参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
「小泉改革とは何だったのか」という共著(日本評論社)を出版しました。僕の担当部分は第4章「不良債権処理と金融システム改革」です。ご興味がある方は書店でお買い求め頂ければ幸いです。
先週の金曜日(5月26日)、行政改革推進関連法案が参議院本会議で可決されました。行政改革は日本の再生、飛躍のために不可避の重要課題。その成否はこれからの取り組みにかかっています。5月18日、行政改革特別委員会集中審議で小泉首相と通算7回目の質疑をしました。今回のメルマガはその際の小泉首相との質疑の要点をご紹介することから始めさせて頂きます(質疑の詳細は参議院のホームページで議事録をご覧ください)。
集中審議のテーマは「行財政改革の核心」。理事として僕が命名させて頂きました。「行政」の間に「財」という字を挿入して「行財政改革」とした心は、財政健全化に寄与しない「行政改革」は無意味であることを主張するためです。
その「行財政改革」の障害、とくに財政健全化の障害となる霞ヶ関の体質があります。質疑の制限時間の範囲内で「4つの落とし穴」を指摘しました。小泉首相の心に届いたでしょうか。
第1の「落とし穴」。それは「無から有を生むシステム」です。例に挙げたのは農道の建設効果を算出する計算式。建設事業費よりも経済効果の方が大きいことが事業採択の判断基準になります。一見、もっともな基準です。
しかし、よく調べてみると、経済効果の中には、景観美化効果(農道を作ると景色がよくなる効果)、健康増進効果(農道を作ると周辺住民が健康になる効果)など、摩訶不思議なものが含まれています。どうやってそれらを金額に置き換えるのでしょうか。建設事業費より経済効果が大きくなるまでこうした摩訶不思議なものを加算していけば、どんな事業も採択されます。まさしく「無から有を生むシステム」。ホームページでVol.95(2005.4.25)もご一読頂ければ幸いです。この問題に関連した内容をお伝えしています。
第2の「落とし穴」は「猫だまし」。典型例は独立行政法人、公益法人、特殊法人の扱い。霞ヶ関本体の改革を進めているフリをしても、高級官僚がこれらに天下りして「民間もどき」の組織が跳梁跋扈するようでは、行財政改革も「猫だまし」です。
健全な独立行政法人、公益法人、特殊法人もあります。しかし、そうでないものもたくさんあります。独立行政法人の方が霞ヶ関本体よりもラスパイレス指数が高いのも奇妙なことです。
第3の「落とし穴」は「穴のあいたバケツ」。ムダな農道建設や、天下りのためだけに存在する公益法人に税金を投入するのが最たる例です。典型的サンプルはVol.119(2006.4.27)でとりあげています。
サンプルとなっている公益法人には、天下り高級官僚の出身官庁から摩訶不思議な調査研究委託が山のように行われ、しかもその業務をさらに外部に再委託。委託費(公益法人の収入)と再委託費(公益法人の費用)の差は膨大な金額であり、何に使われているかは推して知るべし。これでは、「穴のあいたバケツ」に税金を投入しているようなものです。最終的には読者の皆さんの税金や社会保険料にツケが回ります。人ごとではありません。
第4の「落とし穴」。それは「面従腹背」という高級官僚の厚顔無恥な姿勢。様々な問題を国会で指摘されても、「分かりました。やります」という表面的な答弁をして実際には何もしない怠慢。もっと悪辣な場合には、事実と異なる虚偽答弁をしても平気でいます。
今回の質疑でも具体例をひとつ指摘しておきました。ご興味がある方は議事録をご覧ください。虚偽答弁は国家公務員法99条(信用失墜行為の禁止)に抵触し、同法82条(懲戒)の対象になります。この点を徹底しないと、行政改革推進関連法案も「絵に描いた餅」に終わる可能性大。厳重な監視が必要です。
小泉首相には次のように申し上げておきました。「国会で指摘されている様々な『落とし穴』の実例をその都度正していれば、こんな大袈裟な法案を作るまでもなく行財政改革は可能なはず。そのことに思いを致してください」。
行財政改革の成否は行政のコンプライアンス意識にかかっている面もあります。Vol.117(2006.3.26)でご説明しましたとおり、コンプライアンスの本当の意味は単なる法令遵守ではありません。法律に違反していなくても、「やってはいけないこと」、「やるべきではないこと」、「自分たちとしては、やらないと決めていること」があるはずです。それらを守ることがコンプライアンスです。
つまり、法律のほかに、倫理や価値ということが対象になります。企業であれば「企業倫理」、「企業価値」という表現になります。「わが社が環境を大切にします」という倫理や価値を自ら定め、それを守ることを意味します。
行政にも倫理や価値がなければなりません。「窓口で無愛想な対応をしません」というのも行政の重要な経営理念です。窓口で無愛想な対応をすることは違法行為ではありませんが、それでは国民の信頼は得られません。そんな当たり前のことも広い意味でのコンプライアンスの対象です。
前段でお示しした件(くだん)の公益法人。彼らのやっていることは違法行為ではありません。本来自分たちでやるべき課題をこの公益法人に発注している霞ヶ関の行為も違法ではありません。委託された仕事を再委託して委託費と再委託費の差額をせしめている公益法人の行為も違法ではありません。しかし、そんなことをやっていていいのでしょうか。彼らにとっての倫理や価値とは何なのでしょうか。
全ての行政組織、独立行政法人、公益法人、特殊法人に同じことが言えます。行政自身のコンプライアンス意識の向上なくして、日本の行財政改革に成功はありません。
しかし、行政ばかりに反省を求めるのはバランスが良くありません。民間企業も努力が必要です。
談合が最たる例です。談合に手を染めている民間企業のコンプライアンス意識の向上も行財政改革には不可欠の要素。行政が主導する官製談合では、行政と民間双方のコンプライアンス意識が問われています。
今回の行政改革推進関連法案の目玉のひとつは市場化テスト。市場化テストを推進すると、今まで行政が行っていた仕事が民間に開放されます。結構なことです。しかし、そうした業務を担う民間企業のコンプライアンス意識がさらに問われます。
例えば、今話題になっている駐車違反の取り締まり。民間企業が業務を行うと取り締まりが厳しくなるという指摘がたくさん聞かれますが、逆の心配もあります。
かつては、交通違反のもみ消しの口利きで暗躍する議員や警察関係者がかなりいたと聞きます。今も皆無ではないでしょう。しかし、今後は駐車違反の取り締まりは民間企業。その企業の経営者と親しい人が、今後は口利き議員や警察関係者の代わりとなることも否定できません。これでは口利きの民営化です。
この場合も、民間企業のコンプライアンス意識が問われます。もっと問われるのはもみ消しを頼む人自身のコンプライアンス意識です。
行財政改革を必要とする事態に至った背景に関して、行政には大いに反省を求めなくてはならない点が多々あります。「4つの落とし穴」もそのひとつ。しかし、同時に民間企業や国民自身も胸に手を当てて考えてみる必要があります。
コンプライアンス意識の高い国。その実現なくして行財政改革の成功はありません。自らも戒めつつ、職責を果たしたいと思います。
(了)