政治経済レポート:OKマガジン(Vol.87)2004.12.26

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


今年最後のマルマガです。1年間お付き合い頂きまして、誠にありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願い致します。今年は世界的に「異常気象」や天災が頻発した年でした。被害に遭われた方々に、改めてお見舞いを申し上げます。一日も早い復興に向けて、微力ながら、年明け後の通常国会で職責を果たします。さて、経済の世界でも、「異常気象」が少々気になります。

1.加熱と低迷

東京証券取引所の年間売買代金が過去最高を更新しました。バブル全盛期であった平成元年の333兆円を上回り、350兆円に迫る勢いです。年間売買株数は、もっと大幅に過去最高を更新しています。昭和63年の2826億株がこれまでの記録でしたが、今年は既に3700億株に達しています。結構なことだと思います。

その一方、平均株価がピーク時の3分の1程度で推移しているのは気になります。平均株価が低いことを反映して、1株当たりの取引単価は過去最高(平成2年)の1516円に対し、今年は900円程度のとどまっています。

過熱の基本的背景は、景気と企業業績の回復です。さらにその背景には、中国や米国向けの輸出拡大があります。また、投資家の構成変化も影響しています。ひとつは外国人投資家の増加です。全上場株に占める外国人比率は20%に達し、過去最高を記録しています。外国人投資家は、割安感のある日本株に積極的に投資するとともに、短期的な利益を確定するために売買を繰り返しています。

もうひとつは、インターネット取引の普及に伴う個人投資家の増加です。ネット取引口座は600万に達しています。個人投資家も短期的な売買指向が強いため、売買代金や売買株数の増加に寄与しています。

一方、低迷にも原因があります。短期売買を繰り返す外国人投資家、個人投資家の取引パターンも影響しています。短期的に利喰う(=利益を確定する)売買が多ければ、それだけ相場の上値を押さえます。

しかし、これは相場低迷の主たる原因ではありません。主たる原因はふたつあります。ひとつは、メルマガの前号でお伝えした日本企業のディスクロージャーに対する信頼感の低さです。とくに、外国人投資家はこういう点に敏感です。割安感から短期的には投資しても、潜在的リスクを勘案して長期的には保有しようとしません。

もうひとつは、景気や企業業績に対する先行き不透明感です。好調な輸出への過度な依存、原材料価格の高騰気配などが、先行きの景気失速を懸念させます。こうした懸念を反映して、ますます短期的な売買傾向が強まっています。

「異常気象」も長く続くと異常を感じなくなります。感覚が麻痺するからです。しかし、「異常気象」の原因を除去しなければ、いずれは天災に見舞われます。経済運営においても、同じことが言えると思います。

2.中国のプレゼンス

原材料価格高騰の企業業績への影響は必至です。例えば、鉄鋼原材料の価格は2倍に上昇しています。来年度の自動車や耐久消費財の価格に波及するでしょう。

一方、原油価格は今年の10月頃に比べると、2割程度下落しました。しかし、引き続き高値圏にあります。また、今月10日、カイロで開催された石油輸出国機構(OPEC)総会では、年明け後からの減産に合意しました。1バレル40ドル前後の高値圏での推移が続く可能性が高いと言えます。

工業製品の原材料だけではありません。食料市況もジワリと上がってきています。もちろん、「異常気象」の影響もあります。しかし、工業原材料、食料ともに、中国の輸入拡大も価格上昇の一因です。国際経済における中国のプレゼンス(存在感)が一段と増しています。

中国のプレゼンス拡大は、資源大国ブラジルとの貿易急増を見るとよく分かります。過去5年間で、ブラジルから中国への輸出規模は5倍になりました。ブラジルの貿易相手国として10傑にも入っていなかった中国が、昨年は、米国、隣国であるアルゼンチンに次いで、第3位に急浮上しました。因みに、日本は第7位、低下傾向にあります。

中国は、従来から大豆、鉄鉱石などをブラジルから大量に輸入しています。これに加えて、先月、中国の胡錦涛(こきんとう=フーチンタオ)国家主席がブラジルを訪問し、石油の輸入拡大、牛肉の輸入開始などで合意しました。トップセールスの手腕は、まるで米国大統領のようです。1次産品の国際市況に与える影響力がさらに高まることは確実です。

