参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
明けましておめでとうございます。OKマガジンも足かけ6年目に入りました。引続きのご愛読、よろしくお願い申し上げます。
年初から日米の株価が堅調です。結構なことだと思いますが、日本、米国、それぞれ堅調の理由は異なります。
米国の堅調の理由をひと言で表すならば、グリーンスパンマジックと言うのが適切でしょう。申し上げるまでもなく、グリーンスパンはFRB(米国連邦準備制度理事会=米国の中央銀行)の議長の名前です。一昨年6月から1年半の間に12回の利上げ(金融引締)を行い、その一方で、長期金利を低水準で抑え、かつ株価を上昇させました。
これまでの常識であれば、そんなに継続的な金融引締を行えば、当然長期金利は上昇、株価はクールダウンという展開です。なぜ、グリーンスパンマジックは可能になったのでしょうか。グリーンスパンマジックの背後で、何が起きていたのでしょうか。
長期金利が下がる、あるいは低水準で安定しているということは、国債や社債などの債券相場が堅調ということを意味します。つまり、債券や株を購入する投資資金が潤沢に存在していたのです。
こうした投資資金はどこから調達されたのでしょうか。ひとつは、オイルマネーです。イラク戦争などを背景にした原油相場の高騰はご承知のとおりです。原油相場が高騰すれば中東産油国が儲かり、増加したオイルマネーは投資先を求めて米国の債券や株を購入するという構図です。実にうまくできています。
もうひとつは、米国企業自身のマネーです。米国では、ここ数年、米国企業が海外で獲得した所得を国内に環流させ、国内の設備投資や雇用拡大に用いた場合、大幅に減税する法制が整備されています。典型的なのは雇用促進法。最大で35.5%の事業税率が5.25%に減免されます。海外で生み出された米国企業自身のマネーが、この減免率以上の利回りで海外運用できない限り、米国内に環流するのが合理的な展開と言えます。
米国企業の海外所得は約1兆ドル(115兆円)。このうちの何割かが米国内に環流したことが、オイルマネーとともにグリーンスパンマジックを支えてきました。
グリーンスパンマジック、いつまで続くのでしょうか。マジックが続くかどうかは別として、グリーンスパン議長は1月31日に退任します。バーナンキ次期議長の手腕が問われる1年になりそうです。
蛇足ですが、私が投資家ならば、おそらく議長交代を前に一度投資ポジションを手仕舞うことでしょう。
さて、日本の株価堅調の背景は何でしょうか。大きな理由は3つあります。ひとつは、よく言われる企業の「3つの過剰」問題の緩和です。
「3つの過剰」とは、雇用、設備、債務の3つ。1990年代後半から続いてきた企業の合理化対策が漸く奏功し、業績が好転してきました。とくに大企業にその傾向が顕著に表れています。
「3つの過剰」問題の緩和、業績好転の背後では、雇用面での従業員側の協力、コスト削減面での取引先・下請け企業の協力があったことを忘れてはならないでしょう。さらに、債務減免=債権放棄というかたちで過剰債務を整理した企業は、要するに借金を棒引きしてもらったという事実を記憶に止めなくてはなりません。
もうひとつの理由は「不均衡のバランス」です。「不均衡のバランス」とは不思議な表現かもしれませんが、今の日本を取り巻く世界経済の構造を表しています。
このメルマガでも中国のことは何回も取り上げています。今回は中国が主役ではありませんが、中国が生産し、米国が消費し、産油国が資金を供給するという世界経済の構造は、日本に大きな恩恵をもたらしました。
中国に生産拠点をもつ日本も潤い、産油国の資金は日本にも向かいました。しかし、これを支えているのが、米国の巨額の「双子の赤字」(貿易赤字と財政赤字)、つまり「不均衡」であることは言うまでもありません。中国も、国家は潤うが国民の大半は貧困層という「不均衡」に直面しています。地下資源頼りの産油国は、付加価値を生み出さない経済大国という「不均衡」の上に成り立っています。こうした「不均衡のバランス」の中で、日本の現在があります。
「不均衡のバランス」が崩れたり、各国の不均衡が国内問題化する場合、日本経済の先行きも楽観できません。
3つ目は日本自身のマクロ経済政策です。超のつく「異常な金融緩和政策」が10年も続いていることはご承知のとおりです。そのことによって「3つの過剰」のうち債務問題を緩和し、また、株価や国債価格を下支えしてきました。
ちょっと難しい話ですが、過去10年続いている超低金利は、資産超過部門から負債超過部門に金利収入を移転させています。したがって、企業の過剰債務解消は、家計や無借金企業など、資産超過部門の我慢、忍耐に支えられてきたことも再認識する必要があります。
「3つの過剰」問題の緩和、「不均衡のバランス」と「異常な金融緩和政策」の恩恵、この3つが、現在の日本の株価を支えている基本的な要因と言えます。
さて、この3つの理由、ずっと続けば良いですが、残念ながら経済は生き物。常に変化します。
現在起きている現象の背後では必ず新しい変化が生み出され、異常な出来事の背後では必ず異常な現象が進行しています。
雇用過剰を解消した背後では、ニート、フリーター、非典型雇用が社会問題になっています。中国国内の不均衡は各地の暴動につながり、米国経済の不均衡は「双子の赤字」問題をより深刻化しています。
しかし、個人的に最も心配しているのは「異常な金融緩和政策」の今後の展開。景気対策、経済政策を、過度の金融緩和に依存する姿は、前回のバブル前夜と基本的には同じ構造です。
また、戦後の日本の金融政策を振り返ってみると、金融引締は米国が金融引締の時期にしか行っていません。つまり、米国が金融緩和に転じた場合、経験的に言えば、日本は金融引締を行えないと言うことです。
FRBのバーナンキ次期議長が、2月以降もグリーンスパンマジックを続けられる保証はありません。仮に米国が金融緩和局面に転じた場合、日本は当分の間、「異常な金融緩和政策」を止める契機を失うでしょう。その場合、1995年以来続いている「異常な金融緩和政策」はいつまで続き、そして日本に何をもたらすのでしょうか。
日本の金融機関の経営不安がピークに達していた2000年前後、日本の金融機関だけに市場実勢より高い金利がつき、ジャパンプレミアムと言われました。また、日本経済の破綻懸念、構造問題を象徴するジャパンプロブレムという言葉も流行しました。
その当時のジャパンプロブレムは解決したようにも見えますが、今また、新たなジャパンプロブレムを抱えたような気がします。2006年のOKマガジンは、新ジャパンプロブレムを冷静に分析していきます。
(了)