政治経済レポート:OKマガジン(Vol.19)2002.2.17

元日銀マンの大塚耕平(Otsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです。


日本経済、ほんとうにちょっと怪しい雰囲気になってきました。明るい話題をお伝えしたいのはヤマヤマですが、根拠のない楽観は禁物です。まずは事実を冷静に共有してください。

今日、ブッシュ大統領が来日しました。いよいよ小泉首相と日米首脳会談です。ところが、昨日から今日にかけて、急にRCC(整理回収機構)と株保機構(銀行等保有株式取得機構)を巡る重大なニュースが飛び交いました。ブッシュ大統領への「手土産」でしょう、きっと。詳しくは後述しますが、要は、日本経済はいよいよたいへんな状況になってきたということです。これまで、「日本の金融機関はまだまだ健全」(柳澤金融担当大臣)、「格付機関は日本経済の底力を知らないんじゃないか」(福田官房長官)と言っていた閣僚の皆さん、そして、彼らと歩調を合わせていた小泉さん、いったいどういうことなのでしょうか。僕自身、1人の政治家としてというよりも、1人の国民として、「日本という国は、いったいどうなっているんだろう」という気持ちで一杯です(・・・愚痴ってる場合ではありません。もちろん、国会議員としてちゃんと仕事します!!)

恐れていた展開(1):RCCの「簿価」買取

さて、RCCですが、もう皆さんご承知のとおり、銀行の不良債権を購入するために作られた株式会社です(株主は100%日本国、つまり皆さんの税金で運営されています)。このRCCが、不良債権を銀行から購入する(正確には、購入してあげる)際に、どのような「価格」で買うかということが以前から議論になっています。

あまり高い値段で買うと、結果的にRCCが損失を被り、その損失は皆さんの税金で穴埋めすることになっています。そこで、RCC設立時には、あとで損失が生じないように、つまり「2次ロス」が発生しないように、「適正な価格」で購入するルールになっていました。

しかし、なかなか不良債権処理が進まないことから、昨年秋の国会では、今までよりも高い「価格」である「時価」で購入できるように法律が改正されました。「時価」の決め方が不透明であることを理由に野党は反対をしましたが、結局、改正案は成立しました。僕自身、この件を、財政金融委員会の場で、日銀の先輩である塩崎議員と議論させて頂きました。「価格を公正・適切に決められるように、もっと価格算定方法を客観的にした方がいのではないですか」という僕の質問に対して、塩崎先輩は「適切な時価というものはなく、成立した価格が時価なんです」という禅問答(いや、珍問答)を繰り返すばかりでした(塩崎さん、後輩としては「未来の首相」と期待していただけに、正直言って少々ガッカリです。これからは、「未来の塩爺」と呼ぶことにしました)。

不良債権処理を進めたいのは、僕も同じ気持ちです。しかし、不透明な「価格」の決め方をすると、結局RCCが損失を被り、また皆さんの税金で穴埋めするのです。改正案が成立した以上、あとはRCCが公正に事務処理を行っているかを監視するのが僕たち国会議員の仕事です。そういう気持ちで今国会に臨んでいました。

ところが、昨日あたりから、自民党の山崎幹事長や保守党の野田党首が、足並みを揃えて(いや、口裏を合わせてと言うべきでしょうか・・・)「簿価で買い取ることが必要」と発言し始めました。「簿価」というのは、銀行が保有している不良債権を「帳簿上の価格」で買うということです。例えば、銀行が100億円の貸出資産を持っていると仮定してください。この貸出資産が不良債権化していて、実際には30億円の「時価」しかないとします。RCC(換言すれば、RCC=国民)が、あとで損失を被らないように、安全をみて20億円ぐらいの「適正な価格」で買い取れれば、一応、納得はできます。しかし、山崎さんや野田さんは、何と100億円の「簿価」で買えばよいと言っているのです。この場合、銀行には損失は発生しません。70億円から80億円の規模で発生するRCCの損失は、皆さんの税金で穴埋めするのです。

皆さんは、まだ税金を払い続けますか・・・。

2.恐れていた展開(2):株保機構の「4兆円」株式購入

銀行等保有株式取得機構は、銀行から株式を購入することを目的に、これも、昨年秋の国会で作ることが決まりました。略して、株取得機構とも株保機構とも言います。

どうしてこんな組織を新たに作ったのでしょうか。銀行が自己資本比率規制(BIS規制)をクリアするためには、保有資産を圧縮しなくてはなりません。その一環として、株式も売却します。しかし、「小泉スパイラル」(メルマガ第18号参照)で株式相場がたいへん不安定な状況になっているので、銀行の株式売却は株式市場ではなく、この株保機構に対して行うという仕組みを作ったのです。

