政治経済レポート:OKマガジン(Vol.126)2006.8.9


参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


12月1日(金)に名古屋で「講演会」+「激励会」を開催させて頂きます。「2007年、日本経済の行方。株価・為替・金利はどうなる」というテーマで、私自身が講演させて頂きます。詳細はホームページのバナーからご覧ください(ホームページからお申し込みもできます)。ご協力、ご参会を賜れば幸いです。

1.怪談(1)世界2位

夏に因んでちょっと寒くなるお話です。7月20日、経済協力開発機構(OECD)が日本の経済状況を分析した「対日経済審査報告書」を発表しました。その内容に驚いた方も多いことと思います。

何と、「貧困率」が先進国の中で2番目に高いという結果が示されました。かつては「貧困率」が低く、中間層の厚みを自負していた日本。いったい、どういうことでしょうか。

ここで言う「貧困率」とは、所得が平均値の半分以下の人たちの割合を指し、「相対的貧困層」と定義されています。その「貧困率」が13.5%。1番はどこかと言えば米国。やみくもに米国型経済システムを追求している日本の政策運営を考えれば、米国に次いで2番というのは当然の結果と言えるかもしれません。

それにしても、平均所得は400万円台ですから、半分と言えば200万円強。その所得で暮らしている国民が13.5%に達しているというのは由々しき事態。報告書では、その原因を「景気低迷で正社員が減り、賃金が安いパートなどの非正社員が増えたため」と指摘しています。

ところで、この数字は2000年現在の数字。今から6年前のデータです。各国のデータが出揃うのに時間がかかるため、数年遅れのレポートとなります。政府の発表によれば2002年2月から52か月連続で景気拡大が続いています。「貧困率」の上昇がOECDの指摘のように景気低迷によるものであれば、その後は低下して然るべき。しかし、実際にはおそらくさらに上昇しているはずです。したがって、「貧困率」の上昇は景気の影響というよりも、ここ数年の日本の経済政策の結果と考えるべきでしょう。

2.怪談(2)世界90位

もうひとつ、背筋の寒くなるニュースを聞きました。英国レスター大学の研究者エードリアン・ホワイト氏が、世界178か国の幸福度を発表。国民の平均寿命や所得、教育・医療・介護等の社会保障制度を同じ基準で評価して数値化し、ランク付けをしたそうです。英国BBC放送でも報道されました。

1位デンマーク、2位スイス、3位オーストリア。さすがに上位3傑は欧州勢ですが、中米バハマ諸島なども上位に入りました。米国は23位、英国は41位。さて、日本は何位でしょうか。

ちょうど真ん中の90位。貧富の差が激しいと言われるお隣の中国が82位、インドは125位です。怪談(1)でご紹介しましたとおり、日本の貧困率が先進国の中で2位になってしまいました。中国よりも幸福度が低くなってしまったことに妙に納得してしまいます。

ホワイト氏は、「社会保障制度が整い、1人当りのGDPが高い国ほど、国民が幸福を感じる傾向が強い」とコメントしています。

日本は1人当りのGDPこそ高いですが、貧困率の上昇=格差拡大によって所得面から幸福を感じる人の割合が減る一方、社会保障制度の問題や矛盾が山積していることが、90位という結果につながったようです。

一昨年の年金、昨年の介護、今年の医療と、社会保障制度の改革が続いています。その内容が、国民の幸福度にも影響していると考えるのが妥当でしょう。

3.怪談(3)「根性」と「偽装」

例えば、今年の医療改革では保険対象のリハビリ期間に疾患別上限が設けられました。疾患によって上限に差はありますが、呼吸器疾患は90日、骨折や心筋梗塞は150日、脳血管疾患は180日。

厚労省には「効果のないリハビリが横行し、患者も自助努力をしない」という認識があるようです。この認識、「根性が足りないからリハビリが長引く」という発想かなと思ってしまいます。でも、「根性」だけではリハビリはうまくいきません。

しかし、脳梗塞で体が不自由になった人が、必ず180日以内でリハビリが終了する保証はありません。それを一律に、しかも機械的に上限設定するような医療制度では、国民が「日本の医療制度って、暖かくないな」と感じ、幸福度が低下してもやむを得ないと言えます。

因みに、6月には上限撤廃を求める約44万人の署名が厚労省に提出されました。医療制度改革に「根性」論が持ち込まれる日本の現状には寒い思いがするのは僕だけでしょうか。

社会保障制度の改革に際して、厚労省は常に財政的限界を持ち出します。しかし、提示される試算の内容はチェックが必要です。例えば、将来医療費の推計値。厚労省は2025年度の医療費をこれまで141兆円と予測していましたが、昨年になって65兆円へ大幅下方修正しました。誤差や修正と言える範囲を超えています。

また、事前の推計値と事後の実績をトレースした資料も開示していません。医療のみならず、介護や年金でも、制度改革の度に厚労省が提示する試算の内容には恣意的な印象が拭えません。これでは、耐震「偽装」ならぬ試算「偽装」です。

バブル景気を抜いて戦後2番目の長さの好景気、企業業績は過去最高、でも貧困率は先進国で第2位、国民の幸福度は178か国中の第90位。そして、国民に正確に開示されない社会保障財政の実情。日本の経済と社会の歪な現状と言えます。

(了)


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