第239号(令和4年5月)

     

新緑が映える季節になりましたが、寒暖の差が激しい日もあります。ご自愛ください。

尾張名古屋・歴史街道を行くー社寺・城郭・尾張藩幕末史―をお送している今年のからのかわら版。今月は尾張国府についてです。

★尾張国府と駅路

尾張氏が治めた尾張国にも律令制の下で国府が置かれます。国府は各地の中心地域に設けられ、国府間は道で結ばれます。

七世紀頃の文献や木簡には尾張国尾治国の二つの表記が見られます。いずれも「尾張氏が治めた国」という意味です。

尾張氏は尾張国造を務めました。国造は「くにのみやつこ」または「こくぞう」と読み、地方を治める官職を指します。

各地の国造は土着の豪族が務め、尾張国においては尾張氏です。

尾張氏は尾張国造を務めました。国造は「くにのみやつこ」または「こくぞう」と読み、地方を治める官職を指します。

各地の国造は土着の豪族が務め、尾張国においては尾張氏です。

六四五(大化元)年の大化改新から七〇一(大宝元)年の大宝律令の間に、古代国は徐々に整理されて令制国(りょうせいこく)に置き換わります。

令制国とは律令制に基づいて設置された地方の行政単位です。律令国とも言い、中央から国司が任命または派遣されました。

令制国の政府機関は国衙(こくが)または国庁(こくちょう)であり、国衙の所在する地域を国府(こくふ、こう)または府中と呼びます。尾張国の国府は稲沢です。

国府には国庁のほか、国分寺・国分尼寺、総社(惣社)が設置され、令制国における政治・司法・軍事とともに宗教の中心地となりました。

国分寺・国分尼寺の建立は七四一(天平十三)年、聖武天皇による国分寺建立詔に端を発します。

都と令制国の国府の間には駅路(七道駅路)が造られ、川や海に隣接する国府には、国府津と呼ばれる湊も設けられました。

この時代の伊勢湾の海岸線は稲沢に近い位置にあり、周辺には木曽川や日光川が流れていたことから、尾張国府の国府津の役割を担ったのが津島です。

国府には国司のほか、役人や国博士、国医師などが配置され、小国で数十人、大国では数百人規模だったと推定されます。周辺に集まる農民や商人も含めると千人を超える町となり、畿内以西の大国や大宰府では数千人に達していました。

★松下と下津

肥沃な尾張国は農業生産力が高く、古代から須恵器なども作られ、畿内に近いこともあって、朝廷を支える律令国として成長します。

尾張国府の具体的な場所については、地名を根拠に次の二ヶ所が比定されています。

ひとつは稲沢の松下。この地域には「国衙」という小字があります。推定地域は三宅川の自然堤防上であり、真北を基線として国府が形成されたと考えられます。近くに尾張大国霊神社が総社として鎮座していたことも有力な根拠です。

   

もうひとつは稲沢の下津。この地域には「国府」と名の付く小字があり、相次ぐ洪水が原因で松下から下津に国府が移ったとする説もあります。下津は宿場町として発展し、室町期には守護所も置かれました。その基盤が国府時代に形成されたと考えられます。

倭・百済連合軍と唐・新羅連合軍が戦った白村江の戦い(六六三年)以降、大陸や朝鮮半島からの侵攻に備え、朝廷は九州に防人を配置します。尾張国は防人に任じられた東国人が西国に向かう際の往還路となり、往来が増え、街道や宿場町の原形が生まれます。

★尾張八郡

七〇一(大宝四)年に朝廷は初めて「日本」という国号を使いました。その後、地方は国・郡・里の三段階に区分されます。七〇四年には全国の国印が鋳造され「尾張国」という表記が定着します。

律令体制下においても国造は存続し、律令国造と呼ばれます。しかし支配の実権は国司に移り、国造は祭祀を司る世襲制の名誉職として、国造の後裔である郡司が兼任しました。九世紀に編纂された国造本紀には、全国百三十五の国造の設置時期と被官者の記録があります。

九二七(延長五)年の延喜式によれば、尾張国は海部・中嶋・葉栗・丹羽・春部・山田・愛智・知多八郡とされています。

鎌倉時代にも依然として国府と国司は存在しましたが、南北朝時代の混乱で国司の実権は失われ、守護の力が増大します。

九室町時代に入ると守護による領国支配が進み、軍事警察権のみならず行政権も手にした守護を守護大名と呼ぶようになります。国司は名目だけの官職となり、守護大名や守護代、有力な国人などから勃興した戦国大名が領国支配の正当性を主張するようになります。国府は徐々に忘れ去られた存在になっていきました。

この時期に尾張国を治めたのが三管領のひとつ斯波氏であり、後に斯波氏の臣下から織田氏が台頭します。

★国分寺と国分尼寺

尾張国府が置かれた稲沢には、国分寺と国分尼寺も創建されました。来月は稲沢の国分寺、国分尼寺についてです。乞ご期待。

 

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