参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
通常国会が始まりました。「何もしなかったのではなく、余計なことは何もしなかったということだ」。参議院本会議で聞いた久し振りの小泉節でした。小泉節に当てはめると、きっとどんな行動にも失敗はないはずです。曰く「違う行動をとっていれば、状況はもっと悪くなっていたはずだ。私の判断が正しいから事態はこの程度で収まっている」ということでしょう。恐れ入りました。
「信じる者は救われる」という聖書の言葉にあるように、たしかに小泉節的な楽観主義も必要かもしれません。しかし、失敗や経験から学ぶ姿勢もなく、単に楽観的な見方を主張するのは危険なことです。
「失われた10年」と言われて久しく、最近では「失われた15年」とも言われます。こうした事態のきっかけがバブル経済の発生と崩壊であったことは周知の事実です。
1985年のプラザ合意を境に円高誘導が始まり、輸出国家日本は円高不況の恐怖に直面しました。そこで、断続的に金融緩和を行ううちにたいへんな好景気になりました。景気がよくなるのは歓迎すべきことでした。
ところが、未曾有の低金利政策を続けている割には消費者物価が上がることもなく、その一方で地価や株価が高騰しました。とうとう東京都の土地の資産価値だけで米国全土が購入できるほどになりました。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」というタイトルの本が売れ、「パックス・ジャポニカ(日本の時代)」などとも言われました。しかし、よく考えてみれば、東京都の土地が米国全土の価値と同じというのは異常なことです。好景気下での超低金利、株や土地の売買による不労所得で億万長者が続出というのも異常なことでした。その後の展開はご承知のとおりです。
異常なことの背景には異常なことがある。異常さの程度がひどいほど、異常な事態の修正局面も異常な事態になる。山高ければ谷深し。バブル経済の発生と崩壊でそうしたことを学んだはずです。
さて、日本はまた円高に直面しています。政府・日銀は断続的に円売りドル買い介入を行っています。昨年の介入額は20兆円を上回り、過去最高です。年明け後の介入額も既に6兆円に及んでいます。それでも円高ドル安傾向はなかなか変わりません。異常な事態です。
円売りドル買い介入をするためには原資(円)が必要です。そこで、政府はこれまでの介入で得たドルを運用するために保有している米国債を日銀に売り、その対価として日銀から円資金を調達するようになりました。異常な事態です。
「何が異常か分からない」という方も多いことと思います。つまり、介入の結果得た米国債を日銀に売却して介入原資(円)を調達するという仕組みは、永久かつ無尽蔵に介入原資を調達できるということです。日銀には米国債が溜り、為替・金融市場には円売り介入の結果、円がジャブジャブに供給されています。異常な事態です。
ジャブジャブの円はどこに向かっているのでしょうか。株式市場です。だから日本の株価はジリジリと上がっています。株価が上がるのは結構なことです。健全な株価上昇は大歓迎です。しかし、異常な事態の結果としての株価上昇は何だか不気味な感じがします。
さて、米国の双子の赤字と言えば財政赤字と貿易赤字です。どちらも1980年代からの懸案です。基本的には改善していません。1990年代は好景気の影響であまり話題になりませんでしたが、ここにきてまた注目されています。
しかし、米国は慌てていません。なぜでしょう。日本政府が円売りドル買い介入の結果として得たドルで、せっせと米国債を購入しています。財政赤字が拡大しても、日本のおかげで資金繰り(財政ファイナンス)には心配がないのです。
整理しましょう。日本政府は大規模介入を実施。保有している米国債を日銀に売却することで介入原資は永久かつ無尽蔵に調達可能。日本政府は介入の結果得たドルで米国債を購入。米国政府は財政赤字の拡大を気にせず米国債を発行(財政ファイナンスを継続)。日本の金融市場にジャブジャブに供給された円は株式市場に向かって株価を下支え。微妙な均衡です。何だかいいことずくめですが・・・。
異常なことの背景には異常なことがある。異常さの程度がひどいほど、異常な事態の修正局面も異常な事態になる。山高ければ谷深し。バブル経済の発生と崩壊でそうしたことを学んだはずです。大規模介入と微妙な均衡の背景で何か異常なことが起きていなければいいのですが・・・。
円売りドル買い介入の原資は財政資金です。日銀から調達していても、日銀も広い意味では政府部門です。日銀のバランスシートが毀損(きそん)したら、最終的には財政資金=国民の税金で修復しなくてはなりません。こんなに大規模な介入を続けていていいのでしょうか。
日本の財政赤字は異常な水準です。世界一です。しかし、「日本はまだまだ大丈夫。毎年貿易黒字が続いており、外貨を稼いでいる間は財政赤字も心配ない」という小泉節的な楽観論も聞かれます。とくに、財政拡大や財政支出の無駄遣いを容認する(無駄遣いの景気刺激効果を説く)人たちの間でよく聞かれる主張です。
さて、日本は本当に貿易黒字国でしょうか。その割には、経済もアップアップしています。たしかに、2002年の日本の貿易黒字は11兆円です。たいへんな額です。
ところが、ご承知のとおり最近では中国や東南アジアに生産拠点を移す企業が多く、この11兆円の中には企業内貿易(日本から中国の工場に部品を送るなど)の分も含まれています。その額は12兆円の黒字です。ということは・・・。
貿易黒字から企業内貿易分を控除すると、計算上は1兆円の赤字という考え方もできます。これはたいへんなことです。財政赤字と貿易赤字、日本は既に双子の赤字国に転落しているのかもしれません。
米国も双子の赤字国です。だから1970年代以降、ドル紙幣をたくさん刷って財政資金や貿易資金を賄ってきました。さて、日本も双子の赤字国になりました。だから最近では超金融緩和政策、量的緩和政策と称して円紙幣をたくさん刷っているのでしょうか。しかし、その割にはドルと円の動きは非対称的です。円は何のためにジャブジャブに供給されているのでしょうか。
政府・日銀は、国民に対してこうした状況に関する明確な説明を行う義務があります。定量的、定性的な分析、あるいは科学的な説明をソコソコにして、抽象的な言葉で「総合判断です」という説明を繰り返すことは「いつか来た道」です。
超金融緩和政策、量的緩和政策、大規模介入と微妙なバランス、双子の赤字・・・こうした「異常な事態」を放置して「異常な結果」を甘受し、再び「異常な経験」をすることのないようにしたいと思います。
国会でも十分かつ有益な議論を行いたいと思います。
(了)