参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
国会開会の26日に合わせたかのように内閣府は今年度の名目成長率見通しをプラス0.1%と発表しました。プラス成長が実現すれば3年振りです。発表された成長率は細かい数字でしたが、発表日を国会開会日に合わせるという芸も実に細かい・・・と感じたのは僕だけでしょうか。成長率の算出方法も微妙に変えたと聞いています。これまた実にきめ細かい。どういう風に変えたのか、内閣府に聞いてみるつもりです。
名目成長率がプラスに転じるのは、設備投資が大幅に増加するという見通しに基づいているようです。ご存知の方も多いと思いますが、非常に大雑把に言うと、成長率は個人消費、設備投資、政府支出、外需(輸出マイナス輸入)の4つの伸び率の合計です。設備投資が大幅に伸びてプラス0.1%ということは、他はそれほど伸びていない、あるいはマイナスということです。
国民が景気回復を実感できるのは個人消費が伸びるような状況です。内閣府は名目ベースの個人消費の数字は公表していません。どうしてでしょうか。
ところで、設備投資が増えたと言っても素直に喜べない理由が2つあります。ひとつは、今回の動きが設備の老朽化に伴う更新投資が中心だからです。長い間の不況と企業収益低迷で、設備投資を手控えていた反動と言えます。どんな理由でも伸びないよりは伸びた方がいいとは思いますが、こうした状況を称して、小泉さんの所信表明演説のように「改革の芽が出てきた」と表現するのはいかがなものでしょうか。
老朽化設備を更新する余力が出てきたのは、企業収益が回復したからです。しかし、企業収益の回復の背景がこれまたいただけません。それがふたつめの理由です。
企業収益が回復したのは、簡単に言えば人件費削減、要はリストラの効果です。いやいや、リストラとも言えません。このメルマガでも何度かお伝えしているように、リストラの本来の意味は「リストラクチャリング=業務再構築」です。人件費削減を主因とした収益回復はリストラの成果ではありません。
サラリーマンの平均年収は1998年から減少に転じています。おまけに人員削減です。「分社、転籍、能力給」という人件費削減の「三種の神器」を使い果たした企業も少なくありません。今年度の第3四半期(10月から12月)は再びマイナス成長になるとの予想も聞かれます。さて、今回の3年振りのプラス成長見通しをどのように評価すべきでしょうか。
心配なのは設備投資だけではありません。外需(輸出マイナス輸入)も堅調なようですが、その中身が大きく変わっています。
日本の貿易黒字は2002年度に約11兆円ありました。しかし、その中には日本企業の国内拠点と海外拠点(主に中国)の間で行われた企業内貿易も含まれています。企業内貿易の輸出は約17兆円、輸入は5兆円、差し引き12兆円の黒字です。
・・・ということは、本来の貿易黒字は1兆円の赤字です。これは大変なことです。
日本経済の回復パターンは、長い間、「輸出回復、設備投資増加、所得増加、個人消費増加」という順番でした。輸出主導であることから、「輸出ドライブ」とか「近隣窮乏化策」などと言われてきたのです。
今回はこのパターンではありません。前の項目でお示ししたように、「所得減少、企業収益回復、設備投資増加」による名目成長率プラスです。「失業ドライブ」とか「従業員窮乏化策」とも言えるでしょう。設備投資増加が雇用増、所得増につながらなくては、本当の回復軌道には乗れません。
しかし、雇用増につながる設備投資はもっぱら海外(主に中国)中心です。このことが貿易黒字の構造変化につながっています。さて、それでは日本はどうすればいいのでしょうか。
日本経済、日本企業の対外競争力を高めることが必要です。それに尽きます。そのためには「同一化」と「差別化」の2つの選択肢があります。
日本は、他の先進国と比べて経済を下支えする年収2、3万ドル前後(300万円前後)の労働者層が少ないと言われています。そのことが企業の人件費負担増となり、「分社、転籍、能力給」という「三種の神器」による人件費削減の動きにつながっています。この動きを続けて人件費構造を他国と同様にするか、あるいは外国人労働者を受け入れてそういう層を作り上げるか、いずれにしても他国と同様の人件費構造を作り上げること、それが「同一化」の選択肢です。
この選択肢は夢がありません。これでは、本来のリストラを行えず、人件費削減だけで企業収益を回復させている動きの延長線上の展開に過ぎません。「同一化」政策もある程度は必要ですが、それだけでは不十分でしょう。
そこで「差別化」です。日本経済、日本企業が、他国にはない産業や製品を誇ることです。これが王道です。しかし、今の日本は、それを実現するにはあまりにも障害の多すぎる国です。その障害を取り除くような政策運営が必要であり、それこそが構造改革なのです。
小泉さんは所信表明演説の中で「構造改革の種をまき、ようやく芽が出てきた。これを木に育てたい」と述べました。構造改革の本質的な意味を理解できていないようです。自分で考えていませんので、致し方ないことでしょう。困ったものです。
今、日本に必要な構造改革とは「種をまき、芽を出す」類(たぐい)のものではありません。日本経済、日本企業にはもともと高い潜在能力があります。それが「種」であり「芽」にほかなりません。小泉さんが「種」をまく必要はありません。余計なお世話です。この局面の日本の指導者がなすべきことは、そうした「種」が芽吹くことを妨げている雑草や害虫を徹底的に除去することです。
すなわち、徹底的な規制改革、行政改革、官僚制度の見直しが必要です。「民」が窮して「官」が栄えるこの国の姿は異常です。残念ながら、小泉さんはこれらの点に真剣に取り組んでいるとはとても思えません。所信表明演説も何の気なしに聞いているとよく分かりませんが、実はひとつひとつの表現の中に、思索や熟考の程度が垣間見えます。小泉さんの発言はあまりにも軽く、そして自分の言葉になっていない。悲しいことです。
今度の総選挙は2つの選択肢の競争です。正しい選択肢を選ぶこと、それが日本経済復活の王道です。
(了)