参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
明けましておめでとうございます。OKマガジンも足かけ4年目に入りました。今年もどうぞよろしくお願い致します。年初に当たり、日本の混迷を生み出しているトリック(ごまかし)の本質を整理してみたいと思います。
19日から通常国会が始まります。年金制度の改革案が審議されます。保険料率、給付水準、パートタイマーの取扱い、健康保険との連動の仕組み、基礎年金の国庫負担など、論点は目白押しです。
しかし、一番重要な論点は「年金制度とはそもそも何なのか」ということです。当たり前のことを申し上げるようですが「若い頃から保険料を納めておくと、年をとってから年金をもらえる」という仕組みが年金制度です。でも、納めた分だけもらえるならば、自分で貯めておけばいいことです。では、なぜ政府が年金制度を運営する必要があるのでしょうか。
老後の生活を賄うだけの給付が受けられない人(=それに見合う保険料を現役時代に納められない人)にも所要の生活資金を提供することが公的年金制度の意味です。つまり、国民の間で所得移転、所得再分配を行っていることに等しく、そして、所得再分配は政治そのものです。だから政府が年金制度を運営しているのです。
政府が行う政策の財源は国民の税金で賄われます。それが「租税国家」です。「保険料を納める」という表現は「保険料は税金と違う」という印象を国民の間に定着させていますが、上述の論旨でご理解頂けるとおり、保険料は税金と何ら変わりはないのです。
医療保険の負担もどんどん上昇しています。来年には介護保険料も引き上げられるでしょう。年金、医療、介護。社会保障政策の根幹をなすこの3つはいずれも「保険制度」で運営されています。保険料負担が上昇するということは、本質は増税と同じです。実質増税をカモフラージュするための保険料引き上げ、給付削減を行う一方で、無駄な財政支出を続けていることにこそ問題があります。
メルマガ61号でもご説明しましたとおり、この際、「いったい国民はどの程度の税負担をしているのか」を実感するために、保険制度を全廃し、全て税金で賄う仕組みに改める必要があると思います。消費税率は上がることとなるでしょう。しかし保険料負担はなくなります。そのうえで、社会保障政策の優先度、他の不要不急の財政支出の実態について虚心坦懐に精査をし、新しい枠組みをつくることが必要です。それこそが抜本改革です。
「保険料は税金と違う」というトリックと、「少子高齢化だから保険料負担が上がるのは仕方ない」という詭弁を弄しているかぎり、日本の混迷は続くと言わざるを得ません。詳しくはメルマガ61号をご覧ください(ホームページにバックナンバーがアップしてあります)。
新年早々、日本の混迷を生み出しているトリックの本質を考えさせられる地味なニュースが報道されていました。
「その1(1月8日、朝日新聞)」 納税の窓口業務や納税事務担当職員の自治体への派遣など、これまで地方銀行が自体体に提供してきたサービスを見直す動きが広がっているとのことです。
「その2(1月8日、中日新聞・東京新聞)」 1月19日から、各種行政手数料の支払や納税がパソコンや携帯電話を利用したネットバンキングや銀行のATM(現金自動預払機)で行えるようになるということです。
いずれも、納税コストを誰が負担するかという問題と関係しています。上記1の話題で「租税国家」という言葉を使いました。「税を集め、税を使う」、それこそが政府の本質なのです。だからこそ、国民が質の悪い政府を選択すると「不必要な税を集め、税を無駄に使う」ことになるのです。
質の悪い政府は、その質の悪さを国民に知られないようにするために、できるだけ税金を納めているという実感を国民に与えないように工夫します。サラリーマンの源泉徴収制度はその最たるものです。税金だけではなく保険料も「天引き」されていることが「保険料は実は税金である」ことを証明しています。「天引き」とい言葉にも「お上(かみ)が年貢を徴収する」という意味が込められています。
源泉徴収制度は納税コストを事実上企業に転嫁しています。社員(国民)に担税感を感じさせないばかりか、税金を集める負担を企業に転嫁しています。実質増税と言っても過言ではありません。「税を集め、税を使う」のが政府の仕事であるならば、その仕事とコストは政府が行い、負担すべきものです。
