参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
速水日銀総裁が3月19日で5年間の任期を終えて退任されます。本当にお疲れ様でした。あと少しです。頑張ってください。先週発売の「金融ビジネス4月号」で速水総裁時代の金融政策を回顧した記事を書かせて頂きました。より詳細な寄稿文は3月5日発売の「論座4月号」に掲載して頂きます。ご興味のある方は是非ご一読ください。
米国のイラク攻撃に対する日本の姿勢を巡って議論が盛り上がっています。たしかに難しい問題です。
昨日(23日)の朝のTV番組でも、民主党の末松義規衆議院議員、自由党の達増拓也衆議院議員、自民党の山本一太参議院議員、高市早苗衆議院議員が真剣な議論を交わしていました。
山本議員がひとつの典型的な主張をしていました。曰く「米国を支持しないのは現実的ではない。『国民の生命と財産の安全を守る』のが政府の仕事である。朝鮮半島有事の際に米国に守ってもらうためには、イラク問題で米国を支持するのは当然である」という主張です。なるほど、一理ある考え方です。朝鮮半島有事の際に、日米安保条約に基づいて米軍に助けてもらうためには、イラク問題で米国と共同歩調をとる必要があるということですね。
・・・と言うことは、北朝鮮問題が存在する限り、米国が世界のどこで軍事行動をする場合でも、日本は常に米国と行動をともにするということでしょうか?
そもそも、イラク問題で米国を支持するかどうかにかかわらず、有事の際の日本における米軍の役割は、日米安保条約に明記されているのではないでしょうか?時と場合によって対応や解釈が変わるような条約が「条約」と言えるのでしょうか?
「国民の生命と財産の安全を守る」のが政府の役割というのは全く同感です。しかし、それをいつまでも米国に依存した外交防衛政策を行っている政府・与党は、本当に「国民の生命と財産の安全を守っている」と言えるのでしょうか?
難しい問題です。皆さんも一緒に考えてください。ところで、冒頭にご紹介したTV番組の件ですが、野党側の末松議員、達増議員がいずれも元外交官というのは何か不思議ですね。今、野党には、旧態依然とした官僚機構の政策判断に危機感を感じている官僚出身議員がどんどん増えています。おもしろい現象です。
主張の是非は別にして、こうして与野党の議員が真摯に議論することは結構なことだと思います。
その一方で、小泉首相や川口外相は国会ではハッキリとしたことを言いません。「仮定の質問には答えられない」「イエス、ノーを答えない方がいい問題もある」というような答弁ばかりで、国会で日本の外交防衛政策に関する真摯な議論が全く行われません。困ったものです。
ところが、首相や外相よりももっと立派な人達がいました。去る1月27日、加藤駐米大使はニューヨークにおける講演で「日本は明確に米国を支持すべきだ」と発言してニュースになりました。また、先週2月18日には、原口国連大使が国連での公聴会で米国支持の姿勢を明確に示し、これも大きく取り上げられました。首相や外相よりも歯切れがよく、はっきりした内容でした。
・・・しかし、ちょっと待ってください。首相や外相がはっきりした方針を国会の場で答弁しない中で、どうして駐米大使や国連大使が日本の命運を左右するようなことについてそんな発言をするのでしょうか?
大使は、首相や外相よりも偉いということでしょうか?いったい、どんな権限があって、国民からどういう負託を受けてそういう発言をするのでしょうか?困ったものです。事前に首相や外相の了解をとっていたというならば、大使が発言する程度のことすら国会で答弁しない首相や外相の姿勢が問題となります。そう言えば、川口外相は国会ではほとんど内容のあることを言わない一方、2月9日に出演したサンデープロジェクトでは随分能弁さを発揮していました。まったく不合理、不見識な行動と言わざるを得ません。
こういう実態を放置している与党から、「イラク問題で米国支持を明確にしないことは、『国民の生命と財産の安全を守る』という意識がないからだ」などと言われる筋合いはありません。いったい、日本の外交防衛政策を決めているのは誰でしょうか?外務官僚は政府が決めた方針を忠実に実行するスタッフのはずです。
小泉さん、川口さん、しっかりしてくださいよ、まったく。
イラク問題、北朝鮮問題、不良債権処理、産業再生機構、医療費負担増など、まさしく難問山積です。そんな中で、年金制度見直しの検討が着々と進んでいます。
厚生労働省は昨年末に見直し案を提示しました。平成16年度の予算編成作業が始まる8月頃までには、厚生労働省案に対する財務省案も決まることでしょう。その段階では、事実上、見直し案が確定することとなります。実は、年金制度改革論議も今が正念場なのです。
厚生労働省案は、簡単に言えば、現行制度を前提に保険料を引き上げるということです。医療保険制度と同様、ここでも抜本改革は先送りのようです。
ところで、保険料引き上げが必要なのは、給付規模に比べて積立額(給付原資)が足りなくなっているからです。当初の想定運用利息も加味すると160兆円ぐらいはなければならない給付原資が、運用の失敗で140兆円程度しかないのです。
運用の失敗の責任はどうなっているのでしょうか?給付原資が不要不急の厚生労働省関連施設の建設に回され、結局焦げ付いてしまった責任はどうなっているのでしょうか?保険料引き上げで当座は凌げても、資金管理を厚生労働省(社会保険庁)に任せるのでは、また同じ失敗を繰り返すのではないでしょうか?
