これは、実は野村証券が開発したMPO(Multiple Private Offering)という仕組みがルーツです。日本の株価がなかなか上昇しないので、株価が低迷していても新株発行による資金調達ができるように工夫したファイナンス手段です。言わば、株価が低迷し続けている状況の中から自然発生的に誕生したウィルスのようなものです。

ウィルスで大騒ぎして、間違った処方箋でポイズンピル(毒薬)を使用する日本。これでは救われません。

小泉首相に「どうしたいんですか」と聞いたところ、驚くことに「任せる」という答弁でした。「僕に任されても困りますね」と言っておきましたが、社長がこの調子では、社長を交代させるか、さもなくば、日本株式会社は不合理な外資の攻勢を受け入れざるを得なくなります(合理的なものは別です)。

不合理な外資の攻勢に晒されないように、社長交代を目指して頑張ります。

(了)


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