政治経済レポート:OKマガジン(Vol.158)2007.12.23


参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


今年のメルマガも最終号です。1年間、ご愛読ありがとうございました。次号からメルマガも足かけ8年目。来年も読者の皆さんに少しでもお役に立つ情報や、国会の動向、政策課題のポイントなどをお伝えしていきたいと思います。引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。

1.「偽」と「信」

今年を象徴する字は「偽」。清水寺の森清範貫主は「こんな字が選ばれるのは恥ずかしい。悲観に耐えない」と嘆きました。大半の国民の皆さんが同じ気持ちでしょう。

5000万件の「消えた年金」、つまり誰のものか分からない年金記録を来年3月までに特定することが不可能なことが明らかになり、「公約しましたか?公約違反というほど大げさなことですか?」と発言した福田首相。

番記者から「首相が選ぶ今年の字は何ですか」と聞かれ、「信」と即答。「シンって何ですか」と問い返され、「信ですよ、信。分からない?」といつもの調子で言い放った福田首相には、謹んで「偽」という字を贈呈します。

「偽」も「信」もニンベン(人)です。「人が為すこと」が「偽(いつわり)」となることもあれば、「人が言うこと」で信頼や信用の「信」が生まれることもあります。

政治も経済も、所詮は「人」が行うこと。政治を司り、経済活動をする「人」の姿勢、心構え次第で、良くもなれば、悪くもなります。

治世が乱れ、治安が悪化し、生活に苦しむ国民の皆さんが増えるということは、政治や経済を担っている「人」に問題の根源があることは明らかです。

今年1年、食品メーカーを中心に様々な企業の「偽装」問題がクローズアップされました。最近では経済界のトップである日本経団連会長の不明朗な問題も発覚。清水寺の森清範貫主と同じく、憂慮に耐えない思いです。

全ては「人」から。政治も経済も「人」次第。今年目の当たりにした多くの「偽」を他山の石とせず、来年も職務に精励し、職責を果たしたいと思います。

2.イリューザリー・リカバリー

ところで、政府の発表によれば、今年は1年中景気が拡大し続けたことになっています。今年1年ばかりでなく、何しろ、いざなぎ景気を超える好景気。過去5年以上にわたって景気は拡大を続けているそうです。さて、政府の発表は「信」に足るでしょうか、それとも「偽」でしょうか。

今月14日に発表された日銀短観は3期振りに景況感が悪化。景気の不透明感が増しています。主因は住宅着工減少、原油高、サブプライム問題。

住宅着工減少の理由は建築確認申請厳格化による審査事務停滞。建築基準法改正と役所の事務体制不備に伴う「官製不況」。関連産業は裾野が広いうえ、耐久消費財の動向にも悪影響です。

原油高は燃料や原材料のコスト上昇を招き、消費財の値上げも顕現化。しかし、製品価格値上げはコスト上昇に追いつかず、企業収益を圧迫するでしょう。

サブプライム問題の震源地・米国では、資産インフレに伴う購買力向上に依存していた個人消費が減速。日本の輸出にも悪影響です。

不安要因がめじろ押しにもかかわらず、日銀短観と同じ日に発表された内閣府のミニ経済白書は、「輸出増、生産増という景気回復を支える原動力は健在」との評価。「景気回復6年目の試練」という白書の副題もウソっぽい感じです。一部大企業を除くと、国民の皆さんの多くは「実感がない」というのが本音でしょう。

数年前に「ジョブレス・リカバリー(雇用なき景気回復)」という表現がはやりました。現在の情勢は「偽りの景気回復」とまでは言いませんが、「イリューザリー・リカバリー」。Illusoryは「人を欺く」「実在しない」「幻影的な」という意味。

「偽」が象徴する今年の景気回復は「イリューザリー・リカバリー」。景気に対する政府の現状認識は、とても「信」に足るとは言えないようです。

3.来年の字は「分」

時間の「分」ではありません。分岐点の「分」、分相応の「分」です。

2007年は世界経済にとって節目の年になりました。世界経済を支えてきた日米中3国を中心とした異常とも言える超金融緩和政策の弊害が権限化。その象徴が原油価格高騰とサブプライム問題です。

金融緩和に伴う過剰流動性は原油などの国際商品市場やサブプライム問題の舞台になった米国不動産市場に流入していました。ほかにも、米国の株式市場や中国の株式・不動産市場などにも流入。市況を実態以上に底上げしています。

ところで、金融緩和の効果を各市場に伝えるバイパスになったのが、今年になってクローズアップされた2つのファンド。金融緩和と世界経済拡大の恩恵を受けて利益を蓄積し、ファンド規模が膨張。バイパス自体も太くなりました。

ひとつはソブリン・ウェルス・ファンド、つまり政府系ファンド。産油国や輸出国を中心に石油収入や貿易黒字に伴う外貨準備を活用し、政府自らが運営するファンドです。古くは1952年設立のサウジアラビア、1977年設立のアラブ首長国連邦のファンドなどがルーツ。その後、他の中東諸国やシンガポール、ノルウェーなどが追随し、最近ではロシア、中国などのファンドが登場して脚光を浴びています。

もうひとつはプライベート・ファンド。日本でもお馴染みのサーベラス、ローンスター、コールバーク・クラビス・ロバーツや、証券系のゴールドマン、モルガンなど。大規模なプライベート・ファンドは世界全体で約30と言われています。

こうしたファンドが来年に向けて気になる動きを示しています。ひとつは中東諸国の政府系ファンド、非米系プライベート・ファンドを中心に、投資の決済通貨をドルからユーロに切り替える動き。もうひとつはプライベート・ファンドがレバレッジド・バイアウト(LBO)による米国での大規模M&Aや不動産投資を手控える動きです。特に、後者は米国金融機関がサブプライム問題で多額の損失を被り、貸出余力を失っていることが影響しています。

いずれの動きもドル暴落、米国経済失速の引き金になりかねません。景気後退が視野に入った日本経済は米国経済に追随するのでしょうか。その一方、政府系ファンドやプライベート・ファンドが日本に投資対象を求め、日本経済はむしろ浮揚するという見方もあります。2008年は、米国にとっても、日本にとっても、分岐点になりそうです。

景気情勢が不透明感を増している時は、根拠のない予測や見通しを楽観的に信じることなく、分相応の経営を行うことがリスク管理の要諦。国も企業も2008年は「分」を意識したマネジメントが必要です。

個人も「分」をわきまえた言動に努めることが、「偽」を廃し、「信」を生むものと思います。自らを戒めつつ、新年を迎えたいと思います。それでは皆さん、良い年をお迎えください。来年もどうぞよろしくお願い致します。

(了)


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