参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
参議院選挙の投票日は7月11日です。今回から、不在者投票制度に加えて期日前投票制度が導入されました。各市町村役場には、公示の翌日から、投票日と同様に投票できる投票所が用意されています(毎日午前8時30分から午後8時までです)。不在者投票のように投票用紙を二重の封筒に入れて署名するといった煩わしさはなく、投票日と同様に投票用紙を投票箱に入れるだけです。7月11日がお忙しそうな皆さん、是非、期日前投票制度をご活用ください。貴重な一票を無駄にしないことをお願い致します。
先週、24日の木曜日、関西国際空港(関空)株式会社の村山敦社長が日本経団連の奥田碩会長にクレームをつけたそうです。
事の発端は、奥田会長の「京都、奈良の観光には、関空よりセントレア(中部国際新空港の愛称です)の方が便利」との発言です。村山社長としては、「京都、奈良観光には関空の方が便利」と主張して、空港から京都までの所要時間等の比較データも示して反論したそうです。
関空は現在2本目の滑走路の建設予算を国に申請中です。「村山社長は、奥田発言が関空の旅客需要の低迷イメージにつながり、予算獲得にマイナスと判断して反論した」というのが、翌日の新聞記事の解説でした。
唸ってしまいました。日本の低迷の原因を垣間見た思いです。関空とセントレアのどちらが便利か、それはどうでもいいことです。「事の本質」はそういうことではありません。
直線距離で200kmも離れていないところに、同じような国際空港が2つもあることが問題なのです。これぞ日本です。昨今、「選択と集中」というキャッチフレーズをよく聞きますが、まさしくそのとおりです。
限られた財政資金をバラバラと分散投入し続けていることが、日本の社会と経済を衰退させています。太平洋戦争当時の「戦力の逐次投入」と相通ずるところがありますね。
中途半端な規模の国際空港が至近距離にある結果、双方が需要を奪い合い、国際的なアジアのハブ空港としての地位は、北京、ソウル、香港、シンガポールなど、近隣諸国のメガ空港に委ねることになるでしょう。どうして日本はこんなことばかりやっているのでしょうか。
例えば、空港はセントレアに一本化し、関西地区には観光資源開発のために財政資金を集中投下するという発想にはなれないものでしょうか。京都、奈良の街並み、景観維持を徹底的に行い、その一方で、世界的に見劣りしない複数滑走路の空港をひとつ建設するという「選択と集中」の発想です。
そういうかたちになれば、セントレアから奈良、京都に至る道程周辺の、伊勢、伊賀、熊野といった地域も、世界に誇ることのできる日本の観光資源として活用することが可能でしょう。そういえば、熊野地域は世界遺産にも登録される可能性が高いようです。
限られた財政資金を奪い合い、全国どこにいっても同じような中途半端な観光地やインフラを金太郎飴のように作り続け、日本はますます魅力のない、住みにくい国になっていく気がしてなりません。こういう傾向を是正するために、政治や経済のリーダーたちは指導力を発揮することが必要です。
ところで、関西では、伊丹、関空のほかに、神戸沖にも新空港を作っています。2005年度中の開港を目指しています。建設を始めたからには良い空港を作ってもらいたいと思いますが、3空港がお互いに需要を奪い合うことが心配ですね。
翌25日の金曜日には、社会保障審議会障害者部会が開かれました。聞きなれない会合かもしれませんが、社会保障制度を検討する厚生労働大臣の諮問機関です。
この会議で、介護保険制度と障害者支援費制度を統合する案が了承されたそうです。翌日の新聞紙上では大きなニュースになっていました。
平成12年4月にスタートした介護保険制度は、だいぶ国民の皆さんに浸透してきました。来年は、スタート時にスケジューリングされていた5年目の制度見直しが行われる予定です。一方、昨年4月に始まった障害者支援費制度は、介護保険制度とは少し仕組みが異なります。
介護保険制度は、65歳以上が第1号被保険者、40歳から65歳までが第2号被保険者として、国民が保険料を払って制度が運営されています。用意されたメニューに従って介護サービスを受けることになります。一方、障害者支援費制度は、年齢に関係なく、支援を必要とする障害者が自ら希望する福祉サービスを選択し、それを国が補助するシステムです。喩えて言えば、前者がサプライ型、後者はデマンド型の社会保障制度です。
さて、このふたつは、両方とも運営が財政的に苦しくなってきています。介護保険制度は要介護者の急増から、来年の見直しでは自己負担が引き上げられるとともに、20歳以上、40歳未満の世代も保険料を払う(制度に加入する)ことになりそうです。また負担増ですね。
一方、障害者支援費制度は、初年度から見通しが大幅に狂い、100億円以上の予算不足に陥りました。厚生労働省は、年金、医療、そして介護や障害者支援でも、全て見通しをはずしています。困ったものです。
