第132号（平成25年6月）

皆さん、こんにちは。最澄と空海の時代についてお伝えしている今年のかわら版。今月のテーマは最澄と空海の交流です。

★大乗戒壇院

唐から帰国した最澄は、立宗した天台宗のもとで僧尼の教育養成制度の確立を目指します。

当時の仏教行政の中心は僧綱（そうごう）という役所。東大寺を中心とする南都の高僧、役僧たちが運営していました。

官許の授受戒を行う戒壇院も、東大寺、薬師寺（下野）、観世音寺（太宰府）の三か所しかありませんでした。もちろん、中心は東大寺。

自らの悟り（小乗）を優先する南都仏教に対して、衆生の救済（大乗）を目指す最澄。比叡山に大乗戒壇院を創設することを朝廷に嘆願しますが、南都の役僧たちの抵抗もあってなかなか実現しません。

八〇六年、折しも最澄の後ろ盾であった桓武天皇が崩御。最澄の願いは最澄存命中にはかなわないこととなります。

★ 最澄直筆の御請来目録

一方、最澄に遅れること一年、八〇六年に唐から帰国した空海。

恵果和尚の後継者＝密教の正嫡として多くの経典や法具を持って帰国。

しかし、留学生（るがくしょう）＝私費留学生としての二十年間の滞在義務を破って帰国した空海は入京を許されません。

そこで持ち帰った経典や法具の一覧を記した報告書＝御請来目録（ごしょうらいもくろく）を京に向かう高階遠成（たかしなのとうなり）に託して朝廷に提出。

最澄はこの目録を内供奉十禅師（ないぐぶじゅうぜんじ＝朝廷への助言役を務める学徳兼備の僧）として目にすることになります。

豊富な内容に驚いた最澄は、自身の参考にするために御請来目録を書き写します。現在国宝として残っているのは最澄直筆の書写分です。

★ 嵯峨天皇

それから三年後の八〇九年、密教に関心を寄せず、空海の入京を許さなかった平城天皇（へいぜいてんのう）が崩御。嵯峨天皇が即位し、空海に運が巡ってきます。

嵯峨天皇の皇后は橘喜智子。空海と一緒に入唐した橘逸勢（たちばなのはやなり）の従兄弟です。

空海の達筆を熟知していた橘逸勢。そのことは橘喜智子を通じて嵯峨天皇の知るところとなり、書道に通じた嵯峨天皇は早くから空海に一目置いていたと言われています。

その嵯峨天皇、橘逸勢、空海の三人は、やがて日本三筆と称されます。歴史の偶然は神秘に満ちています。

八〇九年、空海は嵯峨天皇によって三十六歳の時にようやく入京が許され、高雄山神護寺に滞在。神護寺は最澄の施主（後ろ盾）和気（わけ）氏の氏寺。

入唐前の最澄はここで天台講義を行っていましたが、密教を学ぶためにこの寺に空海を招き、以後、最澄と空海の交流が始まります。

最澄から空海に宛てた二十三通の手紙が残っており、最初のものは八〇九年。十二部五十三巻の経典書物をお借りしたいという内容です。以後、二人は交流を重ねます。

八一〇年、空海に嵯峨天皇が帰依。三十七歳の時です。

八一一年、空海は嵯峨天皇から大慈山（だいじさん）乙訓寺（おとくにでら）の別当（統括僧官）に任命され、以後、この寺に在住しました。

★最澄と空海の訣別

お互いに仏教を究めようとする最澄と空海。二人の交流は順調のように思えましたが、やがて袂（たもと）を分かつことになります。来月は最澄と空海の訣別についてです。乞ご期待。

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