参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
今回はイントロが少々長くて恐縮ですが、ひと言、言わせて頂きます。
ロシアで痛ましいテロ事件が起きました。やり場のない怒りを覚えます。テロ根絶のために、断固とした姿勢と問題解決に向けた不断の努力が必要です。ところが、ロシアで大事件が起きている最中に、驚くべき行動をとっていた先進国首脳がいます。残念なことに、日本の首相です。プーチン大統領がテロの対応に追われている最中、小泉首相は北方領土の視察を行いました。その非常識と外交センスのなさには呆れるばかりです。北方領土返還を求めていくことは、中長期的には理解できる外交方針ですが、それも時と場合によります。相手の立場に立って考えれば、軽率、軽薄な行動が、どういう受け止め方をされるか容易に想像できるはずです。懸念していた事態は既に現実のものとなっています。小泉首相の行動に激怒したプーチン大統領は、来年初めに予定していた訪日を中止するかもしれないということです。当然の反応です。日本国と日本国民のために、一刻も早くあまりにも軽率、軽薄な首相を退陣させなければなりません。
国内では、政治や行政の不祥事が後を断ちません。橋本元首相の1億円疑惑が象徴的な出来事です。この疑惑は、中央社会保険医療協議会(以下、中医協)を舞台とした汚職事件(日歯事件)に端を発していますが、その背景には医療行政の構造問題があります。
中医協の問題については、過去にもこのメルマガでご紹介しました(Vol.53、Vol.72)。医療行政を川の流れに喩えると、中医協が担っている部分は中流に当たります。
医療行政の下流は臨床現場です。つまり、病院の現場、お医者さんと患者さんの診察、治療の現場です。下流にも問題はいくつもあります。例えば、小児科のお医者さんが足りません。小児科は勤務がたいへんなうえに、病院経営も採算が悪いと言われています。その原因は、中医協で行われる保険点数設定において、小児科に関係する項目が軽視されているためという指摘も聞かれます。
医療も産業のひとつと考えれば、そこで提供される商品(医薬品、医療材料)やサービス(診療行為、手術)にも価格が必要です。しかし、医療はさすがに他の産業と全く同じように考えるわけにはいきません。国民に十分な医療を提供するのは政治や行政の責務です。そこで、医療においては価格設定を市場に委ねることなく、中医協の場で価格に代わる保険点数(1点=10円)を決めるのです。
問題はその中医協の運営が不透明なことです。僕は、中医協に実際に出席して議論を傍聴している唯一の国会議員ですが、中医協の場で細かい点数設定の議論は全く行われていません。中医協では抽象的、一般的な討論が行われるにすぎず、実際の点数設定は厚生労働省保険局医療課が行っています。つまり、二重構造ということです。
その医療課の仕事振りについても、過去3年間、イロイロと(この表現を使うと小泉首相の顔が浮かんでしまいます。困ったものです・・・)調べてきました。保険点数の改定率を精緻に計算している様子は窺われません。仕事振りは見事なドンブリ勘定です(これを、民間では粉飾とも言います)。では、個々の項目の具体的な点数は誰が決めているのでしょうか。・・・ここに、医療行政の「深い闇」が存在します。つまり、医療行政の中流は三重構造だということです。
日歯事件もこの「深い闇」の部分で発生しました。「闇」は、「闇」に隣接する部分を明るく照らせば照らすほど、見えにくくなります。つまり、中医協を形式的にオープンにして、公開討議の体裁を整えているのはそういう効果を狙っているようです。中医協の委員はそういう役回りをさせられていることに気がついているのでしょうか。そう言えば、前回傍聴した際には発言がひとつもありませんでした。それでいいと思っているのかもしれません。いったい、中医協の委員は、何をしに来ているのでしょうか。時間と経費(税金)の無駄です。
関係者が「深い闇」の部分で暗躍する分野ほど、不透明で不公正な点数設定が行われます。日歯事件はその象徴です。小児科が恵まれないのは、この部分で暗躍する関係者が少ないからでしょう。言い方を替えると、小児科のお医者さんには相対的に善良な人が多い、小児科学会には政治力がないということでしょうか。
国民が医療行政という川と接点を持つのは、下流の部分だけです。下流で泳ぎ、下流の水を飲む国民にとっては、中流が汚染されていてはたまったものではありません。中流の出来事をシッカリと監視していく必要があります。
では上流は何でしょうか。医療行政という川の探検を始めて3年。最近では、この上流に足を踏み入れつつあります。
上流は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下、総合機構)です。総合機構では、医薬品や医療材料の審査を行っています。つまり、上流(総合機構)では国民に提供する医薬品や医療材料を選定し、中流(中医協)ではその価格を決めているのです。中流のみならず、上流が汚れていても、下流で生活する国民は大いに迷惑をします。
