元日銀マンの大塚耕平(Otsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです。
OKマガジン創刊号は昨年6月6日付でした。読者の皆様のおかげで、満1歳となりました。ご支援、ありがとうございます。引き続き、意味のある情報を提供できるように努力しますので、ご愛読頂ければ幸いです。今、8日(土)の午後1時、議員会館にいます。それにしても暑いですね。地球温暖化、異常気象の進行をヒシヒシと感じます。
昨日(7日)、今年第1四半期(1―3月)のGDP統計が内閣府から発表されました。ニュースや新聞を通じて、もうご存じのことと思います。前期比プラス1.4%、年率でプラス5.7%になったことは素直に喜びたいと思います。4四半期振りのプラス成長ですし、マイナスになるよりはプラスの方がいいのは当然です。しかし、今回の結果には重要な論点が含まれています。
もう気付いている方も多いと思いますが、プラスに大きく貢献したのは、公的資本形成と輸出です。一方、マイナスだったのは、民間の設備投資と住宅投資です。公的資本形成とは、要は公共事業のことです。公的資本形成は前期比プラス4.1%で、これがなかったら全体での前期比プラス1.4%はマイナス2.7%になったということです(1.4-4.1=マイナス2.7という計算です。新聞に載っている「寄与度」という計数のことです)。
公共事業と輸出で景気をよくする・・・・、これって、高度成長期以来の伝統的な日本の景気対策の構図ですよね。でも、この手法が限界に達し、かつ、公共事業に依存する政策が政治家、業者、官僚の癒着の温床となっていることが、日本の構造問題だったのではないでしょうか。公的部門を縮小し、民間部門をイキイキとさせること、つまり、民間部門の設備投資や住宅投資を活発にさせることが小泉政権の目標だったのではないでしょうか。
小泉さん、竹中さんに百歩譲って、いつまでもマイナス成長では困るので「応急措置として公共事業に頼る」という政策を一時的に認めたとしましょう。問題は、今後です。既に成立し、執行が始まっている平成14年度当初予算も、基本的には相変わらず公共事業依存型です。では、今後はどういう方針で運営するのでしょうか。
この点に関して、先週の月曜日(3日)、参議院行政監視委員会での僕の質問に対する片山総務大臣の発言が印象的です。まず、僕が何を質問したかを簡単にご説明します。
公共部門がGDPのうちどのぐらいの割合を示すかという計数があります。一般政府支出の対GDP比という計数です。最新の統計によれば、日本は16.2%で、先進7か国(G7)の中では2番目に低い数字です。意外ですね。
しかし、その16.2%のうち、公的資本形成、つまり公共事業がどの程度占めるかということを見ると、だいぶ様相が変わってきます。日本は、16.2%のうち、6.6%が公的資本形成です。
対GDP比で日本に最も近い水準の米国(17.1%)の公的資本形成は1.9%です。日本の3分の1以下です。公的資本形成の水準が日本の次に高いのはフランスです。もっとも、全体の対GDP比は17.9%と日本よりかなり高いにもかかわらず、公的資本形成はわずか2.5%です。日本の6.6%という水準が突出していることがお分かり頂けると思います。
6.6%の内訳は、国が1.0%、地方が5.6%です。地方のウェイトが圧倒的に高くなっています。公的資本形成の割合が高過ぎるということは、民間の資金、つまり民間部門の活力を公共部門が過度に奪っているという構図です。この点を是正することが、日本の構造改革の目標のはずです。以下、僕と片山総務大臣の質疑のヤリトリです。
絶望的ですね・・・。「地方を切り捨てる」ということを主張しているのではないのです。意味のない(ほとんど誰も使わない)橋や道路や箱物を作るのを止めれば、公的資本形成のウェイトは下がるはずです。そして、そういう橋や道路や箱物を管理するために公益法人が設立され、そこで役所の皆さんが第2の人生を送るのです。意味のない公的資本形成を続ければ、日本経済は民間活力をさらに失っていくことになります。
