参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
27日から岡田代表に随行して渡米し、米国の民主党大会(ボストン)に出席してきます。米国二大政党の大会は大統領選挙に合わせて4年に1回行われます。ケリー大統領候補、エドワーズ副大統領候補に会えるのがたいへん楽しみです。その後はワシントンに行き、アーミテージ国務副長官やグリンスパンFRB議長らと面談する予定です。
先日、あるブラジル国籍の女性が、僕の地元事務所に陳情に訪れました。税務署との間でトラブルが発生し、何とかしてほしいということです。
詳しく話を聞いてみると、この女性に対して税務署から所得税還付が二重に行われたそうです。つまり、過払いです。本人は二重払いと気づかず、入金された還付金をローンの返済等に使ってしまいました。
2ヶ月後、税務署から「過払い分をすぐに返してほしい」と連絡があったそうです。しかし、その金額は約100万円、すぐに返せる手許資金もなく、陳情に至ったようです。
この女性は返済の意思を示しています。分割で返済すると言っています。ところが、税務署の取り立てや財産調査があまりにしつこいうえ、もともとは税務署の事務ミスで発生したことであるにもかかわらず、何ら謝罪がないことに憤っています。もっともな話です。
税務署の説明では、「こんなことは初めてです」ということだったそうですが、にわかには信じられません。氷山の一角のような気がします。国税庁に同じような事務ミスの発生状況を質問しましたが、3週間たっても回答がありません。呆れた対応振りです。米国から戻ってきたら、少々気合いを入れる必要がありそうです。
そういえば、社会保険事務所の年金過払いも問題になっています。判明しただけでも数十億円に上ります。先日の朝刊にも「過払い、新たに1100人」という記事がトップニュースで掲載されていました。返納を求めていくそうですが、対象となる年金受給者の皆さんも、おそらく上述のブラジル人女性と同じように困ってしまうことと思います。
先の国会会期中には、年金番号が数百万人に二重付与されていることも明らかになっています。この人たちには二重払いになっていないのでしょうか。過払いなどのミスがこれだけあるということは、逆に、保険料の計算間違いや過剰徴収もいっぱいあると考えるのが合理的でしょう。
郵便局の窓口での数え間違いなどによる現金の取り過ぎも、年間30億円に上っていることが明らかになりました。皆さん、郵便局の窓口でおつりをチャンともらっていますか。
税務署、社会保険事務所、郵便局、ひと昔前なら手堅い仕事振りの代名詞だったような先ばかりですが、何とも心許ない状況です。素朴な疑問ですが、事務ミスのチェックはどのように行われているのでしょうか。民間企業であれば大問題です。過払いは収益悪化、過剰徴収は顧客からの信頼喪失に直結します。
公的機関の緊張感のなさが、事務レベル低下の原因でしょうか。民間企業であれば、大きなミスをしたり、ミスが重なるようだと、人事考課に影響したり、場合によっては職を追われます。年金制度改革などの大きな話以前の問題として、公的機関の事務レベルの実態を見極める必要がありそうです。
郵便局と言えば、郵政改革が話題になっています。改革の中身に関する考え方は、既にこのメルマガでもお伝えしました。ご興味のある方は、ホームページにバックナンバーをアップしてありますので、第58号をご覧ください。
ところで、小泉首相は本気で改革に取り組む気があるのでしょうか。「本人が改革の本丸と言っているのだから本気でしょう」と考えるのは、少々人が良すぎます。
小泉首相の本気度を見極める非常に簡単かつ明確なポイントをご説明します。極めて簡単です。それは、郵政公社の生田正治総裁を更迭するかどうかです。
生田さんは商船三井の元会長です。僕自身も勉強会で何度かご一緒しましたが、たいへん見識のある、立派な財界人です。郵政改革に関しては、かつて、ご自身が経済同友会で民営化案をとりまとめられました。勉強会の席上で、僕自身もご本人から積極的な民営化論を拝聴した記憶があります。
その生田さん、残念ながら、郵政公社総裁に就任した後は、ずいぶん考え方が変わられたようです。180度変わったと言っても過言ではありません。明らかに改革反対派に「転向」しました。どうしたのでしょうか。「立場が変われば考え方も変わる」、「現場を知れば考え方も変わる」ということかもしれませんが、残念なことです。