しかも、中国は、自国のこうした輸入ニーズを購買力(=バーゲニングパワー)と位置付け、別の観点でも利用しています。

中国はブラジルとの2国間協定を締結する際、調印文書の中で「中国は市場経済国である」ことを明記させました。バーゲニングパワーを背景に、ブラジルにそうした対応を迫ったのです。大変なことであり、凄いことでもあります。

2001年、中国が世界貿易機関(WTO)に加盟する際、WTOは、「中国は今後15年間、非市場経済国扱いである」と定めました。これは、中国に超低賃金の労働市場の改善やダンピングの是正を求めるためです。つまり、国際貿易競争の公正さを高めるための施策でした。

これに対して、中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)各国や今回のブラジルとの経済協定などを足掛りに、WTOの言い分や要求をなし崩しにするための布石を着々と打っています。実に見事な外交手腕です。

いずれにしても、ローコストを売り物にした輸出大国としてだけでなく、巨大消費国としてバーゲニングパワーを駆使する輸入大国としても、来年は中国のプレゼンスがさらに高まる1年になりそうです。

「異常気象」は、人知をもってしては回避できない自然現象としての側面と、二酸化炭素排出に象徴される人為的側面の両方を有しています。1次産品の国際市況上昇という「異常気象」の要因分析をシッカリと行い、人為的側面については是正することが必要です。中国のプレゼンスをどのように解釈し、どのように対応していくのか、通常国会で十分に議論したいと思います。

3.日本の対応

経済の「異常気象」とも言える1次産品の市況高騰に関して、日本も人為的に寄与している面があります。

ひとつは、積極的関与です。それは、空前絶後の財政赤字と異常な超金融緩和です。予算には相変わらず二酸化炭素のようなバラ撒き的項目が後を絶たず、国債発行残高はとうとうGDPを上回りました。日銀からも洪水のような資金供給が続いています。

自然環境にとって、二酸化炭素がまったく必要ない訳ではありません。しかし、過ぎたるは及ばざるが如しです。オゾンホールを拡大させるほど二酸化炭素を排出する予算はいただけません。河の流れや降水も然りです。洪水になるほどの資金供給は異常と言えます。

日本のこうした経済運営は、国際経済や国際商品市況の底流に影響を与えています。金利上昇や市況急騰という「異常気象」を発生させないためにも、人為的にコントロールできる部分には適切に対処すべきだと考えます。株式市場の年間売買高が過去最高を記録する一方で、株価が過去最高の3分の1にとどまっている事態が、「異常気象」の予兆でないことを祈ります。

もうひとつは、言わば消極的関与です。中国のプレゼンス拡大の影響は上述のとおりです。中国自身に世界経済の安定と繁栄のための自助努力を求めたいと思います。

しかし、中国にそうした対応を促すことは、日本にもできることです。いや、しなければならないことです。それをしないことは、言わば、消極的に世界経済の混乱=「異常気象」発生に寄与しているとも言えます。

例えば、ODA。今や日本を抜いて世界第2位の貿易大国になった中国にODAを提供し続けることの目的を、より明確にする必要があります。その効果も検証しなくてはなりません。

中国へのODA廃止という意見も聞かれるようになりましたが、ことはそんなに単純ではありません。例えば、中国へのODAを廃止した場合でも、他のODA供与国に中国が武器輸出を行えば、日本が武器購入代金をそのODA供与国に提供するのと同じことです。お金に色はありません。ODA供与国が「分別して使う」と主張しても、実質的にはそういうことになります。お金とはそういうものです。

日本が「異常気象」に消極的関与をしないためにも、中国と対話のできる関係を維持し、先進国にふさわしい外交手腕を発揮して、世界経済の安定と繁栄に貢献していくことが必要です。そして、そのことは、結果として日本と日本国民の平和と繁栄に寄与することになると確信しています。

それでは皆様、良い年をお迎えください。重ねて、来年もどうぞよろしくお願い致します。

(了)


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