さて、「その1」のニュースですが、地方銀行が「納税コストの転嫁はもうお断りだ」という姿勢に転じたということです。例えば、福島県の東邦銀行では、県の納税業務だけで年間3500万円の人件費が投入されていたそうです。県内のその他市町村分も含めると億円単位になることでしょう。
「その2」のニュースです。利用者も銀行側も便利になることはいいことです。ところで、システムの開発コストは誰が負担しているのでしょうか。銀行側が負担すれば、最終的には利用者(国民)や株主に転嫁されることになります。しかし、本質的な視点から言えば、これらの開発コストは政府が負担すべきものではないでしょうか。
ご自分の会社やお店がどの程度の納税コストを負担しているかを考えてみてください。この際、担税感を感じさせず、納税コストを転嫁するというトリック(源泉徴収制度)は廃止して、不便でもいいから国民全員が確定申告を行う制度に改めるべきでしょう。各種手数料の納付制度も同じです。そのことによって、「税を集め、税を使う」政府の活動に対する国民の関心が高まり、日本の混迷打開の糸口を見出すことにつながると思います。政府も財源(収入)を得ることの大変さを実感し、無駄な財政支出を減らすようになることを期待したいものです。
19日からの通常国会では郵便局で投資信託の販売を可能にする法案が提出されるようです。投信販売は株式販売への第一歩です。いずれは株式販売も議論になることでしょう。
竹中さんはドイツの民営郵便会社「ドイツポスト」のシュムビンケル会長を訪問し、郵政民営化への協力を要請したそうです。何でも海外のマネをするだけなら、自前の政治家や大臣は必要ありません。日本は本当に「ドイツポスト」のマネをするだけでいいのでしょうか。
メルマガ58号で詳しくご説明しましたが、郵政改革のポイントは郵便ではありません。郵貯と簡保です。国民から資金を集め、かつてはそれが「第2の予算」と言われる財政投融資に投入されていました。財投に対する批判が高まって以降は、直接財投に投入することを抑制して国債や財投債の購入に当てていますが、実態は同じです。
「第2の予算」と言われるぐらいですから、財投に回される資金、つまり郵貯や簡保に集まる資金は見方を変えれば税金の代わりとも言えます。
「あとで返ってくるんだから税金ではないでしょう」という指摘はそのとおりです。しかし、無駄な公的事業や不明朗な使途に投入された財投資金は焦げついています。その分は、本物の税収などで穴埋めしなくてはなりません。そうした負担の結果として社会保障政策の財源が不足すれば保険料負担の引き上げや給付水準の引き下げにつながります。
つまり、巡り巡って、郵貯や簡保に集まった資金を焦げつかせた穴埋めを税金や保険料で賄っていることを考えると、郵貯や簡保も担税感を感じさせずに民間部門から公的部門に資金を回す手段のひとつと言えます。
郵便局のネットワークはそのための「トリック」です。郵便事業そのものは引き続き国営、公営でも全然構いません。問題は「トリック」が見直されるか否かです。民営化された「ジャパンポスト」が引き続き大量の資金を集め、国債や財投債を購入し続けることが問題なのです。そのことを指摘すると、きっと小泉さんは「ジャパンポストは民間会社なのだから、資金を何に運用しようと自由だ。そういうことに口を挟むことこそ問題だ」と例の調子でまくしたてるのが目に浮かぶようです。
年末年始に郵政公社の地域分割の話が報道されていました。賛成です。仮に本当に地域分割を行うならば、同時に地方金融機関との合併・再編を行い、金融再生のために有効活用するのが合理的です。
合併・再編後の新地銀(ジャパンポストの地域組織+地方金融機関)が好業績をあげ、あるいは上場益をあげることができれば、郵政公社や地方金融機関の皆さんの努力も報われることになります。無駄な公的事業や不明朗な使途に流用される「穴」をふさぐことにもなり、官業の民業圧迫の是正にもなります。一石三鳥です。
日本の改革もこれからが正念場です。日本を混迷させているさまざまな「トリック」を是正していかなければなりません。今年もご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。
(了)