政治経済レポート:OKマガジン(Vol.206)2009.12.26


今年もあとわずか。昨日、来年度当初予算案が閣議決定され、何とか年内編成ができました。日本の抱える様々な構造問題の解決に取り組むチャレンジは来年も続きます。半世紀の垢を落とす大仕事です。困難の連続を覚悟しつつ、愚直に職務に精励します。来年もどうぞよろしくお願い致します。


1.歪(いびつ)な構造

昨秋のリーマンショックに端を発した世界不況に直面してスタートした2009年。震源地米国は不透明感を抱えたまま新年を迎えようとしています。

年央には誰も想像しなかったGM(ゼネラルモーターズ)の倒産。また、銀行破綻も相次ぎ、12月18日に連邦預金保険公社(FDIC)が新たに7行の倒産を公表。

銀行の経営形態が異なる日本と単純比較はできませんが、今年の破綻数は既に140行。貯蓄金融機関(S&L)危機の1992年(179行)以来17年振りの高水準です。

不動産市況も低迷が続く中、連邦預金保険公社(FDIC)は破綻懸念銀行が500行に及ぶと警告しています。

この間、連邦準備理事会(FRB)は事実上のゼロ金利政策に移行。国債や住宅ローン担保証券(RMBS)を買い切る量的緩和政策にも踏み切り、米国のマネタリーベースは過去1年間で25%増加。

しかし、その一方で銀行貸出残高は1年間で5300億ドル減少し、12月に入ってオバマ大統領が銀行に積極的融資を促す異例の事態。マネーは国債市場などに滞留し、短期国債の流通金利が一時マイナスになるなど、歪(いびつ)な構造になっています。

実体経済も歪な構造を抱えています。そもそも、リーマンショックの約1年前から、金融派生商品(サブプライムローン、CDS等)や不動産の高騰を主因とする米国バブル景気はピークアウト。実体経済は後退局面に入っていました。

そのため、過去2年間で米国製造業では約200万人の雇用が減少。さらに遡れば、金融バブル、不動産バブルに依存した経済運営の結果として、過去10年間で560万人の雇用が失われ、製造業就業者数は3分の2に減少しました。

2009年末の米国。金融緩和の一方で低迷する銀行貸出、景気回復の一方で低迷する雇用という2つの歪な構造を抱えて2010年を迎えます。

米国のことを心配している場合ではありません。日本も貸出と雇用の低迷という同じ構造を抱えており、不透明感を抱えての越年です。

11月20日、政府が3年5ヶ月振りにデフレ宣言。政府に続いて30日には日銀も事実上のデフレ宣言。遅すぎた感もありますが、政府・日銀の認識が一致し、企業や国民の実感に歩み寄ったことは効果的な対策に向けて第一歩です。

日銀は翌12月1日の金融政策決定会合(MPM)で金利低下を促す新型オペ導入を表明。18日のMPMでは消費者物価(前年比上昇率)について「マイナスを容認しない」「プラス1%程度を中心に考えている」という異例の声明を発表。デフレ対策に本腰が入ってきたことは評価できます。

もっとも、マネタリーベースは米国に比べると十分に増加していないほか、貸出が伸び悩んでいるのは同様。また、最新(11月)の失業率は4ヶ月振りに悪化して5.2%。やはり、貸出と雇用の低迷が続いています。

また、需給ギャップは米国の約3%(IMF<国際通貨基金>推計)に対して日本は約7%(同)と大きく、米国よりも深刻。金融面の対策ばかりでなく、実需につながる対策が必要です。

税収見通しの9兆円の下振れ。7.2兆円の今年度2次補正予算(1次補正予算から3兆円を組み替えたことから、追加財源は4.2兆)。合計13.2兆円の財政負担増加の中で編成を終えた92.3兆円の来年度当初予算。厳しい環境下で編成した今年度2次補正予算、来年度当初予算による景気浮揚効果が注目されます。

2.G7中最下位

日米両国が歪な構造を抱えて混迷する中、中国は着実な経済成長を続けています。

12月25日、中国国家統計局が2008年の実質国内総生産(GDP)成長率を発表。中国も昨秋のリーマンショックの影響を受けていたことから、就労人口増加吸収のために必要な「8%成長」は困難という見方もありましたが、結果は9.6%。

