参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
この3月期から減損会計の早期適用が可能となることから、最近、「減損会計って何ですか」とか「経営にはどんな影響が出るんですか」といった質問をよく受けます。そこで、今回は減損会計について解説させて頂きます。読者の中には公認会計士の方もいらっしゃると思います。専門家を前に恐縮ですが、間違いがあったらご指摘ください。
昨年秋からずいぶん新聞紙上等で話題になっていました。10月31日に企業会計基準委員会が「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」を公表したからです。さらにその1年前、平成14年8月に企業会計審議会が公表した「固定資産の減損に係る会計基準」と一緒に、平成17年4月以降にスタートする事業年度に適用されます。但し、各企業の判断で1年前倒ししてこの3月期からの早期適用が可能です。
前段の「審議会」は政府の諮問機関、「委員会」は民間団体である財務会計基準機構内の組織です。つまり、政府の決めた方針の実務上の運用基準が上述の「適用指針」です。
減損会計で一番重要なポイントは、いわゆる時価会計とは全く別物だということです。けっこう多くの方が、「土地の値段が下がったら固定資産の評価損を決算に反映するのが減損会計」と誤解しているようですが、それは減損会計ではなく、時価会計です。
企業が工場や営業所用の固定資産を保有している場合、その固定資産の取得に要したコストを事業収益で回収できない場合に減損処理が行われます。つまり、単年度の決算処理ではありません。過去の事業収益、将来の事業収益の全てを勘案して、減損処理が必要か否かを判断します。
「う~ん、よく分からない」という方のために、ちょっと例え話。1億円で取得した土地があります。現在の時価が7000万円なら、3000万円の評価損を計上するのが時価会計。その土地で商売をしており、これまでに1000万円の収益をあげ、今後も2000万円以上の収益をあげる見込みがあれば、時価が7000万円でも何も計上する必要がないのが減損会計。但し、今後どんなに頑張っても1000万円の収益しかあげられないことが分かっていれば、1000万円の減損処理を行わなくてはなりません。
将来収益をあげるといってもそんなに確実な話ではない。多くの企業の皆さんはそうお考えでしょう。それはそのとおりです。でも、将来収益をあげる自信があれば、減損処理は必要ありません。
保有している固定資産が将来どのぐらいの収益を生むかは、一般論ではなく、各企業固有の事情を反映して判断します。つまり、自信の裏付けがあるかどうかです。
将来の設備投資計画や中長期事業計画など、保有している固定資産を活用する予定があれば、その投資や事業から生まれるキャッシュフローも将来収益としてカウントします。逆に言えば、計画されてない設備投資や夢物語のような事業計画では駄目だということです。
では、どういう状態になったら減損処理の要否を判断する必要が出てくるのでしょうか。毎年必ず判断しなくてはならないのでしょうか。
そういうことではありません。対象となる固定資産を活用した事業が2期連続してマイナス(赤字)の場合に判断しなくてはなりません。もっとも、3期目がプラス(黒字)になる見込みの場合にはその必要がありません。
また、新しく事業を始めたような場合、当初はマイナス(赤字)が続くことがよくあります。しかし、始めからマイナス(赤字)を予想している場合には、その予想よりも著しく乖離した赤字状況にならなければ減損処理の必要はありません。
但し、保有している固定資産の市場価格が、帳簿価格から50%程度以上下落した場合には減損処理の要否を判断しなくてはなりません。これは致し方ないでしょう。バブル経済崩壊から10年以上が経過していますが、地価の水準は今も低迷しています。バブル当時に取得した固定資産を保有し、事業は2期連続マイナス(赤字)が続いているうえに、今期の見通しも芳しくなく、現実的な設備投資計画や中長期事業計画もない、そんな時に減損処理が必要になります。意外に限定的です。毎年のこと、全ての企業にあてはまることではありません。
減損処理の要否を判断する際には、対象となる固定資産が使用可能な残りの年数、あるいは20年のいずれか短い方を基準とします。20年と言えば相当の長期です。将来収益を見積もる際には、その収益を現在価値に引き直す必要があります。
ちょっと違った角度から表現してみます。減損処理は、固定資産の将来収益性が低下して、当初投資額が回収できなくなった場合に必要となります。その固定資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額するのが減損処理です。
企業の皆さんは、固定資産にかけた投資を使用か売却で回収します。使用による回収額、売却による回収額、いずれか高い方の水準が固定資産の回収可能価額になります。
前者、すなわち使用による回収額を算出する際に割引率が必要です。この割引率ですが、実は万国共通ではありません。それどころか、例えば、米国では減損処理を行う場合は固定資産の時価を活用します。つまり、後者=売却による回収額しか想定しておらず、割引率の議論そのものがないそうです。日本とは全然違います。
日本の場合、割引率は、(1)貨幣の時間的価値と、(2)将来収益の変動リスクによって決められます。早い話が、インフレ率の見通しと将来収益予想の当たる確率です。当たるも八卦、当たらぬも八卦という感じですね。実際に減損処理を行わなくてはならなくなった場合、採用する割引率の水準については、公認会計士さんや監査法人の皆さんとよく相談する必要があるでしょう。
いずれにしても、減損会計に関する日本の適用指針は、国際的にみてもかなり緻密に検討された内容となっています。日本の会計基準が国際標準になるような働きかけが求められます。
今回はずいぶん堅い話をご紹介しました。「いつも堅い」という読者の皆さんの声が聞こえてきそうですが、経済や企業経営と距離がある方にとっては特にわかりにくい話題だったと思います。
会計基準はゲームのルールのようなものです。各国が経済活動というゲームを行っているのが国際社会や国際貿易の本質ですが、企業会計はその際のルールです。数年前、スキーのジャンプ競技で「日の丸飛行隊」が大活躍していました。業を煮やした他国は、スキー板の長さや助走距離といったゲームのルールを日本に不利な内容に変更することで日本チームの弱体化を図りました。会計基準も似たようなところがあります。
2005年には国際会計基準が適用されます。日本もゲームのルールを作る戦いに能動的に参画する必要があります。財務会計基準機構や金融庁、あるいは財界、公認会計士業界のみならず、政界を含むオールジャパンでルールを巡る主導権争いに立ち向かうことが必要です。
(了)