この株保機構、当初、「銀行はまずは様子を見るので、しばらくは本格的には利用しないだろう」と言われていました。ところが、一昨日以降、「現在の塩爺」が「4兆円規模で株式を購入する」と言い始めているのです。早い話、株式相場を支えるために「4兆円の市場介入を行う」ということです。

これでは、かつて批判されたPKO(プライス・キーピング・オペレーション=公的資金、つまり皆さんの税金による株式市場介入)と一緒です。

ここでも、どのような「価格」で株保機構が銀行から株式を購入するかが問題です。また、株保機構が株式を最終的に処分する際に発生する損失を、どのように穴埋めするかも問題です。損失が出たら、売却した銀行が穴埋めするという話もありますが、たぶん無理でしょう。それができるぐらいなら(=そのぐらいの余力が銀行にあるぐらいなら)、上記1.の話題でお示ししたように、RCCが「簿価」で不良債権を買い取る必要はありません。論理矛盾です。結局、最後は皆さんの税金で穴埋めすることになるでしょう。

皆さんは、まだ税金を払い続けますか・・・。

3.恐れていた展開(3):金融機関への公的資金再投入

柳澤金融担当大臣は、「現在、金融機関に公的資金を再投入する必要はまったくない」と言い続けてきました。小泉さんも同様です。しかし、今日、竹中経済財政担当大臣が、「金融庁の特別検査の最終結果を待つまでもなく、3月にも公的資金を再投入する。再投入する価値のない金融機関には、厳しい処置を行う」と断言しました。格好いいですねえ。でも、竹中さん、あなたも柳澤さんと同じことを言っていたのですよ、ついこの間まで。

竹中さんの発言がコロコロ変わるのはいつものことですから気になりませんが、柳澤さんも同じスタンスをとり、もし3月(年度内)に公的資金再投入ということになれば、やはりこれれまでの発言との整合性がなく、「結果責任」を問われることになるでしょう。柳澤さんは専門的な知識も豊富で、見識もあり、個人的には現在の閣僚の中で唯一信頼できる人だという印象を持っていただけに、残念です。

ところで、再投入した公的資金が金融機関から返ってこなかった場合、その穴埋めは皆さんの税金で行うことになります。

皆さんは、まだ税金を払い続けますか・・・。

4.税金を払う喜びを感じられる国

RCCによる大量の不良債権購入、金融機関への公的資金再投入は僕も必要だと思います。直ちに、大胆に実施すべきでしょう。しかし、その前提は、金融機関の「経営責任」と政治家及び政策当局の「結果責任」を明確にすることです。これなくしては、また「逃げ水政策」を行うことになり、日本の政治や政策の信頼性はますます失われていくことになるでしょう(「逃げ水政策」については、過去のメルマガを参考にしてください)。

株保機構による「4兆円」株式購入は、さしあたり必要ありません。上記のように、公的資金再投入を直ちに、大胆に行えば、金融機関が急いで株式を売却する必要性がなくなるからです。

ところで、一昨日お会いした方から、メールをもらいました。「税金を払う喜びを感じられるようになりたい」というメッセージがありました。まったく同感です。この国はいったいどうなってしまったのでしょうか(・・・僕の場合、愚痴を言える立場ではありません。もちろん、国会議員としてしっかり仕事をさせて頂きます!!)。

今日は、PL学園野球部の中村前監督の講演を聞かせて頂きました。皆さんもご存知のとおり、吉村、清原、桑田、立浪、福留、片岡等々、名選手を大勢育てた名監督です。中村さんの、よく聞く、何気ない言葉にハッとさせられました。

「監督の心構えとして大事なことは、成功は選手の功績、失敗は監督の責任、そうでなければ組織は動かず、選手のヤル気はでません」

日本というチーム、日本経済という組織・・・、監督、選手はいったい誰でしょうか。監督は首相です。あるいは、政府や官僚組織です。選手は国民、企業、そこで働く勤労者です。監督は、日本経済の失敗を選手のせいにしていないでしょうか。責任はどこに行ったのでしょうか。


追伸:今回は、「恐れていた展開」が絵に書いたように、しかもブッシュ大統領の訪日に合わせて見事な出来レースとして起こりつつあるので、怒りと呆れのあまり、少々感情がこもりすぎたかもしれませんね。読者の皆さん、お許しください。でも、小泉さんも、先日の塩爺の「1%成長事件」を真似して、ブッシュ大統領が離日してから「RCC、株保機構、公的資金再投入、いずれの件も約束した訳ではありません」と言うかもしれません。期待していますよ、小泉さん。

参考:「1%成長事件」=塩爺が、G7で来年度の「1%成長(政府見通しは0.6%)」を公言したものの、帰国してから「あれは公約ではありません」と発言。またまた各国の失笑と失望を買っている事件です(=日本政府の十八番)。塩川さん、どうせなら、「1%成長、そんなこと言いましたかな、忘れてもうた」と言ってほしかったですね。次回はボケのセンスを磨いてください!!

(了)


戻る