政治経済レポート:OKマガジン(Vol.116)2006.3.6


参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


同僚議員がメール問題で国民の皆様をお騒がせしましたことを、心よりお詫び申し上げます。国民の皆様の信頼を回復できるよう、自らの職務に精励して参る所存です。

さて、この週末、国内は、経済ではソフトバンクのボーダフォン買収、政治ではメール問題の顛末、スポーツではWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)開幕などの話題が報道されていましたが、その間、国際社会では静かな構造変化が起きています。日本は、国際社会の変化に鈍感になってはいないでしょうか。

1.警察官と巨象

南アジア諸国を歴訪中のブッシュ大統領は、2日(木)、インドのシン首相と首脳会談を行いました。

そこで合意されたことは、米国製原子炉をインドに売却することです。インドの核施設の軍事用・民生用の分離が条件になっているとはいえ、核の拡散に神経を尖らせている米国外交の基本に照らしてみると、ちょっと驚きです。

外交には常に当事国それぞれの目的があります。この合意の目的は何でしょうか。インド側は、米国の先進的核技術の導入と、「米国に認知された核保有国」という国際社会における地位向上を企図しています。蛇足ですが、先進的核技術と言っても、米国が「最先端」の技術を提供しないことは言うまでもありません。

一方、米国側としては何を狙った外交の一手でしょうか。インドと言えば、南北に座して対峙するのは中国。直感的に中国対策であることを思い浮かべた読者の方も多いと思いますが、まさにそれです。

中国の軍事的拡大は続いています。2006年の国防費は日本円で4兆円を超えました。前年に比べて15%の増加です。有人宇宙船、弾道ミサイル、レーダーなどのハイテク兵器につながる基礎技術研究費は科学開発費として別計上されているほか、人民解放軍系企業の利益も事実上予算になっているとの情報も勘案すると、実際の国防費は倍近い規模とも言われています。

「アジアの巨人」、中国に対抗するために、「世界の警察官」と「インダスの巨象」が戦略的パートナーになったというのが、今回の米印首脳会談の合意の意味です。経済的にもインドとの関係を深めている米国は、インドを安全保障政策の世界戦略に組み込むことを企図しています。

しかし、インドの歴史の長さは米国の20倍以上。世界史の興亡の中を生き抜いてきた巨象は、新米警察官の思惑どおりに動くでしょうか。

2.巨人と虎

ジャイアンツとタイガースではありません。インド訪問を終えたブッシュ大統領は、4日(土)、今度は隣国パキスタンのムシャラフ大統領と首脳会談を行いました。

パキスタン国境付近には、国際テロ組織「アル・カーイダ」の拠点があると言われています。米国とパキスタンはテロ対策における戦略的パートナーであることを確認した一方、パキスタンからの原子力技術に関する協力要請への米国の反応は、インドへの対応とは対照的な内容となりました。

新聞報道によれば、ブッシュ大統領は「パキスタンとインドは別の国。エネルギー需要も歴史も違う」と発言したそうです。

外交は読みと牽制のカードゲーム。こういう展開を予想していたのでしょうか。ムシャラフ大統領は先月、中国を訪問して原子力技術の協力をとりつけています。

外交は、始まりと終わりのないループのような面もあります。ムシャラフ大統領の訪中があったからブッシュ大統領が技術協力を拒否したのか、ムシャラフ大統領がブッシュ大統領の姿勢を予想していたから訪中したのか。全ての当事者が納得できる客観的な事実はありません。

いずれにしても、「ベンガルの虎」と言われるパキスタンが、「アジアの巨人」、中国と手を結んだというのが、周囲から見た風景です。

中国は、西太平洋から米国本土を射程圏内に入れる航続距離8千キロメートルの潜水艦発射弾道ミサイルの発射実験に成功しました。もちろん、地上発射の大陸間弾道ミサイルは配備済みです。

原子力技術を巡って、「警察官+巨象」と「巨人+虎」のタッグチームが形成されつつあります。日本は鈍感になっていないでしょうか。

3.白熊とアーリア人

核問題と言えば、最近の焦点はイラン。イラン国家安全保障最高会議書記のラニジャリ氏は、ブッシュ大統領が南アジア歴訪中に、ロシアとヨーロッパを訪問。1日(水)はモスクワでロシアと、3日(金)はウィーンで英仏独と核問題の協議を行いました。

米欧各国は、今日、6日(月)からのIAEA(国際原子力機関)定例理事会の結果を受けて、今週末にも国連安全保障理事会でイラン核問題の協議入りを予定しています。

米国はイランに対し、「30日以内に核関連活動を停止し、査察に協力しなければ、さらに厳しい外向的措置に直面する」という安保理声明案を準備中です。

ラニジャリ氏のロシア・欧州歴訪は、こうした動きに対する牽制であり、安保理が米国の思惑どおりに展開しないように楔(くさび)を打ちに行ったということです。

各国との話し合いの内容は想像するしかありませんが、ロシアとの間では、「イランのためのウラン濃縮をロシア国内で行うこと」を見返りに、核関連活動の一部を停止するという妥協案が議論されているようです。

ロシアはイラン核問題への対応において、表面上は欧米諸国と足並みを揃えていますが、自国の影響下でイランを制御したいと考えるのが国家としての当然の本能です。とりわけ、冷戦時代とは異なるものの、米国や中国と覇権争いを演じているロシアとしては、米国主導の安保理協議に簡単に同調するわけにはいかないでしょう。

ロシアと言えば「シベリアの白熊」、一方、イランは「アーリア人の国」という意味です。「警察官+巨象」、「巨人+虎」に連動して、「白熊+アーリア人」のタッグチームが形成される可能性があります。

この週末、国際社会の構造変化が静かに進行しています。こうした動きに対して、日本はどのように対応していくべきでしょうか。

日本は米国とは経済的に共存関係にあり、米国と歩調を合わせることが必要です。しかし、経済と言えば、日中の貿易総額は日米と同水準まで拡大しました。経済的な視点から共存関係を考えるならば、日中間も日米間と同様に重要です。

シベリアパイプラインからの原油や天然ガスの供給を考えると、エネルギー小国日本としては、ロシアと良好な関係を維持することが得策です。インドは中国の様々な経済的リスクを補う代替国として注目を浴びています。日本としても上手く付き合っていかなくてはなりません。

日本は国際情勢に鈍感になっていないでしょうか。外交に関する国会論議をもっと深める必要があります。外交を外務省任せにしていては、国権の最高機関の名が廃れます。

(了)


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