政治経済レポート:OKマガジン(Vol.140)2007.3.11


参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


確定申告が佳境を迎える中、各地の税務署と税理士会が主催する無料税務相談を見学させて頂きました。相談待ちの納税者で混雑している所もあり、暖冬のせいというよりも、納税者の怒りで熱気ムンムンという印象でした。

1.逆行

来場者の多くは年金生活の高齢者。昨年は申告書の提出者が前年比170万人増。今年はもっと多くなりそうですが、どうしてでしょうか。

年金及び高齢者の控除制度が変更された平成16年度の税制改正が影響しています。ひとつは公的年金等控除。65歳以上の定額控除が100万円から50万円に、最低控除保障も140万円から70万円に引き下げられました。もうひとつは、従来50万円であった老年者控除の廃止。いずれも高齢者の家計に大きな影響を与えています。

ふたつの変更を主因に、年金受給者の課税最低限は299万8千円から216万1千円に低下。収入がこの範囲内の人は、平成16年度までは非課税でしたが、平成17年度からは課税対象。そのため、収入減少を少なくするために、医療費控除等による還付を期待して確定申告を行っているようです。

年金生活の足しにするために細々と働いていた高齢者にも余波が及んでいます。課税最低限が低下したため、従来と同じ所得しか得ていなくても新たに課税対象になる人が発生。

例えば、毎年100万円の給与所得を得ている年金受給額200万円の高齢者の場合。給与所得控除65万円を差し引くと残りは35万円。基礎控除の38万円より少ないうえ、年金受給額との合算も235万円。従前であれば課税最低限より少ないため、非課税です。

ところが、平成16年度改正後は課税対象。税務署からの通知にビックリして慌てて納税のために確定申告に駆け込んだ人が多かったと聞きます。

今までと同じ程度のつつましい所得しか得ていない高齢者が急に課税対象となることは妙な気がします。高齢者の勤労意欲を低下させ、少子高齢化時代の政策制度のあるべき方向性に逆行しています。

この改正に加え、定率減税全廃など、税や社会保険料、高齢者を中心とした医療費の負担増が続いています。厚生労働省の試算によれば、2001年度と2007年度の65歳以上の夫婦モデル世帯(収入379万円)の場合、税、社会保険料、医療費は59万円の負担増(96万円→155万円)。実に1.6倍です。

所得が300万円未満の65歳以上の高齢者の割合は2割強。今後はもっと上昇するでしょう。高齢者は現役よりも世代内格差が大きいと言われています。高齢者をひとくくりにすることなく、勤労意欲を低下させない仕組みを考えなくてはなりません。

高齢者が負担増に耐えられなければ、その皺寄せは現役世代に及びます。高齢者の問題は高齢者だけの問題ではありません。

2.チャイナショック

チャイナショックで株価が急落。その後は落ち着きを取り戻したものの、しばらく調整相場が続きそうです。

株価は10年置きに不安定な局面に遭遇しています。1987年はブラックマンデー、1997年はアジア通貨危機、2007年はチャイナショック。今後の展開は予断を許しませんが、株価の低迷は景気の先行き、とくに個人消費に影響を与えます。

サラリーマンの所得は、1990年代半ばまで家計支出の動向と軌を一にしていました。住宅ローンや教育費が嵩む50歳台前半にピークを迎え、その後は低下傾向になるというパターン。だからこそ家計は負担増に耐えられましたが、それを支えていたのが年功序列と終身雇用。是非はともかくとして、それが現実です。

しかし、1990年代半ば以降、企業のリストラと人事・賃金構造の変化により事情が激変しました。

家計支出がピークを迎える世代が給与カットやリストラに直面。住宅は高値の時に購入した世代であり、含み損のために処分できずに保有したまま頭を抱え、子どもの教育費も嵩み、結局、生活水準を切り下げるか、貯蓄を取り崩してやり繰りするしかありませんでした。2005年の日本人の貯蓄率は過去最低の3.1%。先進国の中では米国に次いで低い水準になってしまいました。

その世代こそが団塊世代。団塊世代がリタイアして消費ブームが起きるという楽観的な意見も聞かれますが、こうした実情を考えると疑問です。

総務省の家計調査によれば、勤労者の世帯収入は1997年をピークに低下。昨年の最新データでもピークを100とすると88。団塊世代がリタイアしても、退職金は貯蓄の目減りや借金の返済、老後の蓄えのために使われる可能性が高く、消費につながる保証はありません。

医療、介護、年金の社会保障制度や税制の変更によって家計の負担、将来不安が増しており、消費が増える蓋然性はむしろ低いと言えます。

3.先憂後楽

こうした状況を少しでも好転させたいと思って株式投資を始めた高齢者世代、団塊世代は少なくないはずです。その顛末が今回の株価の調整局面。実体経済の改善に伴う株価の上昇ではなく、超金融緩和政策の影響を受けたバブル相場。こうした局面では個人投資家が参入し始めると、往々にして調整局面がやってきます。

チャイナショックの震源地、中国政府は日銀の政策変更が株価急落の一因と述べています。必要以上に超金融緩和政策を行い、家計から金利収入を収奪、バブル相場で個人投資家を呼び込んだ構図を考えると、日銀の政策変更はタイミングが悪いというより遅すぎたという評価が妥当でしょう。

高齢者世代、団塊世代の家計の所得減少を補うための株式投資、その株式投資を誘発する超金融緩和政策、さらに、その超金融緩和政策は国境を越えて中国経済のバブルの一因にもなっています。先々の展開がたいへん気になります。

先週、安倍首相と予算委員会で質疑を行いました。「日本経済はうまく回っている。日本の未来は明るい」というのが首相の基本的主張です。物事を前向きに捉えることは良いことですが、それはそれとして、政治家には、現実を冷静に認識し、先々発生するかもしれない問題を予見し、適切に対応することが求められます。

中国の中世の思想家、笵仲淹の「岳陽楼記」に「先憂後楽(せんゆうこうらく)」という有名な言葉が出てきます。曰く「先天下之憂而憂、後天下之楽而楽」です。

「先に苦労して後で楽をする」という解釈は誤用。正確には「憂うべきことがあれば、世の中の誰もまだ気が付かないうちに人に先立ってこれを憂い、楽しむべきことがあれば、憂いを解決してまず全ての人を楽しませてから、最後に楽しむ」という忠臣(政治家)の心構えを説いています。

高齢者世代にも、団塊世代にも、政治家が「先憂」すべき先々の潜在的問題がいっぱいあります。そのことを認識することなく「日本経済はうまく回っている。日本の未来は明るい」とする姿勢は「先憂後楽」の心構えに反します。

引き続き、有意義かつ有益な国会論戦に努めます。

(了)


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