第231号(令和3年9月

     

皆さん、こんにちは。九月も後半に入り、朝晩は肌寒い日もあります。くれぐれもご自愛ください。

さて、先月は四十七都道府県で愛知県の寺院数が断トツに多いことをご紹介しました。今月はその理由を考えてみます。

★氏族仏教から国家仏教へ

弘法さんかわら版も今回で二三一号です。長い間ご愛読いただいておりますので、ずいぶん前にご紹介した内容はご記憶にない方が多いと思います。そこでちょっと再述します。

仏教が日本に公式に伝わったのは五三八年です。仏教公伝です。最初は外国の宗教あるいは文化という位置づけですから、浸透するのに少し時間がかかりました。

最初の頃は有力な豪族が自分たち一族の守り神のような位置づけで祀るようになります。

そのため、日本の寺院はもともと飛鳥時代の氏寺から始まりました。つまり、自分たちの氏神様を祀るような感覚で寺院を建立し始めます。

やがて氏族仏教六四六年(大化二年)の「仏教興隆の詔」を契機に国家仏教となり、それから約四十年後の六八五年(天武十四年)の「造寺奨励の詔」によって寺院建立が本格化しました。

仏教は平安時代末期から鎌倉時代初期に人々に浸透し、室町時代、戦国時代、安土桃山時代を通して寺院数も増えていきました。

江戸時代には幕府が本山末寺制度檀家制度を敷き、人々はどこかの寺院の檀家となって宗旨人別帳に登録することが義務づけられ、檀家寺の寺請証文がなければ他の地域への移動などに支障をきたしました。

檀家制度は現代の戸籍制度の役割を果たしましたが、徳川家康が中国の明の制度を模したと言われています。

★寺院数日本一の理由

こうした経緯で増えてきたお寺ですが、さて、愛知の寺院数が多いのはなぜでしょうか。その理由は次のとおりです。

第一に、古くから発展し、人口が多い地域であったこと。尾張も三河も早い時期から拓けた地域で、江戸時代には十以上の城下町がありました。明治初期の段階で愛知の人口は全国三位。基本的にはこうしたことが寺院数の多い理由のひとつと考えていいでしょう。でも、それだけでは説明がつきません。

第二に、第一の理由とも関係しますが、愛知は七四一年(天平一三年)の「国分寺建立の詔」によって、最初に国分寺、国分尼寺がつくられた地域のひとつであること。

尾張国府が置かれた稲沢、三河国府が置かれた豊川にそれぞれ国分寺と国分尼寺が創建され、その周辺に寺院が増えていきました。平安時代に立宗した天台宗、真言宗の寺院が早くからつくられたのに加え、鎌倉時代には鎌倉六宗の寺院も増えました。

第三に、愛知が地理的に京都と鎌倉の途中に位置したこと。鎌倉時代には、鎌倉六祖師や多くの高僧が都と東国を行き来し、その道中、愛知に足跡を残しています。そのことが寺院数増加に寄与していると考えられます。

第四に、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康をはじめ、多くの戦国武将を輩出したこと。つまり、武将に庇護され、菩提寺などのゆかりの寺院が増えました。とくに江戸時代に入り、尾張徳川家が浄土宗をはじめとした多くの寺院を庇護したことも影響しています。また、城も多かったことから、その鬼門を守る寺院が建立されました。

第五に、第四の理由とも関係しますが、寺院が戦略上の防衛拠点として利用されたこと。名古屋城下は典型例です。

飯田街道から名古屋城下に入る現在の東区東桜あたりに東寺町がつくられ、東から侵入する敵を防御。南からの攻撃には大須の南寺町が防衛拠点となりました。また、名古屋城の北及び北西方向では、岩倉・小牧・犬山の城下町とその寺町が防衛線でした。西には、稲沢、海部郡あたりに中小の寺院が多数あります。城下の道の要所には「曲がり」を設けて敵の侵入を妨ぎ、その角々に寺院を配置し、戦時の兵の拠点にしました。

第六に、人口が多かったことと相俟って、江戸時代の檀家制度の影響でさらに寺院が増えたこと。檀家寺がたくさん必要となり、寺院数も増えました。

第七に、明治時代の廃仏毀釈に抵抗したこと。一八六八年(明治元年)の「神仏分離令」を機に廃仏毀釈が起きました。鹿児島藩は翌年までに領内の寺院を全廃したそうです。薩長土肥など官軍側の旧藩では、程度の差はありますが同じようなことが起きました。

愛知でも、徳川家康ゆかりの東照宮を擁する鳳来寺などが廃仏毀釈の影響を大きく受けました。尾張藩は戊辰戦争では官軍側でしたが、鳳来寺などの例はあったものの、総じて寺院数が激減することはなかったようです。

今年前半にご紹介した三河大浜で「護法一揆」とも言われた「大浜騒動」が起きるなど、廃仏毀釈には抵抗を示す傾向があったようです。

★神社数は???

日本の仏教は神仏混交です。神社とお寺が併設されてきたことから、数も知りたくなりました。神社数日本一は新潟県愛知県は四番目です。

来月は神社について少し深堀りしてみます。乞ご期待。

 

kobosan-kawaraban kobosan-kawarabankobosan-kawaraban kobosan-kawaraban