蛇足ですが、一般政府支出の対GDP比はG7で2番目に低いという意外なデータをご紹介しましたが、一般政府支出に特殊法人、独立行政法人、公益法人等への支出を加えた広義の政府支出のウェイトはG7の中でトップであることは申し上げるまでもありません。特殊法人、独立行政法人、公益法人が全て問題だとはいいません。必要な組織もあれば、真面目に働いている職員の方も少なくないと思います。それぞれが自問自答され、自らの組織や自分の仕事が、日本経済のために本当にプラスになっているかどうかを考えて頂くしかありません。問題は、その組織の予算執行に介在して不当利得を得ている政治家や公益法人等の幹部です。
チャーチルの有名な一節を書き添えます。曰く、「国民のレベル以上の政治を実現することはできない」。
第1四半期のGDP統計の構造問題をご理解頂けましたでしょうか。結局、公共事業中心の一時的な景気回復ですから、民間部門の雇用増加にどの程度寄与するかは全く不透明です。設備投資や個人消費が本格的に回復しなくては、雇用環境は好転しません。
「いやいや、公共事業が盛り上がれば、建設部門を中心に雇用も回復する」という意見をお持ちの方もいると思います。しかし、その発想も「公共事業と輸出主導の景気回復、建設部門中心の雇用増加」という高度成長期の遺物です。
高度成長期に比べて、政府が公共事業に投入した資金が最前線の勤労者に到達する割合は極端に低下していると言われています。かつては、10兆円の公共事業を行えば、5兆円ぐらいは勤労所得になったと言われています(それでも少ないですが・・・。残りの5兆円はどこに行ったのでしょう)。今では、10兆円に対して、最終的な勤労所得は2兆円以下とも言われています。差額は、資材費等や企業利潤ということになりますが、その部分が増えて、ゼネコンや金融機関の不良債権処理に回っていると考えるのが妥当でしょう。建設される公的資本(道路や橋)の品質も下がっているかもしれません(つまり、資材費等の圧縮、ひょっとすると手抜き工事)。
こうした事実については、今後、データに基づいて検証していく必要があります。
先週の水曜日(5日)、「証券決済システム法案」という法律が国会を通過しました。耳慣れない法案ですし、あまり報道されていませんよね。しかし、この法案が通ったから、タレントの藤原紀香さんがテレビやポスターでニコッと笑って「国債、買ってね」というコマーシャルが始まったのです(紀香ファンには朗報。思わず僕も買いそうです)。
この法案は2つの部分から構成されています。ひとつは、法案の名前にあるとおり、国債等の証券決済に関わるシステムインフラを高度化しようという内容です。もうひとつは、個人向け国債やストリップス債(元本部分と金利部分を分離できる国債)の販売や、政府が金利スワップ取引や買入消却(国債を買い戻して消却すること)をできるようにしようというものです。前者はとくに問題ありませんが、後者がちょっと問題です。
どうしてこういう法案が必要になったのでしょうか。その理由については、塩川財務大臣や尾辻財務副大臣が国会質疑の中で正直に発言しています。衆議院財務金融委員会で塩川大臣は「まあ、政府が何でもできるようにしておくということです」と答弁し、尾辻副大臣は参議院財政金融委員会で「まさかの時に備えた法案です」と発言されました。
「まさかの時」って、どういう時でしょうか。それは、国債の大量発行が続く中で、いよいよ国債が今までと同じようには発行できなくなる時のことです。つまり、この法案は、「国債の有事」に備えていろいろな「戦闘手段」を用意しておこうというものです。
「戦闘手段」のひとつが、読者の皆さん、つまり個人に国債を販売できるようにしようということです。「個人向けに売っても、いいじゃない」とおっしゃる方もいるでしょう。別に悪いとは言いません。しかし、「戦闘手段」ですから危険も伴います。「個人向け国債の危険って、何」と思われることでしょう。償還前に売却しようと思えば、売価損が発生することもあります。償還まで保有していれば元本は保証されますが、インフレによって実質的には目減りするかもしれません。そういう「危険」を意味します。
皆さんも、それを理解したうえで購入してください。かく言う紀香ファンの僕も、国に対する債権者となるべく購入するつもりです。販売者である政府が、投資家である個人に十分な説明責任を果たしているか否かを、個人投資家のひとりとしてチェックさせてもらいます。
「戦闘手段」の主力である「金利スワップ取引」については、少々話が難解になりますのでここではご説明しません。東洋経済新報社の雑誌「金融ビジネス」誌上でこの件を執筆しますので、ご興味のある方は是非ご一読ください。
(了)