参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
今年4月から日本経済の現状と展望に関して、6回シリーズのビジネスセミナーを開催します。現在申し込み受付け中です。ご関心のある方は、ホームページのバナーから詳細をご覧になるか、事務所までお問い合わせ下さい。日本経済について、竹中さんが「もはやバブル後ではない」と発言して悦に入っています。竹中さんには申し訳ないですが、そんなことは当たり前です。バブル崩壊から既に15年。日本経済が直面しているのは、単なるバブル処理ではなく、もっと構造的な問題です。
平成16年度の大企業決算は、過去最高益を達成する見通しです。竹中さんの発言は、そうした動きを踏まえてのことでしょう。しかし、この好決算は系列・下請け企業に対する厳しいコストダウン要求の成果です。それ自体を否定的に解釈するつもりはありませんが、「過ぎたるは及ばざるが如し」です。
多くの中堅・中小企業が発注元から「コストダウンに応じられなければ、生産拠点を中国に移転する」と通告され、そのプレッシャーは今も続いています。しかし、ここで少し冷静に考えてみる必要があるでしょう。
例えば、1兆円の利益が出る大企業があり、系列・下請けの中堅・中小企業がその生産活動を支えているとします。さて、さらなるコストダウンができなければ、取引を止めて生産拠点を中国に移すべきでしょうか。
中堅・中小企業が儲け過ぎているのなら話は別です。しかし、現在の発注単価(受注側の受注単価)でも受注側が採算ギリギリ、あるいは赤字であるならば、発注側には冷静な判断が求められます。500円の発注単価を700円で我慢すること、1兆円の利益を7000億円で我慢することは、はたして間違っているでしょうか。
企業ピラミッドにおいて、下流(ピラミッドの下方)に位置する中堅・中小企業は言わば前線部隊です。中国などの海外企業に過度に依存することは、前線を外人部隊に依存することと同じです。外人部隊は金で雇われています。好条件を提示する雇い主が登場すれば、すぐに乗り換えます。それが外人部隊の外人部隊たる所以(ゆえん)です。
国内の前線部隊は戦線から離脱することはありません。戦い続けることができる程度の禄さえあれば、忠誠心の高い前線部隊として頑張ることでしょう。さて、陣幕の中の大将(大企業)は、疲弊する将兵(中堅・中小企業)の前で如何なる采配を振るうべきでしょうか。
前号のメルマガでは、会社法制の現代化が今国会の重要法案のひとつであり、株式交換や三角合併などの新たなM&A(合併・買収)手法が導入されること、それに伴い日本経済への外資の流入が加速することをご紹介しました。
さて、外資は日本経済のどの部分から入ってくるでしょうか。企業ピラミッドのどの部分に入ってくることが日本経済にとってマイナスでしょうか。
結論から言えば、下流、すなわち、中堅・中小企業が必要以上に外資の傘下に入ることは、日本経済の生命線を脅かすことになると思います。
中堅・中小企業には、まだまだ驚くべき技術力やアイデアが眠っています。たとえば、先日ある金融機関の方から紹介された愛知県の企業は、米粒の1000分の1の大きさの歯車をつくる技術を有しています。サンプルを拝見しましたが、まさしく驚くべき技術力です。海外からも注目を集めています。
そういう中堅・中小企業の多くが、過度なコストダウン要求にさらされ、国内の大企業との取引関係が薄くなり、結局、外資の傘下に入っていく事態が予想されます。
「損して得とれ」、松下幸之助翁の有名な言葉です。「目先の利益より、中長期的な利益」というところでしょうか。陣幕の中の大将が、安上がりな外人部隊に過度に依存すると、忠誠心も戦闘能力も高い国内の将兵を失うことになりかねません。ハタと気がつくと、外人部隊はどこかに雲散霧消し、譜代の将兵も敵の軍門に下り、陣幕の周りは包囲されていたという事態になりかねません。
前線の将兵が戦い続けるためには、ロジスティクスが必要です。物資、もっと端的に言えば軍資金です。中堅・中小企業にとっての軍資金とは、金融にほかなりません。
中堅・中小企業の生命線である地域金融機関について、平成15年3月に金融庁から「リレーションシップバンキングの機能強化に向けて」という方針が示され、平成15年度、16年度が「集中改善期間」と位置づけられました。
各金融機関はこの期間中の経営改善計画の提出を義務づけられ、今年3月末で計画が終了します。ところが、その「集中改善期間」が2年延長され、経営改善計画も再提出を求められています。竹中さん、「もはやバブル後ではない」はずですが、ちょっと変ですね。
実は、メガバンクの自己資本にはあいかわらず公的資金や繰延税金資産がたくさん含まれています。地域金融機関の自己資本比率や不良債権比率もあまり改善していません。だからこそ、2年延長なのです。
地域金融機関の経営改善と再編はこれからが本番です。昨年成立した公的資金新法もこれから本格的に使われることになるでしょう。但し、その時に、金融庁がメガバンクに対するのと同じような方針で臨むと、中堅・中小企業に大きなダメージが発生します。
メガバンクはドライに取引先企業を切ってきました。とは言え、そうした企業には地域金融機関など、新たに駆け込む先がありました。また、産業再生機構という打ち出の小槌が用意されたほか、債権放棄(債務免除)によって救済された先も少なくありません。
さて、地域金融機関が中堅・中小企業を切った場合はどうなるでしょうか。もはや駆け込む先もありません。大企業のようには救済もされないでしょう。これでは、リレーションシップバンキングも看板倒れです。さて、金融庁はどうするつもりでしょうか。
債務免除された再生企業(大企業)が債権放棄してくれた企業(中堅・中小)に厳しい取引条件を突きつけているという不条理な話もたくさん耳に入ってきます。これでは、前線の将兵はやる気を失います。軍資金も絶たれ、もはや絶体絶命。そこに外資が救いの手を差し伸べるというシナリオが透けて見えます。
(了)