参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
「三位一体改革で首相裁定」という新聞の見出しをみると、「さすが小泉さん」と思われる方もいるでしょうが、それは誤解です。大臣間の調整がつかず「首相裁定」が必要になるのは、当初段階で首相としての明確な方針や指示を示さず、丸投げにしている結果と言えます。「裁定」が必要になるような首相は「最低」です。
三位一体改革とは、1.補助金の削減、2.地方交付税の削減、3.財源の地方への移譲、の3つを指します。国が税金の3分の2を巻き上げ、「国の指示どおりに不必要な箱物やインフラを作る地方自治体には補助金や交付税を配る」という日本を衰退させてきた仕組みを見直すということです。それ自体は正しい方向性です。
それは、もう20年も前から言われてきたことです。それをいつまでもやらないから、日本は衰退してきたのです。見直しを阻止してきたのは、箱物やインフラを作る際に不当利得を得る、1.利権政治家、2.悪徳官僚、3.結託業者の3者です。
やることはハッキリしていたのですから、「自民党をぶっ潰す」と大見得を切った小泉首相は、直ちに具体的な指示を出し、各大臣、各役所に見直しを断行させるべきだったのではないでしょうか。それが、国民が小泉首相に期待したことです。
しかし、実態はご覧のとおりです。かねてから申し上げているとおり、国も基本的には企業と一緒です。首相は社長です。業績悪化が著しい企業(日本株式会社)に「改革断行」を唱えて颯爽と登場した社長が、就任後2年経ってようやく「裁定」を行ったという構図です。言い換えれば、部長(各大臣)が社長の指示に従っていないということです。企業であれば、とっくに倒産しています。しかし、国はなかなか倒産しないことをいいことに、改革を先送りし、利権構造を温存してきたのが自民党政権です。
小泉首相、その自民党を「ぶっ潰す」のではなかったのですか。この期に及んで、また先送り、中途半端、かつ総論のみで各論なしの「裁定」ですか。やっぱり「最低」です。なかなか倒産しない日本株式会社にも、ヒタヒタと崩壊の足音が近づいています。
「補助金削減4兆円、8割の財源を地方へ移譲」ということになっていますが、具体的にどの補助金を削減するのかは何も決まっていません。早く決めてほしいものです。
でも、ちょっと待ってください。削減額の8割は地方に移譲ということですが、どうして8割なのでしょうか。残りの2割=8000億円は国の新たな財源になる格好ですが、いったい何に使うのでしょうか。
真の三位一体改革の対象は、1.利権政治家、2.悪徳官僚、3.結託業者の3者です。ここにメスを入れないまま、国が新たに8000億円もの財源を手にするというのは、何だか釈然としません。
昨年行われた医療改悪、すなわち医療費削減と患者の自己負担引き上げは、7000億円相当分を確保するために行われました。今回、新たに8000億円が確保できるならば、例えば、医療改悪を止めるために充当すべきではないでしょうか。
そういう組み合わせを念頭に置いて、改革を具体的に指示するのが社長(首相)の役割です。丸投げ経営のため、各部門(各政策分野)の動きがバラバラです。各部門の部長(大臣)も勝手気ままに振舞っています。これではゴーン社長のように「V字回復」を実現することは困難です。小泉社長の裁定は「V字回復」ではなく「キリモミ降下」につながっているような気がします。
2割=8000億円の使い道、今後の国会審議で明らかにしていきます。
冒頭でも申し上げましたが、三位一体改革の方向性は正しいと思います。今後の成否は、全体として整合的な内容で改革が進められるか否かにかかっています。
そもそも「税金(公的資金)の無駄遣い=不要不急の支出」を放置したままでは、いくら国と地方の関係を改めても無意味です。先週の金曜日(20日)、岩国哲人衆議院議員の質問趣意書に対する政府の答弁書によって、以前から問題になっていた厚生労働省の驚くべき無駄遣いのひとつの全貌が明らかになりました。
同省所管の特殊法人「雇用・能力開発機構(旧雇用促進事業団)」が過去に建設した施設が、二束三文で売却されているという話です。対象の2070施設のうち、現在までに1507施設の売却が決まり、売却総額は何と7億2600万円です。高いのではありません、安すぎるのです。全体の約5割が1万円程度で売却されているほか、埼玉、和歌山、鹿児島の3つの施設は何と1050円で売却されています。建設コストは全体で約4500億円かかっています。いったいどういうことでしょうか。