たいへん立派な方ですので、個人的な批判をするつもりはありません。トップとして「自分の組織」を守ろうとしておられるのだと思います。そういう意味では、生田さんに敬意を払いつつ、「頑張ってください」と申し上げておきましょう。
でも、「自分の組織」ではなく、「国民の組織」であることもお忘れ頂きたくないものです。ひょっとすると、生田さんの心境は、孫子の兵法に曰く、「能く士卒の耳目を愚にして、之を知ること無からしむ」(将たる者、心の内を明かさず)ということかもしれません。「トロイの木馬」なのでしょうか。生田さんの今後に注目したいと思います。
しかし、それはそれとして、改革を声高に叫ぶ小泉さん、本気ならば、表向き改革に消極的な発言を繰り返す総裁を放置することは論理矛盾です。ただちに総裁を更迭すべきです。素朴な疑問ですが、どうして更迭しないのでしょうか。
それができる立場にありながら、改革反対派の総裁を放置するということは、答えは2つしかありません。小泉さんがウソをついているか、あるいは、生田さんがウソをついている(つまり、実は本音は改革賛成派である)かのどちらかです。
小泉さんの本質を見極めることのできる非常に簡単な判断基準です。国民の皆さんがシッカリと見極めることが必要です。
余談ですが、僕の古巣の先輩である日銀OBも郵政公社の幹部になっています。この方も改革反対論を展開していますが、日銀時代は改革賛成の立場だったはずです。生田さんと同様、極端な宗旨変えです。個人的批判をするつもりはまったくありませんが、今の時代、「立場が変われば考え方も変わる」というタイプの人は、改革を要する組織の幹部には適さないような気がします。
「柔軟」と「転向、変節」ということは、似て非なるものです。いやいや、まったく異なるものです。読者の皆さんは、どのようにお感じでしょうか。
「転向、変節」という言葉から、UFJと東京三菱の統合問題が頭に浮かびました。詳しくご存じない読者の皆さんもいらっしゃることと思いますので、簡単に経緯を説明させて頂きます。
UFJグループは、去る5月21日、グループの信託部門であるUFJ信託を住友信託グループに売却することで基本合意書を締結しました。7月22日に正式契約を交わす予定でした。
ところが、UFJグループは7月14日に三菱東京グループにグループ全体の経営統合を申し入れ、住友信託グループへのUFJ信託の売却を白紙撤回しました。
住友信託グループは、正式合意の一方的破棄は問題として、7月16日、東京地裁にUFJグループと住友信託グループの統合交渉の差し止めを申し立てました。もっともな話です。
UFJグループは、「住友信託グループの申し立ては法的根拠を欠いている。申し立てが認められれば、UFJ、三菱東京両グループや国民経済、金融市場への影響は甚大である」と主張しています。さて、どちらの主張が正しいでしょうか。
日本の金融再生のためにUFJグループと東京三菱グループの経営統合がひとつの手段であることは認めます。しかし、そのことと、UFJグループと住友信託グループの信義の問題は全く別の次元の話です。
素朴な疑問ですが、これって結婚詐欺と一緒じゃないでしょうか。少なくとも、一方的な婚約破棄と非常に似ています。道義的にはUFJグループに非があることは明らかです。
法的にもUFJグループの責任が問えるかどうかは、上述の基本合意書(5月21日)と正式契約書(7月22日締結予定)のどちらを「結納」と考えるかがポイントでしょう。
僕は、基本合意書が「結納」、正式契約書が「婚姻届け」のような気がします。皆さんはどのようにお考えでしょうか。監督官庁への届出が「婚姻届け」だと主張される方もいるでしょう。いずれにしても、金融再編が新たな局面を迎えつつある中、今後もこういう事態が起きることが予想されます。裁判所の判断が待たれます。
裁判所がどのような判断を下そうとも、UFJグループの道義的責任は免れません。基本合意書が白紙撤回された影響で、住友信託グループの株価は7月14日以降に急落しました。多くの人が迷惑、いや実害を被りました。この問題は、国会でも審議することが必要です。
(了)