政治経済レポート:OKマガジン(Vol.143)2007.4.2


参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


統一地方選挙第2弾が終わりました。国会も選挙休戦が明けて論戦再開です。選出された地方議会議員の皆さんに一緒に考えて頂きたいことは、限られた財源でどうやってより良い政策制度を実現するかということです。

1.下駄履きヘルパー

今年度予算における介護保険の総費用は7.4兆円。2000年度実績の2倍以上の規模です。この間、65歳以上の1号被保険者の支払う保険料も全国平均で約1.4倍になりましたが、保険料収入だけでは費用を賄えず、介護保険財政の赤字化と公費投入が加速。赤字に陥った市町村や広域連合の割合は全体の25%を超えました。

そんな中、今後の社会保障政策や日本社会のあり方を考えるうえでの道標とも言うべき事例が存在しています。

人口2400人の長野県栄村。高齢化比率は4割を超えますが、介護保険財政は黒字、1号被保険者の保険料も2400円。全国平均の4090円の6割程度の水準にとどまっています。

高橋彦芳村長は、過疎化、高齢化が進む地域での「施設介護、事業者介護」に基づく国の考える介護保険制度導入の限界を予想。そこで、村が講習を開催して多くの村民(主に女性)にヘルパー資格の取得を呼びかけた結果、160人に及ぶ「下駄履きヘルパー」が誕生しました。「下駄履きヘルパー」も高橋村長の命名。下駄履きで行ける隣近所の範囲で介護を行うことを念頭に置いたネーミングのようです。

こうした工夫の結果、村民同士の助け合いをベースにしたホームヘルプサービスが定着。「在宅介護、隣人介護」に基づく栄村の介護システムは、保険財政の黒字、ヘルパー(村民)の収入増、地域コミュニティ再生という好循環を生み出しているようです。

2.氷山の一角

その一方、介護事業者の大手3社「コムスン」「ニチイ学館」「ジャパンケアサービス」による介護報酬の不正請求が発覚。10日、東京都は3社に対して業務改善勧告を出しました。

営利目的の民間事業者の参入を前提とした介護保険制度は、当初からこうした不正請求の可能性が指摘されていました。

他県に先駆けて2003年に事業者に対して介護報酬請求の一斉自己点検を求めた鹿児島県では、実に報告事業者の55.5%から総額5億円以上の返還を求める結果となりました。行政監査によって過大請求が判明したのは2002年〜2005年度の4年間で12499件、201億4300万円。これらは氷山の一角と見るべきでしょう。

長野県栄村のような事例がある一方で、介護事業者による不正請求の横行。これでは、いくら工夫をしても、穴の開いたバケツに水を注いでいるようなものです。介護保険財政が苦しくなるのは当たり前と言えます。

介護の現場で働く人の多くは善意と公徳心に満ちた人であることを実感しています。しかし、介護を単なるビジネスと考える経営者の下では、ヘルパーやケアマネージャーの待遇は厳しく、辞めていく人も少なくありません。過大ノルマや賃金不払いも横行しているようです。

こうした事態を看過せず、悪質な事業者、経営者に対しては厳罰を課すべき。事業者指定の取り消しや刑事告発も辞さない覚悟で臨まなければ、日本の介護保険制度は早晩崩壊するでしょう。

3.上杉鷹山公

そんなことを考えていたところ、厚生労働省と国土交通省が公団住宅を改造して福祉と住宅を共存させることを計画中との報道。

団地の空き店舗や空き住宅に、デイサービス、ショートステイ、訪問介護などの行う小規模多機能型居宅介護事業所やグループホーム、訪問看護ステーションや24時間対応の在宅療養支援診療所などを誘致。高齢者向けのメニューを用意したレストランなどの事業も展開するそうです。

当初の対象は都市再生機構(旧日本住宅公団)が開発した団地のうち、昭和40年代に造成された約32万戸分。その後は他の公営住宅にも拡大していく計画ということです。

悪い話ではありませんが、施設・箱物建設のオンパレードになるリスクもあります。介護予防と称して全国一律の筋力トレーニングセンター建設を決めた昨年の介護保険法改正を彷彿とさせます。いつか来た道です。

ふと思い出したのが米沢藩・上杉鷹山公の逸話。財政難、生活難の米沢藩に若き藩主として迎えられた鷹山公。藩の予算書を点検し、お城の膨大な薪代に着目。江戸藩邸が江戸の御用商人から割高の薪を大量購入していました。

鷹山公は藩民に枯れ木や余った薪の供出を要請。藩民が快く要請に応じたことから、お城の薪は完全自給。薪代もかからなくなりました。

余った薪代で大量購入した桑の苗木を藩民に配り、桑の生産を奨励。10年後、米沢藩は桑畑でいっぱいになって養蚕業が発展。借金が減り、産業が興り、藩民の生活も豊かになったという名君の逸話です。

多少の脚色、誇張はあると思いますが、これこそ今後の日本に必要な考え方。長野県栄村の例も、その構造は鷹山公の施策と同じです。

施設・箱物建設、画一的な介護保険制度に依存することなく、本当の地方分権、地域主権に基づく介護のあり方を追求することが急務です。新しく当選した地方議会議員の皆さんの奮闘に期待したいと思います。

(了)


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