政治経済レポート:OKマガジン(Vol.122)2006.6.8


参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


株価が不安定な日が続いています。日経平均もとうとう15000円を割ってしまいました。投資家の市場に対する信頼を損ねたライブドア、中央青山、村上ファンドの3重ショックも影響していると思います。もっとも、かねてからこのメルマガでお伝えしていますとおり、経済は中長期的には理屈に合ったことしか起きません。どのようなメカニズムが働いているのかを見極めることが重要です。

1.株価の「3K」

株価の動向を見極めるうえで重要なポイントは、金利、為替、景気です。もちろん、PER(株価収益率)など、株価自身の評価に関する分析も必要ですが、まずは金利、為替、景気です。ひと頃、仕事に関して「きつい、きたない、危険」の「3K」という表現がはやりましたが、金利、為替、景気を、個人的には株価の「3K」と命名しています。

まず金利の先行き。これが不透明になってきました。ご承知のとおり、日本では日銀がゼロ金利政策をいつ解除するかが話題になっています。原油価格の高騰もあって、消費者物価も上昇気配を強めています。どうやら日本の金利は上昇しそうというのが、多くの投資家の見方です。これは、株に関して売り要因。

米国の金利はどうでしょう。グリーンスパン前議長に代わって登場したFRB(連邦準備理事会=米国の中央銀行)のバーナンキ新議長。投資家の当初の予想は、新議長は、前議長の金利引き上げ路線を引き継いで1〜2回金利を引き上げた後、米国景気の減速に配慮して金利を引き下げると見られていました。

ところが、ここにきて新議長はインフレ懸念発言を続けています。この発言が金利引き上げの継続、日米金利の同時上昇を連想させ、これも株に関しては売り要因。しかも、日米双方の株の売り要因です。

もうひとつの「K」である為替。最近はやや円高傾向です。円高だからそろそろ円の戻り売りで今後は円安と予測する人もいます。しかし、為替の動きは実に難解。

表面的な為替相場については、たしかに戻り売りの円安予測もひとつの見方。しかし、各国のインフレ動向、貿易相手国との交易状況(どの国とどのぐらいの貿易を行っているか)を調整した実質実効為替レートをみると、現在はプラザ合意(1985年)当時に並ぶ歴史的な円安水準。これが日本の輸出が好調な背景です。

「歴史的な円安水準」が、「歴史を塗り替える水準」になる確率と、「行き過ぎた水準の是正」が起きる確率は、どちらかと言えば後者が高そうです。前者が起きるためには、それ相応の理由がなければなりません。「歴史的な円安水準」が是正されて円高になると予想する海外投資家にとって、日本株は買い局面となります。

しかし、表面的な為替だけを基準にする人は戻り売りの円安を予想。この場合、既に日本株に投資している海外投資家にとっては株の売り要因。為替の株価に対する影響は痛み分けです。

2.株価も入れて「4K」

さて、3つめの「K」は景気。景気がよくなれば株価は上がるのが一般的。政府の発表によれば、2002年2月から始まった景気回復は4月で51か月連続。バブル景気に並んだそうです。

51か月連続と言われても、この間の株価の動きを見ると複雑な心境です。2003年4月28日には日経平均は7607円まで下落。景気回復期にこれほど株価が下落した例はありません。前例がないということは、現在の景気回復も前例のない特殊な構造と背景を抱えていると見るべきでしょう。それは何でしょうか。

ここまできて、ようやく「3K」から株価自身の分析に移ることができます。そういえば、株価も「K」ですから、株価も入れて「4K」です。

日経平均が年初来高値をつけた4月始め頃のPER(日経平均採用225銘柄)は22倍。欧米の12〜15倍と比べると相当の割高です。現在はやや下がったものの、それでも19倍。相変わらずの割高です。

経済は理屈に合ったことしか起きません。高いPERは、日本企業の業績の先行き好転を予想しているのか、それともほかの要因があるのか。ここがポイントです。

業績の先行き好転を予想する「根拠の裏付け」をチェックしてみましょう。「根拠の裏付け」とは回りくどい言い方ですが、言わば「根拠の根拠」。輸出好調は上述の実質実効為替レートが歴史的円安水準にあること。したがって、円相場の読み次第では業績予想も変わってきます。

