参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
橋梁談合を巡って摘発が行われました。昨年のメルマガVol.83(2004.10.27)で官製談合防止法のことをお伝えしましたが、「民」ばかり摘発し、その背後で談合を仕切っている「官」は見逃すということのないようにしてもらいたいものです。
さて、年金問題を協議する両院合同会議がスタートしたものの、まだ3回しか開かれていません。残念なことです。愚痴っていても仕方ありませんので、個人的には、国立社会保障・人口問題研究所が行っている人口推計の実態について調べ始めています。昨年実態解明に取り組んだ年金数理計算に続いて、本当に信頼できる人口推計が行われているかどうかを確認したいと思います。
そんな中、先日、少子高齢化社会、人口減少経済の問題を考えるパネルディスカッションにパネラーとして参加させて頂きました。
「人口が減り始めて大変だ」というのが直感的な印象でしょうが、この問題、3つの視点を整理して対策を考えることが必要だと思います。第1は人口減少そのものです。
人口減少そのものに対しては、効果の有無は別にして具体的な対策が考えられます。要は、女性が出産・育児を決断することの障害に対する対策です。例えば、就業していた女性が30歳前に退職して出産、子供が小学校に上がるまでの間を育児に専念した場合、経済的な逸失所得は2000万円を上回ると言われています。その後、復職しても、非正規採用や年功賃金という壁があり、生涯所得ベースでの逸失分は相当の金額になるでしょう。こういう点への対策を講じると、多少は効果があるかもしれません。出産即人口増加ですから、第1の問題には即効薬があるということです。
もちろん、所得以外の育児の制約もありますので、現実の話はそんなに単純ではありませんが・・・。
第2は、労働人口の減少です。仮に第1の人口減少対策が効を奏して、出生率が上昇し始めたとします。つまり、子供が増え始めます。
しかし、この子供たちが成長して働き始めるのは、平均的には20年程度先のことです。つまり、第1の人口減少対策が効果を発揮しても、第2の労働人口減少対策にはならないということを意味します。
したがって、労働人口減少対策、とくに目先の対策は全く別の内容を考えなくてはなりません。基本的にはいくつかのアプローチがあります。
ひとつは、ひとり1人の労働生産性を上げることです。これはそんなに簡単なことではありませんが、自動化、コンピューター化の影響も考えると、ある程度は期待できます。実際に、1990年代の日本の労働生産性は2%程度上昇していたという統計もあります。
外国人労働者の受入も考えられます。しかし、日本の労働人口は年間数十万人単位で減少すると見込まれています。これを全て外国人労働者でカバーするのは難しいでしょう。
輸入品に依存するのも一案です。輸入品は海外で生産されますので、言わば間接的に外国人労働者を活用していることになります。もっとも、輸入品を購入する購買力が国内に必要です。
さらに、今は働いていない人たちに働いてもらうという視点もあります。もう少し別の言い方をすると、生産・サービス活動に従事していない人たちに頑張ってもらうということです。その対象は、OB世代、つまり高齢者です。この点は、第3の視点である高齢者扶養の問題とも関係してきます。
なお、公共部門もこの範疇に関係する問題を抱えています。公共部門は民間部門をサポートしています。そういう意味では、間接的に生産・サービス活動に寄与していると言えますが、公共部門はその活動に適した規模にとどめることが肝要です。適正規模以上の肥大化は、労働人口減少に拍車をかけることになります。
さて、第3の視点は高齢者の扶養負担です。人口全体が減り、労働人口が減少しても、それで経済システムがうまく回るなら何ら問題はありません。
しかし、現実は、労働人口が減る一方で高齢者が増え、従来の経済システムがうまく回らないので少子高齢化が問題になっています。
高齢者の扶養負担を減らすためには、「高齢者を減らす」、「扶養負担を減らす」の2つしか解決策はありません。
「高齢者を減らす」ためには、高齢者の定義を変える、高齢者の中でも働く人を増やすといったことが考えられます。定義を変えるというのは、例えば、年金の受給開始年齢を引き上げることです。既に徐々に引き上げが進んでいますが、この対応には限界があるでしょう。
一方、働く人を増やすという対策には、工夫の余地があると思います。例えば、所得が増えると年金が減るという仕組みは、高齢者の勤労意欲を低下させる可能性が高いと言えます。年金を含めた総所得に累進税率を適用する方が、元気な高齢者の勤労意欲を高めるかもしれません。
「扶養負担を減らす」には、年金のみならず、医療、介護など、社会保障制度全般を見直す必要があります。例えば、スウェーデンとイタリアで導入された年金の掛金建て方式(現役世代が納めた保険料の範囲内で年金給付を行う)なども参考になります。医療、介護も、限られた財源で最大限の効果を発揮する仕組みをつくる必要があります。期待する成果が得られるまで財源を投入し続けるという対応は困難でしょう。
こうしたことを進める一方で、他の分野に投入されている不要不急の財源、つまりムダ遣いを是正し、緊要度の高い社会保障制度に充当していくべきことは言うまでもありません。
橋梁談合でも、きっと不要不急の橋梁が計画され、適正コスト以上の財源が投入されていたことでしょう。少子高齢化対策を進める一方で、そういう点を徹底的に是正していかなくてはなりません。
(了)