参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
10年前の今月発足した細川政権以来、日本は連立政権時代に入りました。そして、小選挙区制度が導入されて3度目の総選挙が近づいています。小選挙区は政権交代可能な二大政党制確立を目指して導入された制度です。二大連立勢力の対立軸で選挙が行われようとしているのは当然の帰結と言えます。10年経って漸くここまできました。3度目の小選挙区選挙で「3度目の正直」の政権交代は起きるのでしょうか。有権者の皆さんの投票行動が歴史を作ります。
5月に活動を開始した産業再生機構の支援案件が漸く決まりそうです。九州産業交通、ダイア建設、三井鉱山などの名前が取り沙汰されています。今日の日経新聞朝刊の1面トップには大々的に「三井鉱山、再生機構が子会社化、国・銀行が1700億円債権放棄へ」、5面解説には「再生機構、企業国有化で産業再生」という見出しが踊っています。
記事を読んでいて、ふとシュンペーターのことを思い出しました。シュンペーターについては、メルマガ41号で竹森俊平慶大教授の著書に関連して触れさせて頂きましたが、今一度、シュンペーターの主張について考えてみたいと思います。
シュンペーターと言えば、技術革新とイノベーターの出現によって経済は飛躍的に発展するという「経済発展の理論」があまりにも有名です。しかし、この「経済発展の理論」については、その背景をよく理解することが重要です。
シュンペーターの生前の最後の大作である「資本主義・社会主義・民主主義」の中で、資本主義に対する警鐘が鳴らされています。「資本主義は、その成功の故に、結果的に崩壊して社会主義に移行する」という「資本主義の崩壊」という考え方です。一部の知識人は「シュンペーターは社会主義者になった」と批判しました。しかし、その批判はシュンペーターの主張の意味を全く理解していなかったと言えます。
シュンペーターの指摘は、資本主義が成熟するに従って、完全雇用政策、経済安定化政策=景気対策、所得再分配政策、資源再配分政策などの国家介入が度を超して行われ、それによって資本主義は延命するものの、結果的に徐々に社会主義的秩序に移行していくという内容です。
「再生機構、企業国有化で産業再生」という見出しでシュンペーターのことを思い出してしまったのは、僕の思い過ごしでしょうか。
新聞報道によれば「産業再生機構は三井鉱山に現経営陣の総退陣を求め、後任社長として外部経営者を招く」とされていますが、ここが重要なポイントです。
シュンペーターの定義によるイノベーターは、必然的に社会主義秩序に移行する資本主義の閉塞状態を打ち破るような英雄的企業家のことを指します。社会主義的秩序の下で企業を再建しようとする政府によって選ばれる外部経営者は、はたしてシュンペーターの期待するような英雄的企業家なのでしょうか。ちょっと違うような気がします。
日本経済の閉塞状態の原因はいくつもありますが、そのひとつが自由な企業活動を阻害する行政の規制や指導であることは周知の事実です。それが消費者保護や国民の利益のためならまだしも、実際には、その多くが官僚機構の利権や天下り先を確保するための不要不急の規制や指導です。
典型例は企業活動を行うに当たって必要となる様々な資格制度です。そうした資格の認定・管理には公益法人が絡んでいることが多く、その公益法人には官僚OBが天下り、また官僚OBには資格が試験免除で付与されるという仕組みです。読者の皆さん、皆さんの業界周辺でそうした事例があれば、是非ご教示ください。
いずれにしても、非常に大雑把に言えば、日本経済の衰退を救うイノベーターは政府のご用聞きのような経営者ではなく、むしろ政府と対峙して不要不急の規制や指導と闘っていく経営者であることは明らかです。そうした経営者こそが、シュンペーターの定義した真のイノベーターなのです。
ところで、僕が学部時代に師事した故伊達邦春先生はシュンペーター研究の第一人者でした。3年前にご逝去されましたが、先生は遺稿の中で次のように述べておられます。
曰く「今の低迷状態を抜けだすためにはこの少数かもしれないが、シュンペーターの英雄的企業者の出現こそが決定的に重要である。そして、この出現が待望されるのはなにも経済界だけでなく、政界にも官界、金融界、マスメディアの世界にもいえることであり、制度的な革新を抜本的に行うためにも。」(原文どおり)と述べておられます。恩師の言葉を肝に銘じて職務に邁進したいと思います。
ところで、経済が繁栄し、国民が豊になるための原理原則は実は単純なものです。国は国民から税金という名目で資源(リソース)を集め(=上納させ)、それを使って様々な政策を行います。したがって、集める税金の額を必要最低限にとどめ(=無駄な税金を集めず)、集めた税金が本当に必要な政策に正しく効率的に使われれば(=税金を無駄遣いしなければ)、経済はもっとよくなるはずです。
残念ながら官僚組織は「無駄な税金を集め、税金を無駄遣いする天才」です。官僚や公務員の個々人レベルではそんなことをしない真面目な人も多数いると思います。しかし、全体としての官僚組織や役所は、個人の意識とは別に税金をムシャムシャと喰らう「お化け」と化しています。利権政治家、悪徳官僚、結託業者の「鉄のトライアングル」です。
先の通常国会で改正消費税法が成立し、来年4月から価格表示方法が「外税表示」から「内税表示」(総額表示=商品価格+消費税)に変わります。財務省は「総額表示はいくら払えばいいかが一目で分かる」として、「内税表示」は消費者のためだと主張していますが、それは詭弁(きべん)です。
「内税表示」になれば消費税を払っている意識が希薄になります。納税者意識を希薄にすることは、政府や官僚組織にとっては都合のいいことかもしれませんが、国家を堕落させることにほかなりません。国民が政府の政策に対する適切な監視を行ってこそ、より良い国づくりが可能となります。官僚組織による税金の無駄遣いにもチェック機能が働くようになります。
所得税や地方税の源泉徴収制度も同様です。サラリーマンの皆さんの納税者意識を極めて希薄なものにしています。こうした制度に対しても、本来はイノベーションが必要です。伊達先生のご指摘のように、政界にも官界にもイノベーターの出現が待たれます。
反対に、経済崩壊のプロセスを着実に歩ませるような制度や政策を生み出す政治家や官僚、あるいはそうした経営を行う企業家のことを何と呼べばいいのでしょうか。
辞書でinnovateの反対語を調べてみました。aggravate(さらに悪化させる、一層重くなる)とかdeteriorate(悪くなる、堕落する)という単語が概ね該当しそうです。そこで、イノベーターと反対のことをするような人々を、この際、アグラベーターと呼ぶことにしましょう。現状と既得権益に胡座(あぐら)をかき、地ベタに座り込んでサボタージュを決め込んでいるというイメージに合いそうです。
さて、あなたはイノベーター派ですか、それともアグラベーター派ですか。今度の総選挙は「イノベーター対アグラベーター」の闘いにしたいと思います。税金の視点から言えば、「タックスペーヤー(納税者)対タックスイーター(税金喰いのお化け)」とも言えます。乞う、ご期待。
(了)