内需は国内景気次第ですが、バブル景気に並んだ現在の傾向がまだ続くとみるか否か。高いPERを裏付けるためには、まだ相当長期間にわたって好景気が持続し、その結果、PERが欧米並みまで下がってこなくてはなりません。そうなって初めて「以前の高いPERは業績伸長を先読みしていた結果」であったことが裏付けられます。そんなに長く続くでしょうか。

「根拠の根拠」はいずれも実は不確かなものです。「根拠の根拠の根拠」は何かと、さらに深層を分析していっても、結局は同じこと。株価は幻のようなものだと思って投資をする方が賢明です。

3.ジグソーパズル

やはり、高いPERの背景は、業績の先行き好転予想以外のほかの要因が強く影響していると見る方が適切だと思います。

それは、金融政策と財政政策から構成されるマクロ経済政策です。解除はしたものの実質的にまだ続いている量的緩和、解除後も事実上の継続が予想されるゼロ金利、赤字国債を30兆円発行しているという意味では景気刺激的内容が続いている財政。要するに、マクロ経済政策は超緩和、超拡大の金融政策と財政政策が継続。これこそが株価上昇の本当の背景、あるいは最も強く影響している要因だと思います。

別にそれが悪いわけではありません。株価は低いより高い方が良いに決まっています。しかし、できれば経済の構造や企業の体質が変わることに伴う自立的な株価上昇、実態的な根拠のある株価上昇の方が望ましいことは言うまでもありません。

この背景に変化の兆しが生じていることが、株価が不安定になっている理由です。ここで、「4K」の最初の「K」、金利に話が戻ります。

最初に申し上げたとおり、日米とも金利上昇懸念から株価が不安定になっています。仮に株から投資資金がほかに向かう場合、一般的には、金利上昇ですからインガムゲイン(金利収入)狙いなら債券(米国債、日本国債)にシフト、キャピタルゲイン(値上がり益)狙いならインフレ期待と連動して値上がりする金などの商品投機や、為替売買に向かいます。

しかし、日米とも大量の国債を発行しており、既に国債を保有している投資家は金利上昇で含み損を抱えることになります。また、日米とも国債の発行残高が嵩んでおり、そもそも潜在的に長期金利(国債金利)の上昇懸念に直面しています。投資資金は本当に債券に向かうでしょうか。

米国は国債消化を日本を中心とする海外の投資家に依存しています。金利上昇を映じて米国債離れが起きると、国(財政)のファイナンスが困難となり、ドル暴落につながりかねません。「4K」の為替の「K」に影響を与えます。ドル暴落は円高騰であり、日本の景気の「K」にはマイナスです。

「4K」の動きはまるでジグソーパズルのピースを組み合わせるようなものです。うまくはまって全体が整合的になるかどうか、誰にも分かりません。

こうした展開が予想される中、次の2つのことに留意する必要があります。ひとつは、米国がドル暴落を防ごうと思えば「有事のドル買い」という発想が出てくることです。国際紛争が起こすと基軸通貨であるドル買いが進むということです。おまけに、メルマガVol.118(2006.4.14)でお伝えしましたように、米国は国際紛争をきっかけに景気が上向くという経験則があります。金利上昇、景気減速懸念のある米国経済。今後の米国の政策や政府高官の発言から目が離せません。

もうひとつは、日本の過去の金利上昇局面は欧米諸国が金利を引き上げている時にしか起きていないということです。つまり、日本の金融政策は欧米追従型で運営されてきました。仮にバーナンキ議長が当初の市場の予想どおりに金利引き下げに転じると、経験則上、日本は金利引き上げのタイミングを逸します。かなりの長期間、実質上のゼロ金利が続くことになります。そのことの副作用は相当大きなものになると思います。

考えれば考えるほど、「4K」の4つのピース、金利、為替、景気、株価が刻一刻と変形し、ジグソーパズルが完成しなくなります。いやいや、完成などあり得ないのが「4K」のジグソーパズルなのです。

(了)


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