参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
議員会館705号室でメルマガを作成しています。昨日は肌寒い1日でしたが、今日は2月というのに窓を開けていても寒くありません。もっとも、異常気象の顛末を想像すると背筋が寒くなります。人類全体で本気で対策に取り組む必要があります。
今月6日、日本航空(JAL)が今後4年間の中期経営計画を発表。大量人員削減による500億円の人件費削減、路線再編による収支好転などを柱としています。この発表直後、JALの株価は好転。もっとも、市場は経営計画を単に相場の材料にしたに過ぎず、今後の展開は予断を許しません。
債務削減と設備投資のために4年間で1兆1160億円もの資金捻出を想定。かなり困難な目標です。健闘を祈りますが、度重なる経営再建計画をみているとダッチロールしているように思えます(ダッチロールは航空用語で機種を「8の字」に振る蛇行を意味するそうです)
業績低迷という「結果」には必ず「原因」があります。JALは人件費を中心とする高コスト構造と、航空業界の競争激化に伴う不採算航路増加などの路線構造に「原因」があると見ているようです。しかし、人件費削減や路線再編はこれまでも繰り返してきた対策。それが奏功せずに業績低迷が続いているのですから、「原因」の分析と対策については再考の余地があるでしょう。
利用者の支持を受ければ業績は回復します。では、利用者は何を求めているのでしょうか。それは安全性と快適さ。度重なる人員削減は安全性と快適さの低下をイメージさせます。実際にどうかは別にして、そういうイメージを与えることは事実です。その「結果」、さらに利用者が減るようでは本末転倒。安全性と快適さを追求する経営計画を策定し、財務内容の改善はその背後で粛々と行うべきでしょう。経営計画の内容が、利用者ではなく、投資家に向いている気がします。
メルマガVol.135(2006.12.19付)でも取り上げましたが、「儲け」とは、読んで字の如く「信頼」のある「者」が「結果」として得られるもの。航空会社の経営「目的」は、安全で快適な運行を提供して利用者の「信頼」を獲得し、「結果」として業績を上げること。経営計画はそのための「手段」にすぎません。
この際、外国航空会社や異業種資本との本格的M&Aなどによって、「安全性と快適さならJAL」と言われるような状況を目指してはどうでしょうか。
一方、ビール業界ではM&Aや経営統合の大きなニュースが続いています。米スティール・パートナーズによるサッポロ(市場シェア12.9%)への買収提案を契機に、今度はアサヒ(37.8%)がサッポロに対して資本・業務提携を打診。さらにはキリン(37.6%)も参戦の構えを見せるなど、暑い夏の主役であるビール業界が冬なのに熱くなっています。
この戦い、実は昨秋から始まっていました。サッポロの筆頭株主になっていたスティールがサッポロ株の売却をビール各社に打診。アサヒはここに来てサッポロとの提携を模索。
スティールが高く売り抜けたいのに対し、アサヒはサッポロとの提携でシェアを高め、プライス・リーダー・シップの地位確保を企図。「目的」が異なります。
しかし、スティールがサッポロの筆頭株主である以上、既に勝負はついています。スティールはアサヒがサッポロ株の高い買入価格を提示すればアサヒに、キリンが参戦してアサヒより高い価格を出せばキリンに、アサヒもキリンも納得できる条件を示さなければ異業種資本や他の外資に売却するのが合理的。
この勝負、業界ツートップのアサヒとキリンのシェアが拮抗する中で、スティールが業界3位のサッポロの筆頭株主になった段階で既に勝負あり。理詰めのストラテジィ(戦略)を展開したスティールに負けはありません。
攪乱要因はサッポロと同程度のシェアを持つサントリー(10.8%)。シェアが拮抗する大手2社と中堅2社。この構造を考えると最終的には2グループに収斂することが予想されます。
いずれにしても、知名度を含めた実際の企業価値に比べて時価総額が低い日本の食品業界は外資の狙い打ち。防戦側のストラテジィが問われます。
同じような理由で外資が狙っている百貨店業界でも大きな動きが表面化しました。大丸と松坂屋の経営統合。実現すれば高島屋を抜いて売上高では業界トップになります。両社は主たる商圏(大阪と名古屋)が重複していないことから、ミレニアム・リテイリング(西武+そごう)や阪急阪神ホールディングスの発足に伴う業界再編の動きに呼応しました。
昨年、松坂屋が村上ファンドの敵対的買収の標的になり、その対策に苦しんだことも影響しているでしょう。5月に株式交換で日本企業を買収できる三角合併が解禁されれば、外資の百貨店への買収攻勢が始まることも予想されるからです。
折しも、NHKの土曜ドラマ「ハゲタカ」がスタートしました。外資の敏腕ファンドマネージャーが日本を救うという大義名分の下で、日本企業を買い叩くという設定。よくできたドラマです。
日本企業を救うのか、それとも単なる買い叩きなのか。単に売却益を追求するのか、それとも買収企業の本来の経営「目的」を追求するのか。買収後の行動を見れば真意は一目瞭然。日本政府が誰のために三角合併を解禁したのか、その顛末を見届けなくてはなりません。
近年、工学院大学の畑村洋太郎教授が失敗学という分野を開拓しました。その失敗学の古典的名著とも言える「失敗の本質-日本軍の組織論的研究」(1984年)。日本軍の失敗の「原因」をいくつも指摘しています。最たるものが「目的」の曖昧さ。
畑村教授は失敗の「原因」を10種類に分類していますが、そこまでしなくても、「目的」と「手段」、「結果」と「原因」の関係を整理すると「失敗の本質」が垣間見えます。
国家戦略についても同じです。M&Aを容易にして外資の攻勢を後押ししている「目的」は何でしょうか。加えて、異常な超金融緩和政策でM&Aの原資まで提供しています。その「目的」が問われます。
日本の産業、企業の体質改善が「目的」とすれば、そのための「手段」は外資によるM&Aだけでしょうか。ドラマ「ハゲタカ」の主人公(ファンドマネージャー)のセリフに「日本を救うための外科手術」というくだりがあります。その手術、本来は日本政府の仕事ではないでしょうか。
そもそも、日本の産業や企業の手術が必要な現在の「結果」を招いた「原因」を分析しなくては、適切な「目的」の設定と「手段」の選択が行えません。政府も企業も何となく対症療法に追われている気がします。
日本経済のイノベーション、新たなリーディング・インダストリーの誕生を阻害している様々な政策制度や慣行、規制を取り除かなくては、結局、外資も嫌気がさして資本を撤収するかもしれません。そうなれば壊滅的。「ハゲタカ」が去った後は残骸しか残りません。
「失敗の本質」を踏まえたストラテジィを展開し、日本経済のダッチロールを回避しなくてはなりません。
(了)