これらの施設は、厚生労働省に係わる利権政治家、悪徳官僚、結託業者の利権(リベート、天下りポスト、受注確保)のために建設されてきたと言えます。ふざけた話です。
これに対して坂口厚生大臣は「今後はもう少し適切な価格とするよう検討している」という摩訶不思議な答弁をしています。これほどの無駄遣いを行った結果責任はどうするのでしょうか。行政当局がこんなことでは、現在、多くの企業経営者が過去の経営責任を問われていることと整合的ではありません。過去の厚生族議員、厚生官僚、事業団関係者の責任を追及する必要があります。
政治や行政の無責任体質を放置したままでは、三位一体改革は「国会の利権政治家+霞ヶ関の悪徳官僚」から「地方の利権政治家+自治体の悪徳役人」に無駄遣いの主役が変わるだけかもしれません。
真の三位一体改革は、1.利権政治家、2.悪徳官僚、3.結託業者の3者を排除し、監視する仕組みをつくることです。利権構造を生み出してきた政治・行政・経済の仕組みを変えることこそが真の三位一体改革であり、それは中央・地方に網の目のような利権構造を張り巡らせた「自民党をぶっ潰す」ことから始まるのです。小泉さんには、本当にその覚悟があるのでしょうか。
僕自身はこんな中途半端な内容にとどめず、この際、税源は全て地方に移譲し、地方から国に必要な業務(外交安保政策、全国的な調整が必要な政策)に充当する財源を渡すという構造に抜本改革すべきと考えています。
国会は7月28日まで会期が延長されました。イラク新法や金融関係のいくつかの法案を審議するためです。
イラク新法については、今週から衆議院で審議が始まります。論点はいろいろありますが、最も重要な論点はイラクに自衛隊を派遣する目的です。言うまでもなく、自衛隊は「日本国民の生命と財産の安全を守る」ために存在しています。と言うことは、自衛隊のイラク派遣がその目的に資することが必要です。
「日本国民の生命と財産の安全を守る」ためには、世界が平和であることが必要です。イラクに自衛隊を派遣することが、世界平和の向上につながり、新たな憎悪(=日本に対する悪感情)を生まない限りは、結果的に「日本国民の生命と財産の安全を守る」ことになります。
そのように考えると、少なくとも、イラク国民から誤解されるような(=日本に対する悪感情を生むような)派遣の仕方は避けるべきでしょう。治安維持に直接関わることとなれば、時と場合によっては日本の自衛隊がイラク国民を傷つけることになるかもしれません。したがって、仮に派遣を認める場合でも、医療やインフラ整備といった分野に限定するべきです。
しかし、そうした分野では、既にジャパン・プラットフォームやピース・ウィングといったNGOの皆さんが活躍しています。こうした実情を踏まえると、NGOの皆さんの活動をサポートする方向で政府の支援を行い(=世界平和への貢献)、NGOや政府からの派遣者の皆さんの身辺警護に限定して自衛隊員の皆さんにも頑張って頂くというのが、ひとつの選択肢かもしれません。
いずれにしても、非合理的で中途半端、かつ現場の皆さんにリスクを押し付けるような内容で決着させてはいけません。対外的なポーズを意識して大々的に自衛隊を派遣し、その一方で国内の批判をかわすために自衛隊員の皆さんを必要以上のリスクに晒す(=危険地域への派遣や治安業務に従事させつつ、武器使用基準は緩和しない)という、過去の日本の外交安保政策のご都合主義を踏襲することは止めてもらいたいものです。
もうひとつの論点は米国に対する態度です。日本の外交安保政策の基本姿勢と言ってもいいかもしれません。
米国の良きパートナーであると同時に、国際社会において「自立した人格=国格」を持った国として敬意を表されることを望みます。
イラクには現在、独立した政府は存在していません。米国統治下のOCPA(連合国暫定当局)がイラクを治めています。既に施行されているPKO法では「相手国政府」から要請されることが自衛隊派遣の前提となっています。今、イラクには「相手国政府」が存在しない状態です。
フランス、ドイツ、カナダ、ロシア、中国などは、軍隊派遣やOCPAへの要員派遣は行わない方針です。日本が「国格」を持った国として、明治以来の先人達が築き上げてくれた主要国としての名誉ある地位を維持するのか、あるいは、既に軍隊派遣を決めている米国追従型の国と同様の地位にポジションを変えるのか、日本の外交安保政策にとって重大な転換点となる判断を迫られています。
(了)