参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
国会も後半戦に入りました。イラクへの自衛隊派遣の期限は12月14日、一方、国会の会期は12月3日です。政府・与党は国会閉会後に派遣延長を決めるようですが、どうして国会で議論しないのでしょうか。疑問です。派遣延長に賛成の方も反対の方もいらっしゃることと思います。しかし、賛否とは別に、論理的に対応しなければならない与件(不可避の前提)があると思います。
与件に論理的に対応しなくてはならないのは、政治だけではありません。企業の経営者や、他の分野の指導者にも共通して求められる対応です。
例えば、ある企業(A社)が1億円の債権(営業貸付金、売掛債権など)を持っている状況を想像してください。その期日は12月14日です。債務者(B社=貸付相手、売掛相手など)は「12月14日以降も延長してください」と要請してきています。そして、このメルマガを読んで頂いている貴方はA社の社長です。
B社は日頃から友好的な取引関係にある先です。A社の社長(貴方)は、可能であれば延長に応じてあげたいと考えています。そのためには、2つ条件があります。B社が単に友好的な取引先であるだけでは延長の合理的理由にはなりません。延長することがA社にとってプラスになり、A社の株主の利益を損ねないことが必要です。これが第1です。
第2は、自社及び株主(つまりA社)のリスクを最小化する細心の注意が払われていることです。債務者であるB社には、来年3月15日に別の大口借入金の支払期日があり、これが払えないと倒産する可能性があります。6月8日にも大口手形の支払期日が到来します。もちろん、これも払えないと倒産します。さらに、年末の12月31日には、経営形体が変わることになっており、その後、どのような企業に変化するのかよく分からない状態にあります。
さて、B社はA社(貴方)に対して「債務を1年延長してください」と要請しています。A社及び社長である貴方にとって、B社が友好的取引先であること、来年の3月15日、6月8日、12月31日に、B社にとって経営上の大きな山がくることが与件になっています。社長はどのように対応するべきでしょうか。
僕がA社の社長であれば、延長に応じるとしても、1年間は延長しません。まずは3月15日以前を次の期限とします。3月15日にB社が倒産する場合を想定して、債権を焦げつかせないための当然の対応です。社長として、A社及びA社の株主の利益を損ねるわけにはいきません。そこでも延長を求められたら、次の期限は6月8日以前、その次は12月31日以前です。
皆さんはどのようにお考えになるでしょうか。
さて、上記の喩え話は、イラクの自衛隊派遣延長問題をお考え頂くための材料です。先週、11月5日(金)の参議院イラク事態特別委員会で、町村外務大臣、大野防衛庁長官と議論をさせて頂きました。
大臣と長官に3つの与件を提示しました。第1の与件は来年3月15日です。ご存知の方も多いと思いますが、日本の自衛隊が活動しているムサンナ県の治安維持に当たっているのはオランダ軍です。オランダ軍は来年3月15日までが活動期限となっており、現在、期限を延長するか、撤退するかを検討中です。
仮にオランダ軍が撤退ということになれば、自衛隊は治安維持部隊がいない中で活動することになります。したがって、仮に自衛隊の派遣延長を決めるにしても、その場合、まずは来年3月15日以前までとしておくのが、与件に適切に対応する指導者の役割ではないでしょうか。他の治安維持部隊(例えば、イラク南部全体を統括しているイギリス軍など)がオランダ軍の代わりに配置されるかどうかを確認してから、次の段階に移行することができます。この点に関する外務大臣と防衛庁長官の認識について質問しましたが、明確な答弁を聞くことはできませんでした。
第2の与件は来年6月8日です。イラクへの自衛隊派遣は3つの国連決議によって正当化されています。そのうちのひとつが決議1546です。この決議には、多国籍軍の権限が来年6月8日で見直されることが明記されています。
どのように見直されるかは分かりませんが、例えば、自衛隊が多国籍軍の指揮下に入ることになるかもしれません。現在は「多国籍軍の司令部の下にあるが、指揮下にはない」という不思議な定義によって、憲法に抵触しないと説明されています。この状態が変わる可能性があるわけですから、仮に来年3月15日にさらに派遣延長する場合でも、次は6月8日以前までとしておくのが、与件に適切に対応する指導者の役割だと思います。この点に関する外務大臣と防衛庁長官の認識についても質問しましたが、やはり明確な答弁を聞くことはできませんでした。
第3の与件は来年12月31日です。上述の決議1546には、来年の12月31日までにイラクに新しい正式な民主的政府を樹立することが明記されています。来年の12月31日以降、つまり再来年以降は、イラクは平時の普通の国になる予定です。
もしこれが実現すれば、自衛隊が駐留する必然的理由はなくなります。少なくとも、今と同じ理由では駐留できなくなります。したがって、仮に来年6月8日に派遣を再々延長する場合でも、期限は12月31日以前までとしておくのが、与件に適切に対応する指導者の役割だと思います。この点に関する外務大臣と防衛庁長官の認識についても質問しましたが、これについても、やはり明確な答弁を聞くことはできませんでした。残念なことです。
さて、政府・与党は、自衛隊派遣を何となく1年延長するような対応をするのでしょうか。シッカリと見極めたいと思います。
直面する事実から不可避の与件を整理し、その与件に対して論理的な対応をする。これは、どんな分野のマネジメントやガバナンスにも共通して求められる当然の姿勢です。どうも日本の政治や政策は、この当然の姿勢に欠けるようです。大問題です。
政治や政策にこうした姿勢が欠落していると、企業も大いに迷惑します。
経済政策においても、同様に、直面する事実から不可避の与件を整理し、その与件に対して論理的な対応をすることが求められます。政府・与党が論理的な対応をしないならば、経済政策を論理的に予測することはできません。企業経営は不安定、不透明な環境下に置かれることとなり、論理的、合理的な経営の障害となります。日本の企業経営が、永田町や霞ヶ関との腹の探り合いを余儀なくされる原因も、こんなところにあるのかもしれません。ダイエーを巡るドタバタ劇の背景が、何となく垣間見えます。
最後に、冒頭の喩え話を思い出してください。A社がB社の要請に応じるには、要請に応じることがA社にとってプラスになり、A社の株主の利益を損ねないことが必要であることをご説明しました。自衛隊派遣問題に関するA社は日本、その株主は国民です。
外務大臣と防衛庁長官には、自衛隊派遣のメリット、デメリットをどのように分析し、両者を相殺すると、結果的に国民の利益を損ねないという根拠や考え方を、論理的に説明してほしいとお願いしました。しかし、やはり十分なご回答は頂けませんでした。残念なことです。
(了)