さて、介護保険制度と障害者支援費制度を統合することで、双方の関係者から反対意見が出ています。介護保険制度の側からは、障害者支援費制度の財源不足を保険料で補填することになり、保険料負担が増加することが懸念されています。障害者支援費制度の側からは、保険制度に統合されると、国による補助が減ってサービスが低下すると指摘されています。
こうした主張の深層には、「高齢者中心の介護サービスと、若年層も対象になる支援サービスは性質が異なる」という認識があるようですが、これは「事の本質」を見誤っていると言わざるを得ません。
どちらも困っている国民がいて、それを何とかサポートしてあげなくてはならないという意味では基本的には同じことです。いずれも財源不足に陥っています。統合に伴う負担増、サービス低下を憂える前に、本当に財源不足かどうかを考えてみることが必要です。
このメルマガで何度もお伝えしていますように、国や地方の予算にはまだまだ無駄なものがたくさん含まれています。行政はコスト高の運営が行われています。そういうものを見直せば、介護保険制度や障害者支援費制度の財源はまだまだ確保できます。
中途半端な国際空港を至近距離に複数作ることを見直すだけでも、おそらく何千億円、ひょっとすると1兆円近い財源が捻出できるでしょう。そういうことこそ、議論すべきではないでしょうか。
次は少し難解な話題かもしれませんが、日本の企業や銀行の将来についてです。銀行に適用される新しいBIS規制(銀行の自己資本比率規制)がいよいよ決まりました。適用開始は2006年からです。貸し渋り、貸し剥し問題の背景のひとつがBIS規制であることは、今や周知の事実です。
新しいBIS規制では、企業向け融資のリスクウェイトは、その企業の財務状況によって異なることになります。同時に、小数の大企業に多額の融資を行うよりも、多数の中小企業に融資する方がリスクウェイトが小さくなります。リスクを多数に分散できるので、リスクが顕現化する可能性は小さいはずだという考え方です。
でも、その一方で、中小企業の財務状況は総じて大企業より脆弱です。さて、どちらの効果がより強く出るのでしょうか。いずれにしても、日本は新しいBIS規制を国際的なスケジュールに合わせて受け入れます。
国際的なスケジュールと言えば、国際会計基準があります。会計基準に関しては、最近では繰延税金資産や減損会計を巡ってずいぶん話題になりました。また、日本の会計基準が国際標準とは異なるという「レジェンド問題」なども注目を浴びていました。
そこで、日本としては、2005年から国際会計基準を受け入れることになっていました。ところが、先日、EU(欧州連合)で活動する日本企業への国際会計基準の適用が2007年まで先送りされることになりました。どうしてでしょうか。日本の会計制度には固有のものがある(「レジェンド問題」がある)ことから、EU側が2年間の猶予期間を与えてくれたということです。ずいぶん気を遣ってもらいました。上述のBIS規制の動向とはちょっと違うようですね。
来年の通常国会では、会社法制の現代化が行われます。商法等の大改正です。戦前にできたカタカナ表記の商法等を、時代に合った内容に改正するということです。前向きな話ですが、どうして今までやらなかったのでしょうか。誰とは言いませんが、職務怠慢ですね。
カタカナ表記を現代語表記に変えるだけではなく、内容的にも変わります。例えば、企業に会計参与という新しい肩書きの仕事が生まれます。公認会計士や税理士が企業の財務諸表作成等の仕事に携わることができるようにして、そうした立場の人たちを会計参与と呼ぶことにするそうです。
結構な話だと思いますが、その理由が興味深いです。専門家のサポートを受けることで、企業経営者が経営に専念できるということですが、何だか変な話ですね。財務も経営の一部です。あるいは、財務こそ経営の根幹ではないでしょうか。また、今までも、公認会計士や税理士が社外取締役等の立場で同様のサポートができたはずです。今までと、会社法制の現代化後のサポートでは、何が違うのでしょうか。
さらに、適切な財務諸表を作成している企業に対する融資は、銀行の資産査定においてより低いリスクウェイトが適用されることになりそうです。BIS規制や金融庁の金融検査マニュアルと関係が深そうですね。その際、会計参与が経営に参画しているか否かが判断基準のひとつになるかもしれないとのことですが、それって、現実の財務状況とどういう関係があるのでしょうか。
どうも、日本においては、企業や銀行を巡る考え方や制度が混沌としているようです。BIS規制、会計制度、会社法制に関する昨今の動きに関して、「事の本質」が国民に分かるようにしてもらいたいものです。それらが縦割り行政のしがらみの中で、バラバラに検討されていることも問題です。企業や銀行にとって、日本がなかなか活動しにくい国になってしまった「事の本質」はそういうところにあるのかもしれません。
いずれにしても、今後の国会で「事の本質」を十分に議論したいと思います。
(了)