元日銀マンの大塚耕平(Otsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです。
いよいよ第154回通常国会が始まりました。会期は6月19日までです。懸案山積の私たちの国、日本。少しでも建設的な方向に進むような国会論戦にしたいと思います。
メルマガ第14号で、中国のWTO加盟について取り上げ、中国の動向を十分に注視・分析することが必要だということをお伝えしました。今回は、中国問題をもう少し掘り下げてみたいと思います。
いわゆる「中国脅威論」においては、低い労働コストによって製造業の対外競争力が急速に高まり、やがては技術力も向上して「世界の工場」になる、というシナリオが想定されています。たしかに、中国は「世界の工場」としての地位を確立しつつあります。
「世界の工場」は、英国、米国、日本、そして中国と、時代とともに変遷しています。しかし、それぞれの国を巡る情勢は異なっており、中国が、米国や日本と全く同じ展開を辿ると予想することはできません。それでは、どのような点が異なっているのでしょうか。
日米を比較してみましょう。米国は、(1)低労働コストよりも技術力や資源の豊富さを主因に「世界の工場」としての地位を確立した、(2)賃金はそれほど極端に上昇した訳ではないが、賃金と生活コストの水準がバランスがとれていた(生活物価が低かった)、(3)日本に追い上げられた際には、現在の日本のように製造業の海外移転を積極的には行わなかった、等々の違いがありました。
それでは、日中はどうでしょうか。中国では、(1)日本の高度成長期とは異なり、現時点で既に不良債権問題が深刻化している、(2)国民の貧富の差が激しい、(3)WTOに加盟したにもかかわらず、閉鎖的な為替政策をとっている、といった点が根本的に異なります。こうした違いを、どのように理解したらよいのでしょうか。
中国の不良債権問題は、日本よりも深刻かもしれません。「えっ、本当?」と思われるかもしれませんが、不良債権の対GDP比率は、公式統計では日本並みの25%程度、実態は50%近いとも言われています。
中国の不良債権問題は、1980年代後半以降、市場経済原理の導入の過程で発生しました。つまり、政府が国有企業に財政資金を投入するのを止め、代わって、国有商業銀行が国有企業に融資をするようになったために、不良債権問題が発生しました。
長年に亘って染みついた考え方というのは、そう簡単には変わりません(どこかの国と一緒ですね・・・)。国有商業銀行は、銀行融資の本質を理解できずに、まさしく財政資金の代わりのような感覚で融資を行ったため、それらが不良債権化しました。つまり、国有企業の採算性とか将来性を十分に斟酌しないで融資を行い、国有企業は安易な設備投資や事業拡大を行いました。その結果、融資が不良債権化すると同時に、中国経済は過剰供給能力という問題も抱えました。
中国当局者の中には、「不良債権が損失として確定する割合(=償却率)以上に、経済成長を遂げれば何の問題もない」と強気な発言をする人もいますが、そんなにうまくいくでしょうか。この問題は、中国経済の足枷(あしかせ)となる可能性があります。
中国国民の貧富の格差には著しいものがあります。中国全体の1人当たりの国民所得は855ドル(約10万円であり)、日本の1965年頃とほぼ同水準です。
もっとも、上海市等の沿海部、都市部の発展には目覚ましいものがあるものの、内陸部や地方はまだまだ貧しいのが実情です。因みに、上海市民の1人当たり国民所得は5千ドル弱(約65万円)と日本の1970年代半ばの水準に達しているのに対し、内陸部では100ドル程度(1万3千円程度)に過ぎません。これは、バングラデシュやスーダンといった国々と同程度です。
項目2.の最後にも書きましたが、「不良債権問題があっても経済成長を遂げれば何の問題もない」いう意見もありますが、実は、中国が抱えている極端な貧富の格差が、今後の経済成長にとって障害となる可能性があります。
ご承知のとおり、GDPの6割は個人消費が占めます。中国が、現在の貧富の格差を是正できなければ、つまり、内陸部や地方の住民の所得を増加させることができなければ、そう遠くない将来、個人消費は低迷することとなります。つまり、富裕層の消費意欲が頭打ちになるということです。そうなれば、経済成長も失速し、不良債権問題まで深刻化させるという悪循環に陥ります。
中国は、WTOに加盟したものの、為替については依然として固定相場制を維持し、中国元の切り上げには応じようとしていません。
しかし、固定相場制といっても、一定の変動幅(レンジ)を持った固定相場制であり、中国元の水準をそのレンジ内に維持するために、中国通貨当局は上海市にある為替取引所で間断なく外貨の買い上げを行っています。つまり、外貨がどんどんと蓄積される一方で、国内通貨供給量(マネーサプライ)は増加し続けています。
このことは、為替を変動相場制下に置く場合よりも、国内物価を押し上げる要因となります。したがって、中国が固定相場制に固執し続けると、より早いタイミングで中国の価格競争力(低労働コストというメリット)を弱める結果となります。さて、中国はどうするのでしょうか。
今回は、中国問題だけで終わりにしようと思ったのですが、もうひとつだけお話しさせて頂きます。
現在、多くの企業が次々と破綻しています。小泉首相は、「企業倒産は構造改革の進展の証(あかし)」というご認識のようですので、さぞかしご満足なことでしょう。ところが、その処理に際しては、民事再生法による場合もあれば、会社更生法による場合もあります。その違いは何かなと思っていたところ、今度は、ダイエーが産業再生法で債務圧縮を行うというニュースが飛び込んできました。皆さん、産業再生法って、ご存じでしたか(厳密には破綻関連法ではありませんが、債務圧縮して企業再生を図るという意味では、実質的な破綻関連法的な使い方も可能です)。
さらに、実は民事再生法には、金融機関が破綻した場合の金融機関民事再生法というものもあります。もっと言えば、メルマガ第13号でお伝えしたように、昨年9月には、私的整理に関するガイドラインなるものが打ち出されました(私的整理と言いながら、実質的には、金融庁、経済産業省、法務省による合作です)。破産法というものもあります。日本の破綻法制の全体像はどうなっているのでしょうか。RCC(整理回収機構)による不良債権の買い取りという手段も、破綻処理の延長線上にあります。
関係省庁に「全体の整合性はどうなっているのか」と聞いたところ、「民事再生法、会社更生法、破産法は法務省、金融機関民事再生法は金融庁、産業再生法は経済産業省、私的整理に関するガイドラインは民間ベースですので、全体の整合性はちょっと・・・・・」という回答です。まったく無責任な話です。
政府・霞ヶ関をレストラン、官僚をレストランの店員に喩えれば、店員は店のメニュー全般について説明する能力を持たず、お客(企業や国民)は、どのメニュー(法律や企業再建策)に、どのようなメリット、デメリットがあるのか分からないという状況です。これでは、正しい選択ができません。
好きなお客(店と癒着しているお客)にだけ、有利なメニューを教えるということにならないようにしたいと思っています。産業再生法による債務圧縮(債権者側からみると債権放棄)は、ダイエーが第1号だそうです。この問題は、改めてレポートさせて頂きます。
(了)