政治経済レポート:OKマガジン(Vol.141)2007.3.27


参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


公示地価が16年振りに上昇しました。新聞各紙は「バブル崩壊後、長く続いた土地デフレから脱却」と論評。いざなぎ景気を超える戦後最長の好景気も持続。それでも政府・日銀は異常な超金融緩和政策を継続。不可解ですね。

1.不可解な上場維持

3月12日、東証は日興株の上場維持を発表。粉飾決算を行っていたことは明白なのに不可解な対応です。

西室泰三社長は上場維持の理由を「粉飾決算が組織的に行われた確証はないため」と説明しましたが、信じる人はほとんどいないでしょう。現に日興社外メンバーによる特別委員会の調査結果は組織的な不正だったと指摘しています。

日経も東証幹部のコメントとして「財務関係者が関与。聴取した法律家の意見は全て上場廃止」という趣旨の内容を報道。行政当局筋の「廃止の方向は覆らない」との発言も伝え、2月28日朝刊で「日興上場廃止へ」と報道しました。

それにもかかわらずの上場維持です。3月15日の参議院財政金融委員会に出席した西室社長は「政治家や監督当局からの圧力はなかった」と答弁。とても信じられません。

2.不可解な圧力

推測される圧力は5つのパターン。第1は政界からの圧力。安倍首相は引責辞任した有村純一社長と昵懇の仲と報道されています。山本有二金融相も事件の全容が明らかになる前から幕引き発言を連発。大手証券が外資の傘下に入ることに抵抗感を感じる政治家もいたことでしょう。

第2は監督当局からの圧力。株式市場や景気への影響に配慮したことも想像できますが、事実だとすれば、巨悪を見逃す方がよほど悪影響であることを理解していない対応です。

第3は財界からの圧力。西室社長は財界重鎮とも当然昵懇。株式市場や景気への影響を懸念と言えば聞こえはいいですが、仲間内での犯罪もみ消し行為と言っても過言ではありません。

ここまでは、残念ながら日本ではよくある話。別に驚きません。もっと不可解な圧力が想像できます。

第4は日興の株主である外資ファンド(オービス・インベスト・マネジメントなど)の圧力。日興買収を狙ったシティのTOB価格の低さに難色を示し、TOB価格引き上げのために東証に上場維持を迫った可能性があります。上場廃止を行えば株主外資からの訴訟リスクもあったことから、東証や西室社長の保身のための上場維持とも言えます。

第5はもっと深謀遠慮の外資の圧力。東証の権威失墜、ガバナンス機能の低下は不可避であり、その場凌ぎの今回のような対応は中長期的に内外投資家の東証離れを誘発。既に株式会社化されている東証自身を外資の傘下に収めるための布石とも言えます。そうしたシナリオを演出するために、あえて犯罪加担行為同然の上場維持を強要。将来的な東証の業績低迷、買収へと誘導する高等戦術かもしれません。

不可解というよりも、極めて合理的な圧力かもしれません。

3.不可解な白紙撤回

3月22日、厚生労働省がインフルエンザ治療薬タミフルに関する見解を白紙撤回。従来は服用後の異常行動とタミフルの因果関係を否定していましたが、「過去の判断は変わりうる」と回りくどいコメント。不可解です。

タミフルは開発元のスイス・ロシュ社日本法人が2001年から発売。中外製薬がロシュ社の傘下に入った2002年以降は同社が独占輸入販売。これまで全世界で4500万人が服用し、うち3500万人、実に8割近くが日本人。

これまでに約1800件の副作用や異常行動の報告があり、2004年頃からタミフルとの因果関係が指摘されるようになりました。厚生労働省は因果関係を一貫して否定し続け、昨年10月には研究班の報告書を公表。当然、因果関係を否定する報告書です。ところが、それ以降も服用後の異常行動が続き、ついに冒頭の白紙撤回に至りました。

4.不可解な事実

そんな中、国民が疑念を抱かざるを得ない事実が相次いで報道されています。ひとつは厚生労働省OBの天下り。1973年入省の医薬局元課長が2003年に退官、中外製薬に再就職。因みに、この元課長は薬害エイズ(HIV)訴訟にも登場しています。非加熱製剤の審査担当課長補佐として出廷し、「非加熱製剤とHIVの因果関係は認識されていなかった」と証言。今回の一件と非常によく似た展開です。

もうひとつは上述の報告書を作成した研究班の主任研究者に対する中外製薬からの寄付金。タミフルの使用認可後、昨年までの6年間に1000万円を寄付。これでは、報告書の内容に疑義を抱かれても仕方ありません。

ところで、因果関係の再調査を行うのは医薬品医療機器総合機構。医薬品や医療機器の認可を行っています。日本では新しい医療製品がなかなか認可されず、欧米で利用されている薬や機器、材料、治療方法が利用できないケースが少なくありません。

典型例は抗ガン剤。治験期間が長く、コストも嵩むため、国内製薬会社が開発から撤退。結局、欧米で数年前に開発された抗ガン剤が使用認可され、輸入販売されています。その他の薬や機器、材料、治療方法についても同様の傾向が見受けられます。不可解です。

医療関係者の間では、1990年の日米構造協議(MOSS協議)の際に日本の医療産業を発展させないという日米間の密約が交わされたという情報が語り継がれています。そのことを非公式に認める厚生労働省関係者もいます。

因みに、タミフルの特許権は米国のギリアド・サイエンシズ社が保有。同社の大株主は米国の前国防長官ラムズフェルド氏。さらに不可解です。

日本の製薬会社や医療関係企業の技術力、開発力が欧米に劣るとは思えません。開発しても使用認可されない特別な理由があると考える方が合理的です。日本の医療政策には、不透明な日米関係の副作用が生じています。

(了)


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