参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
新年度に入りました。来年度予算の概算要求は8月。予算編成に向けた前哨戦はもう始まっています。本当に財政再建を実現するためには、徹底して税金のムダ遣いをなくしていかなくてはなりません。終わりのない作業ですが、頑張ります。まだ4月。夏にはまだ間がありますが、税金のムダ遣いを巡る怪談を一席。
今年の1月12日、佐賀地方裁判所が諫早湾干拓事業の工事差し止めの仮処分命令を出しました。国(九州農政局)は、裁判所のこの判断を不服として、1月26日に保全抗告の申し立てをしました。ことの是非は別にして、多くの人が、諫早湾干拓事業は今はストップしていると思っているでしょう。僕もそうでした。
ところが、諫早湾干拓事業はまだ続いています。潮止堤防の上を通る道路を、堤防の両端近くを走る国道に接続するそうです(読者の皆さんも、一度、諫早湾の位置を確かめてみてください)。
具体的には、潮止堤防の南北両端に、南部取付道路、北部取付道路というものが建設されます。そのうち、南側は、潮止堤防上の道路を国道251号線に接続します。
干拓事業全体が工事差し止め命令を受けたのですから、「怪しい話だなぁ」と思って、19日の財政金融委員会で事実関係を農水省と法務省に聞いてみました。
農水省によれば、その道路は、「ふるさと農道」という道路で、干拓事業とは別の事業という位置付けだそうです。「う~ん」と唸ってしまうのは僕だけでしょうか。潮止堤防、及びその上の道路は干拓事業の一部です。そのインフラを共用する「ふるさと農道」事業も、いかに別の事業と言っても、干拓事業自体が差し止め命令を受けたのですから、中断するのが筋のような気がします。
法務省には差し止め命令の効力が「ふるさと農道」に及ぶか否かを聞きました。答えは「及ばない」ということです。頭の体操ですが、将来、仮に潮止堤防を現状復帰する(壊して元の自然な状態に戻す)という判断が下された場合には、これから造る「ふるさと農道」もムダになります。税金のムダ遣いを減らすためには、今回のケースでは、少なくともしばらくは「ふるさと農道」の工事も中断するのが合理的だと思いますが、皆さんはいかがお感じでしょうか。
裁判所の命令の効力にも、こんな限界があるようです。いや、裁判所の限界というよりも、農水省の怪しい知恵というべきでしょうか。
怪しい話はまだ続きます。国道251号線につながる南部取付道路は既に完成しています。でも、また造るのだそうです。あそこにも、ここにも同じ道路があるなんて、何だか幽霊のようです。まさしく怪談です。
既に完成している道路は、たしかに国道251号線に接続しています。ところが何と、国道251号線と接続する部分(交差点)はガードレールで閉鎖されています。なぜでしょうか。
農水省に聞いたところ、既に完成している南部取付道路は工事用の道路で、「ふるさと農道」には使えないそうです。その理由をさらに聞いたところ、道路の勾配(傾斜角度)が国土交通省の定める基準(道路構造令)に少しだけ抵触するそうです。「ふ~ん」と思って現地の写真を見せてもらいました。僕には普通の道路にしか見えません。しかも、立派な道路です。
この立派な道路を使わずに、迂回路を建設する計画です。迂回路というぐらいですから、直線ではなく、グルッと回るもっと長い道路です。怪しい話です。まったく。
しかも、迂回路と国道251号線の接続点は、子供たちの通学路もある地域。地元の人たちは、「なぜ、既にある道路を使わずに、わざわざ迂回路を造って子供たちの通学路を危険にさらすのか」と疑問に思っているそうです。もっともな疑問です。
どうせ基準を定めるなら、「通学路の危険度を増すような道路建設はダメ」という基準を作ってもらいたいものです。傾斜が足りないという今回の基準、実に怪しい基準です。
現地の写真をご覧になりたい方、ご一報ください。お届け致します。
ところで「ふるさと農道」って何だろうと思い、農水省に質問しました。
農道には4種類あるそうです。1番規模の大きな農道を建設する事業は「広域営農団地農道整備事業」。事業が認められる基準は「受益面積1000ha以上、幅員5m以上、延長10km以上」だそうです。2番目は「一般農道整備事業」、同じく基準は「各々50ha、4.5m、1km以上」です。3番目は「農林漁業用揮発油税財源身替農道整備事業」、基準は「50ha、4m以上」。延長基準はなく、その代わりに事業費が「1億円以上」であることが求められます。
この3つは、国庫補助事業です。事業が認められれば、45~50%の割合で国から補助金が出ます。
いやはや驚きました。実に怪しい基準です。いや、よくできた基準というべきでしょうか。幅員、延長、事業費が「何々以上」という「以上」基準は、打ち出の小槌です。受益面積が基準に達するまで、長くて広い道路を造り、ドンドン予算規模を大きくすればいいからです。税金のムダ遣いを正す気があるならば、幅員、延長、事業費とも、「何々以下」という「以下」基準を定め、それでも受益面積が一定規模以上になるような農道こそ、本当に意味のある農道です。まったく困ったものです。
さて、長崎怪談の「ふるさと農道」は4番目です。これは国庫補助事業ではなく、地方単独事業です。したがって、国が行う諫早湾干拓事業と、長崎県が行う農道事業は別という理屈です。お役人は実に頭が良い。その頭、もう少し、ほかの使い方をしてもらいたいものです。
しかし、県単独事業といっても、財源は地方債です。地方債の償還は、事実上、国が保障します。しかも、財源が足りない部分は国からの地方交付税の算定基準に含まれます。地方単独事業と言っても、結局、他の都道府県に負担がかかるのです。
国庫補助事業の農道も、国庫補助分以外の財源については「ふるさと農道」と同じことが言えます。農道利権に群がる人たちには打ち出の小槌でも、納税者にとっては「穴の開いたバケツ」と言わざるを得ません。
財政金融委員会では、農水省は「以上」基準を見直す余地はあると答弁しました。今後の対応をシッカリと見届けます。
「ふるさと農道」事業は、平成5年から始まりました。これまで、3期間に分け、既に2兆円が投入されています。他の3つの農道に費やされた予算規模については、今、農水省に報告を求めています。
「ふるさと農道」の東京都の実績はゼロです。愛知県は8億56百万円、東京に次いで少ない実績です。県民としてホッとします。
ところで、第3期(平成15年、16年)になって、東京以外にもうひとつ、実績がゼロになった県があります。鳥取県です。鳥取と同じような環境にある他の県では、あいかわらず大規模な事業を展開しています。鳥取と整合性がつかないですね。
さすが片山知事。やればできる。「怪」談ではなく、「快」談と言うべきでしょう。鳥取快談でメルマガの後味も少しは良くなりました。
(了)