名目GDPの実額は4045億元(約420兆円)となり、世界2位の日本(約505兆円)に迫ってきました。

世界全体のGDPに占める比率は、米国の23.7%、日本の8.1%に次いで、中国は7.1%。日本が2006年に10%割れとなった一方で、中国は前年の6.2%から約1%も増加。日本を猛追しています。

2009年の日本はマイナス成長ですから実額で500兆円割れは必至。中国が10%程度の成長を実現すれば、今年(2009年)の実績値で逆転される可能性もあります。また、この傾向は2010年も続くと見込まれており、日中逆転はほぼ確実です。

中国のGDP(ドル換算)は2007年にドイツを抜いて、米国、日本に次ぐ世界3位となりました。2010年には、米国、中国、日本の順となるでしょう。

同じ日(25日)、内閣府が発表した2008年の日本の1人当たりGDP(名目ベース)は、前年比4.1%減少。経済協力開発機構(OECD)加盟30ヶ国の中では19位(ドル換算)。前年と同順位です。

1位はルクセンブルク、以下10位までは、人口が少なく、面積の小さい欧州各国が占めています。世界経済をリードしていると自負していたG7(先進7ヶ国)は、米国(12位)、カナダ(14位)、フランス(15位)、ドイツ(16位)、イギリス(17位)、イタリア(18位)。軒並み10位台に揃い踏みです。

日本は1993年の2位をピークに順位が下がり続け、昨年イタリアに抜かれて2年連続でG7中最下位です。因みに、中国とロシアはOECD加盟30ヶ国には含まれていません。

こうした順位に一喜一憂することが良いとは言えませんが、しかし、日本の現状を認識するうえでは分かり易いデータです。

3.国家戦略

中国は経済面で日米両国を猛追する一方で、政府系シンクタンクである中国社会科学院が「総合国力」という興味深い指標を公表しました。

領土、資源、人口、経済、軍事などの9項目を数値化して分析。1位は米国、2位は日本、以下ドイツ、カナダ、フランス、ロシアと続いて、中国自身は7位と自己評価。

4年前の前回公表時は6位の自己評価。今回は順位をひとつ下げています。この4年間の中国の経済成長や発展を鑑みると違和感がありますが、近隣諸国の中国脅威論や国内向けに一層の努力を促す狙いからの「政治的配慮」に基づく順位付けと言われています。

日本は4年前の7位から2位に大幅アップ。やはり、日本の過去4年間の低迷を考えると違和感があります。中国の戦略的意図が感じられる指標です。

中国の戦略は世界の通商構造にも影響を与えています。

来年1月には中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の間で原則ゼロ関税が実現し、中国を軸としたアジアでの自由貿易協定(FTA)の動きが加速しています。

台湾と中国はFTAに相当する経済協力枠組み協定(ECFA)の交渉を開始したほか、韓国も中国とのFTA締結に向けた動きを早めています。台韓両国とも、中国を軸としたアジアFTA圏に乗り遅れることを懸念しての対応です。

一方、日本は後手に回っています。ASEANとはFTAを含む経済連携協定(EPA)を実現したものの、これに対する中国のカウンターがASEANとのFTA。必ずしも日本が優位な立場に立っているとは言えません。

むしろASEANとしては、今後の成長性が期待できる中国とのFTAに重点を置く蓋然性が高いと予測すべきでしょう。

韓国とのFTA交渉は中断したままであるほか、台湾とは公式な外交関係が成立していないことから、FTA交渉には至っていません。

こうした中、ASEANプラス3(日中韓)のFTAは構想段階にとどまっており、具体的な動きにはなっていません。

世界は米国、EU(欧州連合)、中国を軸としたFTA等による囲い込み(エンクロージャー)戦略を競う局面となっており、日本も能動的かつ迅速に対応しなければなりません。

前号のメルマガで指摘したG20、クォーターアジア、エマージングハーフの動き(ホームページでバックナンバーをご覧ください)。そしてFTA。

2010年代は日本の国家戦略が問われる局面であり、世界の構造変化への対応が日本の行方に大きく影響します。

(了)


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