それならいっそのこと老後の備えは自己責任として、公的年金制度は原則廃止としてはどうでしょうか。その場合、備えのない国民のみに必要最低限の公的年金を給付することが考えられますが、それって生活保護とどこが違うのでしょうか?
ところで、いよいよ本格的な少子高齢化時代を迎え、消費税引き上げを契機に、消費税を福祉財源として活用する案がよく話題に上ります。
とりわけ、年金財源として活用できれば、高齢者(年金受給者)も消費税を払うことで財源負担をすることとなり、現役世代の負担が軽くなるという主張をよく耳にします。でも、それって本当でしょうか?
消費税引き上げの際にはきっと物価が上がります。物価にスライドして年金受給額も上がることでしょう。その場合、結局財源不足になれば、また保険料が引き上げられるかもしれません。そうなれば、また現役世代の負担増につながるかもしれません。保険料と消費税の負担配分の問題ですね。
上述の給付原資の管理、生活保護との違い、そして保険料と税の負担配分など、いずれも難しい問題です。しっかり議論する必要があります。国会で議論する前に、厚生労働省と財務省の間で事実上見直し案が固まってしまうことは避けなくてはなりません。
東京証券取引所が、会社更生法適用など法的整理に入った企業でも株式上場を継続することができるようにする方針を固めました。企業再生を行い易くすることを狙いとするもので、現在の上場廃止基準を見直し、年内にも実施するそうです。
法的整理には2種類あります。再建型(会社更生法、民事再生法)と清算型(破産法)です。このうち、再建型を念頭に置き、「敗者復活」を目指す企業が上場を維持できるようにするということです。
現在の日本の経済情勢を考えると、一見、もっともなような気がします。でも、ちょっと待ってください。
株式市場の本来の役割は、企業が効率的な資金調達ができるようにするとともに、投資家の厳しい目によって企業の優劣を決めていくことにあります。市場原理によって経済を発達させていくために非常に有用なインフラです。
東証は言わばJリーグのようなものです。リーグ戦で下位になったチームをJ2の上位チームと入れ替えるからこそ、サッカー全体が盛り上がります。J1のチームは下位にならないように、J2のチームはJ1昇格を目指して頑張ります。こうした緊張感と真剣さがあるからこそ、ファンも本気になって応援してくれるのです。
法的整理企業の上場継続は、株式取引所というKリーグ(韓国サッカーリーグみたいですね)の活気を失わせます。一旦Kリーグから脱落したら、頑張ってまた昇格すればいいのです。Kリーグのメンバーを固定するような今回の方針は、K2以下のメンバーのヤル気を失わせます。
今日本経済に必要なのは、メンバー全員が緊張感とヤル気を持つことです。東証の今回の方針だけでなく、国会で議論の始まった産業再生機構も含め、政府・与党の経済政策は果たしてKリーグの活性化になるでしょうか。下り坂のチームを特別扱いし、上り坂のチームの芽を摘んでいないでしょうか。これでは、プレーヤー(企業)もファン(投資家)も白けてしまいます。
おまけに、RCC(整理回収機構)や産業再生機構は、どのチームを特別扱いするかを密室で決めるようです。リーグ(=日本経済)運営の方針や各チームへの対処方針(会計ルール、上場基準など)を、国会でしっかりと議論する必要があります。
それにしても、今回の東証の方針は、企業側の事情を重視するあまり、投資家の視点が欠落しています。竹中大臣の「ETF(株価指数連動型上場投資信託)は絶対もうかる」発言が国会を賑わしていますが、今回の東証の方針が実現すると、ETFは概念的には法的整理企業の株価にも影響されることになります。はたして投資家はそれを望んでいるでしょうか。
東証も今や株式会社です。上場登録料(東証にとっての売上げ)を維持したいばかりに、証券取引所の理念(公正なルールに基づく企業育成、投資家の育成と保護)をないがしろにするようでは、東証自身の将来もちょっと心配ですね。東証も株式会社になったのですから、社長を官僚(大蔵省=財務省)OBから民間人に変わっていただいた方がいような気がします。
もちろん、官僚OBでも、的確な判断と決断ができる方なら問題ありませんが・・・。
(了)