参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
4月23日から6回シリーズでビジネスセミナーを開催させて頂きます。ご興味のある方はホームページのバナーから詳細をご確認ください。
新年度に入りました。政府は、景気はまもなく踊り場を脱して堅調に推移すると言われていますが、どうも雲行きが怪しくなってきました。
今月5日、世界銀行は2005年の各国経済の見通しを発表しました。日本の実質GDP伸び率の見通しは前年比0.8%増と、2004年の実績(前年比2.6%増)から減速です。昨年11月時点での2005年の予測は前年比1.8%増だったことから、1.0%ポイントの下方修正となります。
世界銀行は、日本のIT製品に対する需要減少を下方修正の主たる要因としています。国内でも、それを裏付けるように、景気の先行指数(10指標)、一致指数(11指標)、遅行指数(6指標)がいずれも悪化しています。とくに、景気の実際の足取りを確認する遅行指数が2年4か月ぶりに50%を割ったことが気になります(50%を割ると景気が後退していると言われます)。
原油価格は1バレル60ドル目前です。記録的な高値です。去る7日、IMF(国際通貨基金)は、当分の間、原油価格が高止まりするとの予想を公表しました。
消費者物価はデフレ基調が続く一方で、原材料価格などを反映した企業物価は上昇気味です。この構造が続けば、2005年度の企業収益は減益の確率が高くなります。
そんな中、新たな懸念材料も出てきました。中国、韓国での反日感情の高まりです。ご存知のとおり、背景は竹島問題や国連安保理の常任理事国入り問題です。もともとの潜在的な反日感情も影響しています。日本製品の不買運動や、日本企業の生産拠点の操業率低下が懸念されます。日本経済にとって、需要、供給、両方の面で心配の種は尽きません。
2002年1月から景気は上昇に転じ、既に40か月連続の景気好転とされています。政府の見通しのとおり、踊り場を脱して8月まで好転が続くと、いざなぎ景気の51か月に次ぐ史上2番目の長さになります。どうも実感が湧きません。
政府は強気の見通しを続けるのでしょうか。景気見通しは希望的観測では困ります。「裏づけのない楽観」よりは、的確な舵取りのために、「前向きな悲観」が求められる局面です。政府が見通しと針路を誤ると、企業も国民も不測の混乱に巻き込まれます。
日銀が1日に公表した短観(3か月に1度公表される景気に関する調査結果)は悪化しました。しかし、日銀も政府と同じ見通しを示しています。景気はまもなく踊り場を脱するそうです。
日銀が量的緩和政策という耳慣れない政策を採用して、もう5年目に入りました。量的緩和政策とは、簡単に言えば、お金をジャブジャブに世の中に供給する政策です。「私のところには一向に回ってこない」という読者の皆さんのつぶやきが聞こえてきそうですが、日銀は企業や国民には直接お金を供給することはできません。日銀がお金を供給する相手は銀行だけです。法律や経済の仕組み上、そうなっています。
銀行全体では毎日5~6兆円の資金繰り用の資金が必要です。したがって、日銀は、通常、ほぼそれに見合った金額を銀行に供給します。供給する場所は「銀行間市場=インターバンク市場」と呼ばれる特殊な金融市場(マーケット)です。銀行はその資金を日銀の当座預金の自分の口座に積み立てます。
2001年からその供給量が徐々に増やされ、現在では30~35兆円になっています。つまり、必要量の5~7倍ということになります。銀行にこれだけお金を供給すると、必要以上に手にしたお金を、銀行が企業や個人にドンドン貸してくれることを期待する向きもありましたが、そうはなっていません。銀行貸出は7年以上減り続けています。不思議なことです。
残念ながら、銀行が手にした余分なお金はほとんど国債に回っています。日銀から銀行へ、銀行から国債(政府)へ、つまり、日銀から政府へお金が流れていることになります。
さて、30~35兆円という日銀が銀行全体に供給するお金の量を減らすかどうかが専門家の間で注目を浴びています。業界用語で恐縮ですが、日銀当座預金残高の目標水準を下方修正するかどうかということです。
日銀は量的緩和政策は景気対策であるとしています。その一方で、下方修正は慎重に行わなくてはならないと言っています。しかし、景気は40か月連続で好転です。景気は踊り場を脱して堅調に推移するとも主張しています。「う~ん」と唸ってしまうのは僕だけでしょうか。ちょっと分かりにくいと言わざるを得ません。
もともと、量的緩和政策は、株価が1万円割れになり、銀行の経営が不安視された時に、緊急避難的に導入された非常手段でしたが、最近では政府も日銀も景気対策だと言っています。政府・日銀は、銀行経営も景気も心配がなくなったと主張している以上、量的緩和政策を軌道修正、つまり当座預金残高の目標水準を下方修正するのが合理的と言えます。
経済は生き物です。したがって、経済政策も生き物です。杓子定規(しゃくしじょうぎ)な対応や、弾力性を欠く対応ではマズイ局面があることも理解できます。しかし、目的に適した手段を選択ことが必要です。
量的緩和政策は最初は金融システム対策(銀行の経営不安対策)が主たる目的でした。しかし、途中から景気対策に目的が変わりました。今回の目的設定が適切かどうかは別にして、政策の目的が途中で変わること自体はあってもおかしくないことです。もちろん、変更の理由が合理的、論理的でなくてはなりませんが。
銀行経営も景気も心配なくなったのに量的緩和政策を続けるということは、また目的が変わったのかもしれません。少なくとも、そう思われても仕方ありません。それとも、本当は銀行経営も景気もまだ少し心配なのでしょうか。
ジャブジャブのお金が日銀から政府に流れている実情を考えると、当座預金残高の目標水準を下方修正すると(つまり、流れを細くすると)、ひょっとすると政府が困るのかもしれません。量的緩和政策の目的が、金融システム対策から景気対策へ、景気対策から政府の資金繰り対策に変わったのかもしれません。
注意すべき点が2つあります。ひとつは、金融政策には常にメリットとデメリットが併存していることです。金利を上げても下げても、喜ぶ人と困る人がいます。「過ぎたるは及ばざるが如し」という言葉が、金融政策ほどピッタリくる分野はほかにありません。
量的緩和政策、それに先立つゼロ金利政策。こうした超金融緩和政策はもう10年に及びます。その間に、家計を中心に、本来であれば(正常な金利水準であれば)貯蓄超過部門が得たであろう利息収入は約150兆円に上ります。経済の構造上は、企業や政府を中心とした負債超過部門に利息収入が移転したことになります。最近では企業も資金余剰部門になりつつあります。ということは、今後も超金融緩和政策が続くと、家計や企業から政府に利息収入が移転することになります。このことは、日本経済にとってプラスでしょうか、マイナスでしょうか。
もうひとつは、日本は法治国家であることです。全ての政策は法律に基づいて行われなくてはなりません。日銀にも日銀法という根拠法があります。政府も財政法など多くの法律を守らなくてはなりません。量的緩和政策の目的が政府の資金繰り対策に変わったとすれば、日銀法や財政法との整合性を検証しなくてはなりません。
(了)