政治経済レポート:OKマガジン(Vol.3)2001.6.20

元日銀マンの大塚耕平(Otsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです。


1.どうする今年度の歳入欠陥

内閣府が6月11日に発表した1-3月期の実質国内総生産(GDP)は-0.2%(年率-0.8%)となり、この結果、2000年度全体では+0.9%と森前首相が「楽々達成可能」と言っていた政府目標の+1.2%を下回りました。IT景気と米国景気の減速に伴う設備投資と輸出の不振が主な要因です。こうした中、19日に明らかになった政府の経済財政諮問会議(議長・小泉首相)の「経済財政運営に関する基本方針」では、今後2、3年はゼロ成長が続くことが想定されています。デフレ傾向が続くことを考慮すれば、実質マイナス成長を意味します。しかし、これらはいずれにしても来年度以降の話です。経済財政諮問会議の「基本方針」の内容を巡る議論では、先(来年度以降)の話よりも今(今年度)の話として注目すべき問題があります。

政府は今年度の経済成長見通しを+1.7%と置いて予算を編成・運営していますが、上記のように、2000年度実績が+0.9%になり、現在減速過程にあることを勘案すると、今年度の+1.7%成長は到底不可能な数字です。にもかかわらず、財務省(旧大蔵省)は今年度の見通し(+1.7%)を下方修正することに抵抗しています。なぜならば、+1.7%の前提を下方修正すれば、税収見通し等の変更を余儀なくされ、直ちに歳入欠陥対策が政治的争点になるからです。国を企業に例えれば、財務省は財務部門の経営陣です。今年度の歳入欠陥はもはや不可避な状況にもかかわらず、省のメンツや問題先送りのために見通し修正を行わないという財務省の姿勢は、「経営問題(歳入欠陥=資金繰りがつかない)が発生しかかっているにもかかわらず、問題を直視しない経営陣」という印象を拭えません。

小泉首相は企業に喩えれば社長です。財務部門の役員(財務省)が今年度の資金繰り問題を先送りしようとしている時に、そうした事態に関心を持たずに、来年度以降の青写真のことばかりに気をとられているという感じがします。一体、今年度の歳入欠陥にはどう対処するのでしょうか?補正予算を組むのでしょうか?財源は国債でしょうか、それとも増税でしょうか?新手の資金繰りとして、日銀に実質的な国債引受(買いオペ増額)などの追加的金融緩和措置を要求するのでしょうか?

市場関係者は、

  1. 今年度の企業業績・経済成長が見通しより相当悪くなること、
  2. 国・地方自治体の歳入欠陥が発生すること、

の2点を見越しており、それに対する明確な政府(小泉首相)のスタンスが見えてこないことから株式市場が続落傾向にあります。来年度以降のビジョンを練ることは続けてもらいたいと思いますが、社長(小泉首相)たるもの、目の前の問題に対する認識と方針を示してもらいたいものです。

2.セーフガード発動分野の競争力強化策は何?

日本政府によるネギ、生シイタケ、畳表(イグサ製)に対する緊急輸入制限(セーフガード)発動への対抗措置として、19日、中国政府は日本製の自動車、携帯・自動車電話、エアコンの3品目に特別関税を課すという報復措置を打ち出しました。日本は輸出立国という宿命を負っています。保護貿易政策の応酬合戦になれば、国際経済社会では日本が不利になることは明らかです。それではどうすればいいのでしょうか?

国家間の貿易は、喩えてみれば、日本株式会社、中国株式会社、米国株式会社、欧州株式会社など、各国(各会社)の条件交渉(輸出入政策)や価格交渉(為替政策)にほかなりません。農産物に対する輸入制限が、結果的に日本株式会社全体の危機(高収益部門である自動車等輸出部門の営業の障害になること)に繋がっては本末転倒です。もちろん、農産物部門で働いている社員(国民)の雇用と生活を守ることも重要です。問題は、セーフガードのような措置をずっとは続けられないことです。緊急避難的にセーフガードを発動したとしても、できるだけ速やかに対象部門の競争力強化策を検討・決定するとか、対象部門の社員の雇用・生活を守るために配置転換を行うとか、何らかの対応が必要です。そして、そうした対応を行うためには、対象部門の将来像をどうしようとしているのかという明確な方向性・計画(ビジョン)がなければなりません。

農産物に対する緊急避難的なセーフガードの発動は支持します。・・・・それで、この後は対象分野をどうしようとしているのでしょうか?

3.不良債権処理の行方

6月19日付の日経新聞・経済教室(29面)で、ゴールドマンサックス証券のD・アトキンソン氏が、「不良債権は要注意先まで処理が必要」「日本の中小企業は過剰であり、実質破綻先、破綻の可能性が高い先は整理淘汰するべき」と大胆(無謀?)に主張しています。D・アトキンソン氏はこれまでも政府の不良債権処理政策に深く関わってきたと言われる人物であるほか、小泉首相は学者やエコノミストの机上の構想を大胆(無謀?)に受け入れる傾向があるため、大いに注目される記事です。

仮にD・アトキンソン氏の主張が正しいとすれば、破綻懸念先や要注意先の不良債権を大量に抱えた金融機関自身も、「企業として存続が可能かどうか」という視点で考えるべきではないでしょうか?日本の企業構造に大胆にメスを入れるということは、日本経済を根本から再編するということですから、金融産業も例外ではないでしょう。もちろん、元日銀マンとして、経済における金融機能の重要性は十分に認識しています。しかし、多くの企業倒産と失業者増加を前提に構造改革を行う場合、改革の対象となる人たちの納得性を高めるためには、金融産業を含めて例外のない対応が必要です(「合理的な理由」のある例外は別です)。D・アトキンソン氏自身も、「銀行国有化や公的資金再注入の議論になるかもしれない」と明記しています。

「不良債権問題を2、3年で処理する」と公言している小泉首相の勇気には敬意を表しますが、中小企業の皆さんも、金融機関の皆さんも、その具体的内容と影響については十分に関心を持って頂くことが必要だと思います。

(了)


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