政治経済レポート:OKマガジン(Vol.136)2007.1.8


参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


明けましておめでとうございます。OKマガジンも7年目に入りました。今年もご愛読のほど、よろしくお願い致します。60年で一巡する干支。今年は「丁亥(ひのとい)」。大きな変化や出来事が起きる年と言われており、最近の外交情勢の緊迫が気になります。

1.核カード

昨年末、北朝鮮を巡る6カ国協議が暗礁に乗り上げました。事実上の失敗です。国際原子力機構(IAEA)の査察受け入れなど、一昨年9月の核廃棄に関する合意に沿った対応を求める米国に対して、北朝鮮は金融制裁解除を主張。協議は平行線のまま終わりました。

食料、燃料等の経済・エネルギー支援を拒否してまで金融制裁解除に固執する北朝鮮。物資を中国から陸路で密かに搬入することが可能であり、中国の協力なしでは兵糧攻めは功を奏しません。北朝鮮国民が貧しい生活に慣れており、消費小国であることも強硬姿勢を可能にしています。

金融制裁解除に固執するのは合理的です。ひとたび食料や燃料の供給を諸外国、とりわけ敵対国に依存すれば、供給を断たれることによっていつでも窮地に追い込まれます。支援受け入れは自らの将来リスクを高める一方、資金さえあれば、食料や燃料を敵対国以外から入手することが可能。北朝鮮がマカオのバンコ・デルタ・アジア(BDA)内の自国口座凍結解除に拘るのも無理はありません。

飽食気味の消費大国であり、食料・燃料自給率が著しく低く、四方を海に囲まれている日本。北朝鮮の外交手腕から学ぶべき点があります。

6カ国協議は「休会して、できる限り早期に再開する」という声明を発表しましたが、これも北朝鮮の「技あり」。2008年の北京五輪が近づけば、中国はお膝元の朝鮮半島での有事を回避するために、ますます北朝鮮に気を使わざるを得なくなるでしょう。今回の北朝鮮の強硬姿勢、引き伸ばし戦術は、見事な「技あり」の判定勝ちです。

国民の生命と財産を守り、世界の平和を維持するためにも、日本は外交上手にならなくてはなりません。

2.資源カード

ロシアと聞いて思い浮かぶのは石油・天然ガス開発プロジェクトのサハリン2。出資比率がロイヤル・ダッチ・シェル55%、三井物産25%、三菱商事20%の外資独占事業です。1999年から開発を開始し、来年から液化天然ガス(LNG)の出荷が始まる予定でした。

ところが昨年9月、ロシア政府が環境問題を理由に事業中止を示唆。既に巨額の資金を投入している出資企業、サハリン2からのLNG供給を当てにしていた電力・ガス会社にとっては青天の霹靂です。

紆余曲折の末、昨年12月21日、ロシア政府系企業ガスプロムに対し、外資3社が持株の過半(50%+1株)を譲渡して事業主体(サハリンエナジー)の経営権を移譲することで合意。同日、プーチン大統領は「全ての環境問題は解決された」と発言して態度を一変。今後はガスプロム主導でサハリン2を推進していくことになりました。

実に単純明快な構図です。資源の国家管理を強めるロシアは、環境問題を理由にサハリン2への批判、圧力を強め、国策企業ガスプロムによる事実上の乗っ取りに成功しました。

資源輸出による経済発展を図るロシアは、大手石油企業ユコスの解体・国有化をはじめ、エネルギー産業への締め付けを強化。サハリン2だけではなく、仏石油大手トタルが進めるハリャガ油田開発などにも介入しています。エリツィン大統領時代に外資導入のために外国企業に認めた排他的権利に基づく事業を狙い撃ちです。

そもそも、昨年初に親米国系のウクライナに対してガス供給を停止。エネルギーの政治利用、資源外交強化の方針を明確に打ち出しました。その後もグルジア、ベラルーシにガス輸出価格の大幅値上げを迫りつつ、別件の外交交渉を行うなど、旧ソ連圏諸国への締め付けを巧みに強化。

既にガス供給の3割をロシアに依存している独仏伊などのEU主要国に対しても、ガスの長期安定供給を取引材料に外交交渉を行っています。事態を憂慮する独仏は独自の供給ルート確保に奔走し始めました。

いずれにしても、ロシアの外交手法は極めて明確。資源大国としてその権益を一手に握り、資源をカードにして外交攻勢を仕掛けています。

3.経済カード

外交にはカードゲームのような側面があることを、このメルマガで何度もお伝えしています。資源小国であるものの核カードを巧みに駆使する北朝鮮。資源大国であるが故に横暴に振舞うロシア。日本のカードは何でしょうか。

多くの人が経済を連想するでしょう。たしかに、日本のカードは現時点では明らかに経済。しかし、必ずしも磐石ではありません。

例えば、生産力。このカードの優位性は中国に脅かされています。生産力カードの優位性を維持するためには、国家戦略として交易のあり方を考えなくてはなりません。コスト面で中国に劣後するならば、品質面の優位性を死守する必要があります。個々の企業努力の問題ではなく、まさしく国家戦略です(メルマガVol.128、昨年9月8日号参照)。

生産力カードと並んで重要なのは通貨カード。基軸通貨国として世界を差配する米国。米国は「ドル」が基軸通貨であることによって、財政赤字と貿易赤字という「双子の赤字」を制御できています。

日本は「円」を基軸通貨にするという長年の目標になかなか接近できません。それどころか、「円」の基軸通貨化が進まないうちに、中国経済が成長して「元」の影響力が増してきました。

EUの「ユーロ」のようなアジア共通通貨構想も以前より現実味をもって語られ始めました。このままでは、アジア共通通貨は「元」を中心とした構造になるかもしれません。

核、資源、基軸通貨、それぞれに外交カードがある諸外国。外交カードを意識した国家戦略を推進することは、政府の当然の責務です。

切り札なき外交小国、日本。資源小国、消費大国の日本にとって、資源や食料の安定的供給ルートの多様化が急務です。また、生産力カード、通貨カードの価値を高める国家戦略も必要です。そして、国家戦略は政治そのものでもあります。

OKマガジンでは、今年も日本の政治、経済、外交などの諸問題を解析し、日本の処方箋を追求します。

(了)


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