参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
2003年の資金循環統計で家計部門が赤字になりました。終戦直後以来60年振りのことです。貯蓄よりも支出が多いことを意味しており、貯蓄率がマイナスということです。過去のメルマガ(Vol.65)でお伝えしましたように、貿易収支も実は赤字になっているかもしれません。高い貯蓄率と輸出をエンジンとする経済の日本型ビジネスモデルを本格的に転換することが急務です。
一昨日、平成16年度予算案が参議院でも可決されました。同時に予算関連法案の採決も行われ、僕もそのうちの特例公債法に関して本会議で反対討論を行いました。
特例公債とは要するに赤字国債です。今年度予算では30兆900億円の発行が予定されていますが、そのほかに建設国債が7兆円ほどあり、合計で約37兆円の国債が発行されます。「30兆円枠」で大騒ぎしていたのはつい2年前のことですが、日本の財政赤字の拡大はもう歯止めがきかない感じです。
特例公債法に反対した主な理由は3つです。そもそも、国債発行そのものが財政法の例外で、社会資本整備を行うための建設国債に限るというのが大原則です。しかし、どうしても財源が足りない場合には、「例外中の例外」として赤字国債の発行を認める仕組みになっています。
ところが、今や日本では赤字国債を発行するのがもはや当たり前。「例外中の例外」の措置が毎年行われるところに日本の異常さが示されています。もはや「例外ではない例外」です。無駄な歳出を削減する努力が最大限行われていることが赤字国債発行の大前提ですが、歳出における合理化、効率化、削減の余地はまだまだ多く、とても赤字国債を発行するに足る予算とは思えません。
2点目は、この法案には、年金事業の事務費を保険料で賄うことを認める特例措置の1年延長が含まれていることです。財政難の折柄、平成10年からこうした措置が行われていることは意外に知られていません。
延長を認めるには、社会保険庁が最大限の経費削減努力をすることが当然の前提ですが、実態は全く逆。同庁による年金保険料の無駄遣い、流用の例は枚挙に暇がありません。特例措置の延長は到底認めることができません。
24日の財政金融委員会では、年金相談施設建設費という摩訶不思議な名目で多額の予算が計上されていることを指摘しました。その際、社会保険庁次長は「相談員の使うブース設置のため」という答弁をしましたが、その後の調べで、実際には各地の新庁舎建設のための費用の一部だということが判明しました。このような虚偽答弁を行う幹部が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する社会保険庁の事務費を賄うために、特例措置を延長することには全く同意しかねます。
ところで、この件に関して、谷垣大臣は「保険は事業であり、事業経費を事業収入から賄うのは当然」という答弁を繰り返しています。その考え方に基づけば、いずれ医療保険や介護保険でも同じことが起きる可能性があります。
「保険は事業」という主張を突き詰めると、要は年金制度は民間でも運営できるということです。それではなぜ国が運営するのでしょうか。それは年金制度が社会保障だと定義されているからです。しかし、民間の保険会社に私的年金保険をかけている人もたくさんいます。年金制度を国が運営すべき社会保障だと簡単に定義してしまうことは、養老孟司さんの言うところの「バカの壁」かもしれません。
反対の3つ目の理由は、予算編成や公債特例法の前提となっている政府の経済見通しにとんでもないウソが含まれていたからです。
政府は平成25年度(2013年度)にプライマリーバランスを黒字化できると主張しています。前号のメルマガでお伝えしましたとおり、政府の主張の当否を確認するために、こちらも独自の推計を行って審議に臨みました。
その結果、3月18日の財政金融委員会の審議において、プライマリーバランス黒字化の前提として、政府は平成19年度から3年連続で消費税率引き上げを想定していたことが判明しました。3月11日の予算委員会では、内閣府政策統括官が「消費税率を引き上げることは想定していない」と答弁しました。これが真っ赤なウソ、虚偽答弁だったことになります。言語道断です。
小泉首相は「自分の在任中は消費税率を引き上げない」と再三主張していますが、その一方で、任期終了のその年から3年連続で消費税率を引き上げることを想定した経済見通しを立てているのは、国民をバカにした対応と言わざるを得ません。こんなに発言の重みのない首相は前代未聞でしょう。空いた口がふさがりません。
「政府の経済見通しはきっと緻密な計算に基づいて推計されているんだろうなあ」と想像している人はまだまだ多いと思います。しかし、これも「バカの壁」でした。残念なことです。
竹中大臣は3月18日の財政金融委員会で、内閣府の推計の詳細を公開することに同意しました。それ自体は竹中大臣の英断です。評価すべき点は評価したいと思います。
しかし、公開に同意してから既に10日が過ぎましたが、再三の資料督促に対して、内閣府は「今作業中です」というばかりです。そうした言い振りからは、現在推計をやり直していることが歴然としており、予算案や公債特例法の前提である政府の経済見通しの信頼性は地に落ちたと言わざるを得ません。
内閣府を所管する竹中大臣には、大いに反省を求めるとともに、経済見通し担当部署の事務体制を抜本的に見直して頂きたいと思います。
(了)