さて、この総合機構、実に摩訶不思議な組織です。今年の4月に厚生労働省から分離して、非公務員型独立行政法人になったそうですが、メールアドレスの第2レベルドメイン(co、go、or)は「go」になっていました。つまり、政府組織を意味します。「紛らわしいから、orにしたらどうですか」と担当者に尋ねたところ、「諸外国では新薬審査は政府の仕事ですから・・・」との説明です。そうであれば、別に独立行政法人にしなくても、従来どおり厚生労働省の中で仕事をすればいいような気がしますが・・・。
その一方で、政府から独立した組織になったという理由で、運営方針についていくつも変更が行われました。審査を行う専門委員(医師)の氏名が非公表になったこと、審査にかかる費用が申請者(言わば、国民)の負担になったこと、審査の前段階の事前相談も有料になったこと(役所じゃないので、相談料が必要なのだそうです)などなど、不思議な変更がイロイロと行われました。
これらの点を指摘したところ、8月下旬に、「専門委員の氏名は公表することにしました」との報告がありました。何だか妙に素直です。柔軟な対応は結構なことですが、それでは、独立行政法人への改組時の対応は何だったのでしょうか。
さて、医薬品や医療材料の審査事務には「標準事務処理時間」という不思議なものが設定されています。365日です。つまり、新薬審査は原則として365日以内に完了するという目標です。有料の準民間の審査機関になったのですから当たり前のことですが、サッサと仕事をしてほしいものです。
ところが、その「標準事務処理時間」を大幅に超えて、なかなか審査が完了しない医薬品や医療材料があります。どうしてでしょうか。その理由を質問すると、「それは秘密です」という回答でした(昔、そういうタイトルのTV番組がありましたね。歳がバレる!)。
日本の医療行政の上流の問題のひとつとして、新薬や新しい医療材料の審査に時間がかかりすぎ、なかなか認可されないということがあります。ここでも、審査は総合機構、認可は厚生労働省という二重構造です。厚生労働省の背後に業界の影響があるとすれば、三重構造となります。まあ、おそらく三重構造でしょう。
この問題に関連してよく聞かれるのが、抗ガン剤を巡る話題です。つまり、海外では認可されている最新の抗ガン剤が日本では使えません。どうしてでしょうか。2年も3年も審査が続けられ、日本では時代遅れの抗ガン剤が使われています。もちろん、安全性を確認するのは重要なことです。しかし、諸外国の判断と整合性がとれず、極端に長い審査時間を要するのはなぜでしょうか。
上流のこうした問題も、これからその実情を明らかにしていく必要があります。医療行政という川は、上流もなかなか探検し甲斐がありそうです。上流にも汚れがないことを祈ります。
ところで、医療行政という川の上中流には身分制度の厳格な流域民族がいるようです。
「歯科医療管理官」というのは、医療課長の下に配属されている歯科の保険点数を決める管理職の名称です。先日、現在の管理官に会いしましたが、優秀そうな人でした。歯科系技官のナンバー2だそうです。
歯科系技官は厚生労働省に16人しかいません。本省に12人、地方自治体への出向者が4人の16人です。この限られた人たちが、歯科医療行政の内容を決めています。ちょっと話が飛びますが、外務省を舞台にしたムネオ事件の際に、「ロシアスクール」という言葉がメディアを賑わせました。さしずめ、この16人は厚生労働省の「歯科スクール」というところでしょうか。全員がお互いを知っている狭い人間関係の世界です。
歯科系技官のナンバー1(トップ)は医政局の歯科保健課長です。歯科系技官のポストはここが終着駅と決まっているそうです。何だか釈然としません。優秀な職員であれば、もっと重責を果たして頂きたいような気がしますが・・・。それとも、日本の歯科医療行政は、最初から課長止まりと決まっている程度の人たちで運営されているのでしょうか。それも困ったものです。
そういえば、医科系技官も終着駅は医政局長と決まっているそうです。こちらは局長まで昇格します。医科系技官は厚生労働省全体で200人近くいるそうです。薬剤系技官の終着駅は審議官(医薬担当)で、全体ではやはり100人以上いるそうです。
それぞれの専門分野しか分からないというのが、こうした人事構造の理由だそうですが、それでは、どうして事務系(文系)の職員が総括審議官や事務次官をやっているのでしょうか。この人たちは、医療の技術的な面を理解できているのでしょうか。
事務系キャリア、医科系技官、薬剤系技官、歯科系技官、事務系ノンキャリア。実に硬直的な身分制度が確立した民族のようです。しかし、最上位に位置する事務系キャリアの支配も形式的にすぎず、医療保険点数の決定権限は実際は技官が握っている、いやいやもっとよく見てみると、実際は技官の背後にいる医師会や歯科医師会、薬剤師会が握っているということかもしれません。
政治に、利益団体、圧力団体(業界団体)が存在するのは当然のことです。問題は、そうした業界団体が誰のために機能しているのかという点です。業界の現場の皆さんの真の声を反映した活動を行っているかどうかです。この問題についてご関心がある方は、前々号のメルマガ(Vol.78)をご覧ください。
厚生労働省の多民族の中には、歌舞伎を演じる中医協委員という舞踏民族も混在しています。こうした多重的、多層的で複雑な構造が、医療行政という川の流域を厚い密林で覆うことに繋がっています。
本当に探検し甲斐のある川ですが、どうも上中流は汚染が進んでいるようです。下流域の住民である国民の生命と財産の安全を守るために、シッカリと調査をしなくてはなりません。
(了)