政治経済レポート:OKマガジン(Vol.172)2008.7.20


今日はNHKの「日曜討論」に出演させて頂きました。経済問題が主なテーマであり、原油高騰による第一次産業、企業や家計への影響などについて議論しました。折しも、内閣府が成長率見通しを下方修正し、日銀が物価見通しを上方修正。スタグフレーション(不況とインフレ)の傾向が確実に強まっています。


1.ロシアンルーレット

弾丸を一発だけ装填した回転式拳銃を順番に打つロシアンルーレット。帝政ロシアで看守が囚人に強要していたゲームと言われています。物価上昇はロシアンルーレットの様相を呈してきました。

原燃材料価格に端を発した物価上昇。川上、川中、川下の順に価格を転嫁しますが、転嫁できない先は、言わば弾丸が当たる役回り。

例えば10兆円市場と言われる鉄鋼業界。価格高騰に伴う業界全体のコストアップは約3兆円。価格転嫁の引き金を引いて、無事に川中の製品メーカー等に転嫁できればセーフ。転嫁できなければコストアップを吸収できず、弾丸に当たることになります。

「チャンピオン交渉」と呼ばれる新日鉄とトヨタ自動車の鋼板の価格交渉において、トン当たり2万8千円程度で合意したと報道されました。予想以上に価格転嫁が行われたとの評価です。

次は製品メーカーが川下である消費者に転嫁できるか否かですが、当然容易ではありません。食料等の生活必需品の値上がりが著しい中、消費者の支出はそちらが優先され、自動車、家電製品等は価格上昇に伴って数量ベースの売上は減るでしょう。川下に転嫁できなければ、川中が弾丸を受けることになります。

価格転嫁が起きて川下(家計)に弾丸が当たれば、消費減少を通じた景気悪化の影響が、やがて川上から川下まで全てに波及します。

燃料高騰に伴う航空機の燃油特別付加運賃(燃油サーチャージ)によって、航空運賃は事実上1.5倍以上。北京五輪ブームを当て込んでいた中国旅行も、地震や治安悪化の影響も相俟って、昨年の半分以下に低迷。消費者心理は着実に冷え込んでいます。

鉄鋼大手、商社等の川上は、川中、川下への影響を軽減するために、源流である原燃料の直接確保、鉱山開発等への出資を進めているものの、その効果が顕現化するのは1年以上先のことです。

根本的解決のためには、帝政ロシアの看守に当たる投機マネー対策が急務です。しかし、その背景には日本の金融緩和も影響しているという構図は笑えない話です。自ら弾込めしていては、ロシアンルーレットは強要ではなく、自作自演です。物価上昇を自ら招く愚行と言えます。

2.マグマ噴火

日銀が10日に発表した6月の国内企業物価指数は、前年同月比プラス5.6%。第2次石油ショック末期の1981年2月以来、27年4か月振りの上昇率です。

原燃材料価格の上昇が金属製品などの中間材料に波及しており、物価上昇は川上から川中への転嫁がますます加速。川下では食料品価格の上昇が先行していますが、工業製品等の本格的値上がりも時間の問題でしょう。

先行する食料品価格も、肥料価格のさらなる急騰を映じて上昇ピッチが早まりそうです。農業用肥料の三大成分はカリウム、リン酸、窒素。最新データによれば、米国におけるカリウム系肥料価格は前年比2倍、5年前の3.4倍に達しています。窒素系肥料価格は前年比1.5倍、5年前の2.5倍です。

肥料価格急騰の要因は4つ。第1は、言うまでもなく過剰流動性の影響。ここ数年、警鐘を鳴らし続けてきましたが、その弊害がいよいよ深刻化しています。過剰流動性はマグマと同じ。噴火口を求めて移動します。マグマの量=過剰なマネーが減らない限り、問題の根本的解決はできません。

第2は受給バランスの逼迫。中国やインドなどの食料需要増に加え、ガソリン代替燃料(エタノール)の原料としての需要増などが主因です。一方、供給能力の制約も影響しています。旧ソ連崩壊に伴い、1990年代に旧ソ連の農産物生産が減少し、業界再編が進展。その間、設備投資や鉱山開発が停滞し、今日に至っています。

第3は、その鉱山開発の遅れ、というよりもタイムラグ。日本の鉄鋼大手、商社などの川上企業は、源流である原燃材料の直接確保に乗り出し、鉱山開発にも染手。もっとも、新しい鉱山が実際に生産を始めるのは数年先になります。その頃には食料バブル、資源バブルが崩落している可能性もゼロではなく、鉱山開発投資のリスクも気になります。

第4は、原料の偏在です。例えば、カリウムはカナダとロシアに集中。プライスリーダーシップが明確なマーケットになっていることも、価格高騰の背景になっています。

物価高騰、価格転嫁本格化による消費者マインドの冷え込み、マグマ噴火による経済全域に対する甚大な被害への対策が急務です。

3.備蓄放出

マグマ噴火による溶岩流から国民生活を守る手段を講じるのが政府の役割。そのひとつが原油などの備蓄政策です。

今年5月末現在で原油の国家備蓄は5096万キロリットル。98日分に相当するそうです。民間備蓄は3903万キロリットル。79日分相当です。

企業も家計も原油価格高騰に苦慮している中、備蓄原油は放出できないのでしょうか。

備蓄に関する法律では「わが国への原油の供給が不足する事態が生じ、または生じるおそれがある場合」を放出の条件にしています。現状は「生じるおそれがある場合」に該当すると考えることは十分に可能です。

もっとも、放出の際には、原油が国際市場で取り扱われる戦略的商品であることを鑑み、「IEA(国際エネルギー機関)の枠組みの中で各国が協調して対応する」ことになっているそうです。

IEA加盟国はOECD加盟国(30か国)のうち備蓄基準(90日分)を満たしている先であり、現在は26か国。要するに、主に原油を輸入している先進国です。OPEC(石油輸出国機構)の動きに対抗して、IEAの協調行動を促すことが日本政府の役割です。

備蓄と言えば、原油だけではありません。日本は農産物も備蓄しています。筆頭は米。約100万トンあり、10年に1度の不作(作況指数92)の場合、通常の不作(同94)が2年間続いた場合などに対応可能な量ということです。

ほかにも、小麦、大豆、飼料穀物などを備蓄しており、現下の経済情勢は備蓄の有効活用を検討する局面だと思います。

マグマ噴火という緊急事態に直面した場合、溶岩流(過剰流動性、インフレ)を堰き止める堤防として備蓄を活用し、政府は生活物資の高騰の抑制に努めなくてはなりません。

備蓄政策についても情報収集し、臨時国会で十分に議論したいと思います。

(了)


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