参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
先週末(10日)の東証一部売買代金が史上初めて4兆円を超えました。週末の新聞に掲載された某月刊誌の新聞広告の見出しは「日本経済は買いだ。日本のひとり勝ちが始まる」とのご託宣。経済が良くなることは結構なことですが、冷静さも失いたくないものです。
15年前のバブル経済の際に金融の現場にいた経験に照らしてみると、たしかに最近のニュースや都心の雰囲気は15年前と同じような気配を感じます。折しも、奥田経団連会長も同じような発言をしています。
もっとも、15年前はあくまで15年前。現在の状況を15年前と全く同じように解することは適当ではありませんが、冷静な比較検討は必要だと思います。
まず、株価。明らかに金融緩和の影響であり、その点は同じです。一方、日経平均で1万5千円ぐらいから3万8千円まで一気に駆け上がった15年前に比べると、駆け上がり方は少し様子が違うかもしれません。
第1に、15年前と比べると、取引形態が変化しているため、ある水準まで上昇すると利益を確定するための売りが入り易い状況です。外資系を中心としたプロの投資家のデリバティブ等の売り、半期ごとに成果を求められるファンドの利食い売りなど、いわゆる「売りの板が厚い」状況です。一気に駆け上がる確率は、15年前に比べると相対的に低いと言えます。
第2に為替との関係です。15年前は、為替が円高基調でした。海外の投資資金は、円高による為替差益も期待して流入してきました。今回は少し違います。現在は円安基調であり、この面からの海外投資資金の動きは慎重です。
為替の動きは海外株式市場、とりわけ中国を中心としたアジアの株式市場の成長も影響しています。つまり、第3の要因です。15年前には日米欧の三極しか株式市場はなく、アジアの香港、シンガポール市場は東京市場と肩を並べるほどではありませんでした。ところが、現在は上海市場をはじめ、アジアの株式市場は活況です。金融緩和に伴う日本の投資資金もこれらの海外市場に向かっています。その面からは、為替にとっては円安要因です。
株価ひとつとってみても、15年前との慎重な比較検討が必要です。
ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)という言葉が日常的に使われるようになったのも15年前。為替相場はファンダメンタルズ、金利、資本取引などの動きによって左右されるということで、日銀マンであった僕にとっても、それらの要因分析をすることが仕事の一部でした。
しかし、為替というのは理屈どおりには動かないものです。1985年のプラザ合意で構造改革(内需拡大)と円安是正を求められた日本は、介入による政策的、断続的な円高に直面し、円高不況となりました。そして円高不況対策として金融緩和が行われたのです。
不況と金利低下(金融緩和)という動きは、理論どおりであれば為替にとっては円安要因です。しかし、15年前は、「構造改革がまだ十分でない。きっと介入や政治的圧力を受ける」という思惑、あるいはセールストークによって、不況と金利低下が続いても円高傾向は変わりませんでした。
翻って今、「日本経済は買いだ。日本のひとり勝ちが始まる」という指摘の下、理論どおりであれば円高のはずです。しかし、実際には円安傾向。これまた理屈どおりにはいきません。
経済、とりわけ市場(株価、為替、金利など)の要因は相互に影響し合い、どちらが原因で、どちらが結果か判然としない傾向があります。鶏と卵の話のようです。
円安要因のひとつは、上記1.の話題で取り上げた中国等への投資資金の動きです。しかし、それだけではありません。インフレの見通しも影響しています。市場は将来のインフレを織り込みつつあるのです。
しかし、為替を巡るロジックは複雑です。メルマガの前号でのお伝えしましたように、金融緩和政策の転換を巡る政府・与党と日銀の確執が表面化しています。将来の金利上昇を見越せば、これは理論どおりであれば円高要因です。
インフレの円安要因、金利上昇の円高要因。この2つの綱引きの結果、現在は前者が勝っている状況です。言ってみれば、投資家は、日銀が量的緩和を解除できてもインフレ傾向を止められないと見ているとも言えます。
相場の力学分析と見通しは実に難しく、もっともらしく予測することなど到底できません
さて、バブル経済と言えば、最も注視すべきは不動産市況。現在40歳以上のビジネスマンにとっては、15年前の状況は記憶に新しいところです。
現在はどうでしょうか。15年前と同じような点もあれば、違う点もあります。市況の上昇が金融緩和を背景としている点は同じです。現在の金融緩和は15年前よりも著しく、これで不動産市況が上昇しなければおかしいと言えるほどです。
ただ、15年前は、大袈裟に言えばありとあらゆる不動産市況が上昇し、とても活用しようがないと思われる猫の額のような土地までもバカ高い価格がついていました。そういう土地の周辺を買い占めて、敷地を大きくして転売しようとしたのが「地上げ」という動きです。
一方、現在は、都心の優良物件は15年前以上の動きを示していますが、ありとあらゆる物件の市況が上昇しているという訳ではありません。二極化が進んでいます。
もうひとつ、大きな違いがあります。それは、投資資金の動きです。15年前は、金融緩和に基づく銀行融資が一部のデベロッパーや企業などに流れ、彼らが大量に不動産を買い占めました。言わば、不動産の価格変動リスクをそうした銀行融資の借り手、つまり債務者が一手に抱え込んだのです。それが、後の不良債権問題につながっていきました。
ところが今回は、そのリスクは多くの投資家に分散しています。分散機能を担っているのがJ-LEIT(ジェイ・リート)と呼ばれる不動産投資信託です。
J-LEITは、2000年5月の投資信託法改正に伴い、従来、株や債券などの有価証券しか購入できなかった投資信託が不動産も購入できるようになって誕生しました。昨年前半当たりが利回りベースのピークでした。今は利回りが低下気味ですが、利回り低下ということは価格が上昇しているということであり、J-LEIT人気はまだ続きそうです。
もっとも、J-LEITの登場によって、15年前には一部の大口投資家に集中していた不動産の価格変動リスクが、今回は多くの投資家に分散しているということです。翻って考えると、不動産市況が崩れた時には、その損失を、個人投資家を含めた多くの投資家が負担することを意味します。
加えて、15年前には意識されていなかったリスクが顕現化しています。投資物件であるマンションやホテルの構造設計の偽装、偽造リスクです。投資物件が二束三文になってしまう可能性があり、そうなるとJ-LEITは紙切れ同然となってしまいます。ここ数年の規制緩和の「闇の部分」が問われています。
同じバブル経済と言っても、株価、為替、金利、不動産市況、いずれも15年前と現在では大きな違いがあります。新しいリスクも注視しなくてはなりません。
前号に続いて繰り返しておきますが、日銀をはじめ、財務省、金融庁、国土交通省、東証など、これらの動向に関連する諸機関には、過去の失敗への洞察と責任、現在と未来への分析と戦略に基づき、国民に対して十分に説明責任を果たしたうえで、誤りなき判断と対応を期待したいものです。
もちろん、最も重大な責任を負っているのが政府・与党であることは言うまでもありません。野党議員としても、国会論戦を通じてその責務を果たしていきます。
(了)