政治経済レポート:OKマガジン(Vol.125)2006.7.21


参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


夕刊フジに「大塚耕平の経済スピークアウト」という連載コーナーがスタートしました。毎週木曜日の掲載です。地元の名古屋タイムズには「政論誌上バトル」(隔週水曜日)を執筆しています。それぞれ、ご参考になれば幸いです

1.羹に懲りて膾を吹く

ゼロ金利政策が6年振りに解除されました。3月の量的緩和政策解除と合わせて、「超」の上に「超」がいくつも付く「超」金融緩和状態からの離脱の第1歩です。でも、まだ異常な超金融緩和状態であることには変わりありません。

異常な超金融緩和状態の影響は必ずどこかに出ます。余剰資金は国境を越えて移動することから、最近の原油価格高騰も無縁ではありません。

原油価格高騰はインフレ懸念台頭、長期金利上昇を招き、株価にはマイナスの影響を与えます。原油価格が過去最高となった7月14日までの3日間で、米国ダウ平均は395ドル低下、日経平均も628円値下がりしました。

最近の株価は日米とも乱高下する傾向が強まっています。1987年10月19日のブラックマンデー前の雰囲気に似てきました。好調なJ-REIT(不動産投資信託)が海外物件を対象にする動きも示し始めています。猫の額のような土地や郊外の山林までも投資対象にし始めた1987年の残像と重なります。

1987年は日銀が金融緩和を1年余計に続けすぎたためにバブルを発生させたと言われた「その1年」。拝金主義の蔓延で世相も荒廃しました。

「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」。熱かった吸い物に懲りて膾や韲物(あえもの)のような冷たい料理も吹いて冷ますという意味で、失敗に懲りて必要以上の用心をすることを表す中国の故事です。

現在の経済状況と超金融緩和政策の因果関係について、「羹に懲りて膾を吹く」ような対応になってはいけませんが、過去の失敗から学び、同じ轍(てつ)を踏まないという姿勢も大切です。

2.「3つのリスク」vs「3つの条件」

ゼロ金利政策解除が経済全体にどのような影響をもたらすかは、暫く様子を見極める必要があります。

経済にマイナスの影響が出るリスクは3つ。第1は貸出金利の急速な上昇が企業の資金繰りや収益を圧迫することです。ゼロ金利解除は貸出金利引上げの絶好の口実。金融機関が預金に比べて貸出金利を過度に引き上げるかどうかは、預貸利鞘の動きをチェックすれば分かります。

第2は内外投資資金の減少。2003年4月28日に7607円まで下落した日経平均を倍に押し上げた主因は異常な超金融緩和。都市部の地価上昇も同様です。内外投資家が当初は自己資金、やがてはゼロ金利を利用した調達資金で投資を行いました。この流れは今も続いていますが、ゼロ金利解除に伴って投資を縮小する動きが出る可能性はあります。

第3は多額の負債を抱える国や地方自治体の金利負担上昇。とりわけ、地方経済や地方の中小企業には好景気の実感がありません。長期金利上昇は地方自治体の緊縮予算に端を発する「地方発のダウンスパイラル」を招く可能性があります。

こんなリスクが分かったうえでのゼロ金利解除。政府が黙認したのには訳があります。政府はゼロ金利解除を認める代わりに、①金融緩和を維持する、②連続的な利上げは行わない、③国債買入を続けるという3点の受入れを日銀に求めました。

「3つのリスク」に配慮して「3つの条件」を受け入れさせた格好ですが、要するに異常な超金融緩和状態を続けるということのようにも思えます。日銀が金融政策の「正常化」を目指しているのか、「異常な状態の継続」を追認したのか、よく分からないというのが正直な印象です。

3.過ぎたるは猶及ばざるが如し

「羹に懲りて膾を吹く」こともありませんが、「過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如し」という故事も気に留める必要がありそうです。

孔子が「師(弟子のひとり)と商(別の弟子)はどちらが優れているか」と問われ、「師はやり過ぎるところがある。商はちょっと足りないところがある」と答えたそうです。

「では師の方が上ですね」とさらに問われると、孔子は「過ぎたるは猶及ばざるが如し」と答えたという論語の一節です。

「度の過ぎたものは足りないのと同じ。どちらも適切ではない」という意味で、今日もよく使われています。

現在の金融政策は、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」になって「元も子もない」状態を招く潜在的なリスクを伴っていると思います。「元も子もない」は投資をして得るはずだった「利子」どころか「元手」も失うという含意。欲張り過ぎて何もかも失うことの喩えです。

「正常化」をしたいのか、「異常な状態の継続」をしたいのか。日銀はマーケットに対して説明責任を果たすべきでしょう。日銀の「元手」たる「信頼」と、「利子」たる「結果(健全な経済)」の両方を失うことを憂慮しています。

(了)


戻る