政治経済レポート:OKマガジン(Vol.106)2005.10.10

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


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外交問題についてもっとレポートを読みたいというご要望を頂戴しました。前号(北朝鮮の核問題)に続いて、今月も外交安保政策に関わる話題をいくつかお届けします。

1.「目的」と「手段」:シュワブ編

沖縄の米軍基地問題を詳しくご存知の方は少ないと思いますが、最近、普天間基地の日本への返還、及びそれに伴う代替基地建設を巡って議論が紛糾しています。

簡単にポイントを整理します。第1に、普天間基地は那覇市近郊の住宅密集地にあり、危険防止・騒音対策、及び米軍基地縮小の観点から移転(代替基地建設)が決まっています。第2に、移転先として、現在、沖縄中部のキャンプシュワブ沖を埋め立てて滑走路を建設することとなっています。第3に、この沖合滑走路計画を変更し、浅瀬埋め立て案(米軍側提示)、陸上建設案(日本側提示)が俎上に上っており、現在、意見調整が難航しています。

この問題、詳しく説明し始めると長くなります。今後、この件に関するニュースや新聞記事をご覧頂く際の着眼点のみお伝えします。

最も重要なのは「目的」と「手段」の関係です。在日米軍の存在には日米双方にとって「目的」があるはずです。その「目的」は何でしょうか。沖合滑走路計画、浅瀬埋め立て案、陸上案の選択は「目的」達成のための「手段」に過ぎません。それぞれの「手段」は「目的」達成にとってどのような違いがあるのでしょうか。そのあたりの説明が十分に行われていないことが、問題の本質を見えにくくしています。

「在日米軍の目的なんか分かり切っている」と呟かれた方もいるかもしれません。しかし、米軍全体のトランスフォーメーション(再配置)が世界規模で行われている状況下、僕を含めた日本国民の素朴な想像が的中するほど、米国の外交安保政策は短絡的ではないと思います。

2.コストパフォーマンス

沖合滑走路計画の前に、もうひとつ別の代替案がありました。それは、洋上浮体式滑走路案です。

現在の沖合滑走路計画はジュゴンの生息地を埋め立てることになります。そのため、環境保護団体などが反対しています。洋上浮体式滑走路案はその更に沖合いに滑走路を浮かべる案です。

僕も沖縄の米軍基地はほとんど視察しました。もちろんキャンプシュワブにも行きました。キャンプシュワブの対岸、カヌチャリゾートから眺めると、シュワブ沖の浅瀬の美しさが岬越しによく分かります。

現在、埋め立てる海域を陸上寄りにして、規模も縮小する浅瀬埋め立て案を米軍側が推奨しています。一方、陸上案は日本側が主張しています。

洋上浮体式滑走路案、沖合滑走路計画、浅瀬埋め立て案、陸上案のいずれであったとしても、コストを負担するのは日本側です。日本政府は、コストを負担する国民に対して、それぞれの案のコストパフォーマンスを説明することが必要です。

ところで、陸上案以外は土地と関係がありませんので地権者はいません。陸上案はキャンプシュワブ内に建設するという説明になっていますが、基地の用地は借地とも聞いています。所有権はどうなっているのでしょうか。一度調べてみたいと思います。妙な利害関係がないことを祈ります。

また、代替案として既存の他の基地を活用するアイデアはないのでしょうか。例えば、嘉手納基地の滑走路は極めて大規模なものです。もちろん、米軍内の所管が違うことは理解しています。しかし、今の案では米軍基地縮小にはならず、単なる移転にすぎません。

3.貧すれば鈍す

普天間基地の返還・移転問題が、日米間の合意から10年近く経った今もこんな状況の中、在日米軍の「目的」である東アジアの安全にとっては様々な変化が起きています。

前回お伝えした北朝鮮の核問題以外でも、注目すべき変化が、大きく報道されることもなく、ヒタヒタと進行しています。

例えば、北朝鮮の羅津港の一部租借権(50年間)を中国が取得しました。羅津港は中国の日本海への出口です。戦前は日本軍も大陸への橋頭堡として注目した港です。

世が世なら、かつて英国が香港を租借(100年間)したのと同様に、「中国、北朝鮮羅津を租借」とセンセーショナルに報道されても不思議ではありません。

そもそも、北朝鮮と中国は領土問題も抱えています。高句麗の帰属を巡っての意見対立です。高句麗とは大昔の国ですが、高句麗がそもそも朝鮮民族、中国民族、いずれの系統の国だったかという論争です。高句麗の領土は今の北朝鮮とほぼ一致することから、論争の決着如何によっては「北朝鮮の領土は本来中国の領土だった」という理屈になるのです。もちろん中国側の言い分ですが・・・。この論争、つい数年前に突然中国側から北朝鮮に提示されたところに不自然さを感じます。高句麗問題では、北朝鮮と韓国は足並みを揃えて中国に反論しています。当然の反応でしょう。

そんな中、北朝鮮の金正日総書記の後継者について、長男の正男氏ではなく、次男の正哲氏になりそうだという報道が流れました。正男氏は日米に人脈がある一方、正哲氏は中国が支援していると言われています。

日本の外交安保政策にスピーディさと鋭敏さが感じられません。日本の財政は極めて厳しい状況です。「貧すれば鈍す」ということでしょうか。

「貧すれば鈍す」と言えば、今日の新聞に「公務員削減のために自衛官削減」と出ていました。財政再建のために公的部門のスリム化は不可欠です。真面目な公務員もサボタージュしている公務員も十把一絡げにして、しかも自衛官も単純に同じような扱いにするのは、まさに「貧すれば鈍す」と言わざるを得ません。もちろん、できる限り少数で最大限の効果を得る努力と工夫は必要です。

狭義の政府部門に入らない公益法人などの公的組織は全国で3万近くの数になります。実質的な存在意義はなく、単に天下り先としての存続している組織も少なくありません。政策には、「目的」と「手段」、コストパフォーマンス、そして優先順位と手順があるはずです。外交安保政策の「目的」と国際社会の変化を十分に認識することなく、「貧すれば鈍す」対応に終始することは避けなければなりません。

(了)


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