参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
今年も師走が近づいてきましたが、妙に暖かい日が続いています。今年も暖冬でしょうか。異常気象は着実に進んでいます。経済の方も「戦後最長の好景気」と囃して妙に暖かいムードを作ろうとしているように思えますが、異常気象でないことを祈ります。
投信残高が急増しています。高度成長期、バブル期に続く第3次ブームの様相です。公募投信の9月末残高は約62兆円で過去最高。とくに最近では地域銀行による取扱いが急増しており、過去2年間で販売残高を数十倍に増やした先も少なくありません。投信販売の銀行のシェアは証券会社を上回り、今や5割超。さらに昨年から投信販売に参入した郵便局も残高増加に貢献しています。投信が身近な商品になったことは「貯蓄から投資」の流れを加速する観点からは歓迎すべき傾向です。
しかし、過ぎたるは及ばざるが如し。気になる現象も出始めました。例えば、ファンド・オブ・ファンズ(FOF)。FOFとは新型投信として1999年に解禁された「投信に運用する投信」のことを指します。ここにきて残高が急増、10兆円を突破しました。
「投信に運用する投信」とは何とも不思議な商品です。解禁当初は不動産投資信託(REIT)に運用する投信を普及させることが狙いでした。これは理解できます。不動産投資は金額が大きく普通の家計では困難です。そのためREITが開発され、さらにそのREITを普及されるためにFOFが解禁されたのです。
ところが、最近急増しているのは株式や債券に投資する投信が対象の投信。「投信に運用する投信」に投資することで、価格変動リスクを軽減できるということです。
喩えが難しいですが「ウナギを食べるウナギ」を食べるようなもの。それなら最初から1匹目のウナギを食べればいいような気がします。やがては「投信に運用する投信に運用する投信」という3階建ての商品も登場しそうです。既に存在しているかもしれません。
普通の投信には含まれない投信への投資も増えています。典型例は変額年金保険。顧客が支払った保険料がプロ向けの私募投信に運用されています。2002年に銀行窓販が解禁された変額年金保険の販売にはメガバンクが注力。前年比5割増の勢いで増加しており、メガバンクだけで残高は5兆円。全体では13兆円に達しています。
さらに気になる動きもあります。地域銀行を中心にデリバティブ(金融派生商品)や不動産などのリスク商品を運用対象とするファンドへの投資が急増。さらに「ファンドに運用するファンド」に投資するケースも増えています。これも、ファンド・オブ・ファンズ(FOF)の一種です。
変額年金保険やFOFは言わば美味なフグ。珍味です。しかし、フグには毒がつきもの。変額年金保険では、手数料収入確保を企図した無理な押し込み販売の弊害も顕現化。元本割れリスクに対する説明が不十分だったというトラブルが発生しています。
ウナギを食べるウナギや美味なフグの豊漁は異常な金融緩和の影響です。現在の日本の景気を下支えしている要因は、企業の合理化(債務、設備、雇用の過剰解消)、異常な金融緩和、好調な輸出の3つ。
異常な金融緩和は企業や銀行の過剰債務解消に一役買いました。また、現在の実質実効為替レート(ちょっと難しいですが、全ての貿易相手国の物価や輸出入量を調整した円相場の「本当の実力」)はプラザ合意(1985年)以来の歴史的円安水準です。これも異常な金融緩和の影響です。好調な輸出にも貢献していることになります。
異常な金融緩和の影響は広範にわたり、ウナギを食べるウナギや美味なフグの豊漁にも関係しています。前回のバブル期とは異なるかたちで異常な金融緩和の副作用が出始めているような気がします。
もっとも、金融緩和は日本固有の状況ではありません。米国は貿易赤字を決済するために過剰なドルを世界に供給し続けています。ドルが基軸通貨だからこそできる米国固有の権利です。世界全体にドルの過剰供給、つまり米国の金融緩和の影響が及んでいます。
その影響をもっとも強く受け、またそれを利用しているのが中国。高成長と貿易黒字が続いている中国は今や世界最大の外貨準備保有国。既に1兆ドルを超えています。政府が外貨を吸収する対価として大量の元が国内に流通。その元を吸収することなく放置しているため、中国もたいへんな金融緩和状態が続いています。
日米中の金融緩和の結果、国際金融市場には大量の余剰資金が供給され、それが投機資金として世界経済に大きな影響を与えています。しかし、その投機資金に異変が起きています。投機対象が原油から穀物にシフト。そのことが最近の原油市況の頭打ちにつながっています。
異変の背景には2つの理由が見え隠れします。ひとつは、石油資本を背景とするブッシュ政権が残り2年となったこと。原油市況を高騰させる圧力が弱まりました。もうひとつは、中国経済の突出に対する米国の国際戦略です。穀物市況高騰は今や食糧輸入国となった中国にとってマイナス要因であり、中国経済に適度なブレーキをかけることになります。
日本経済もこうした国際経済のダイナミズムの中にあります。しかし、気になるのは、ウナギを食べるウナギやフグが豊漁なわりに株価が一進一退で不安定なことです。米国や中国の株価が過去最高を更新する勢いであるのに比べ、いかにも地合が弱いと言えます。
株価が不安定なのは投機筋が日本経済を磐石だとは見ていない証左です。企業の合理化が限界に達するとともに、米中経済が踊り場局面を迎えて輸出も小休止。金融緩和の影響から企業物価も顕著に上昇し始めています。通期ベースでは今期が企業業績の当面のピークとなる可能性が高いでしょう。
異常な金融緩和と歴史的円安によって好転している日本経済。楽観は禁物です。来年は、環境変化への対応の巧拙によって、企業や投資家の勝ち負けが大きく分かれる年になりそうです。
(了)