参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
今日はレッドソックスの松坂投手とマリナーズのイチロー選手の初対決。このメルマガが配信される頃には結果が出ていると思います。楽しみですね。松坂投手といえばジャイロボールが話題を呼んでいますが、真相は藪の中。説明してもらわない方がファンの想像力が膨らみます。一方、政治、経済の動きについては、十分な説明を聞かないと不信感、不安感が募ります。
2日に発表された日銀短観では、企業の景況感が前回調査(3か月前)に比べて僅かながら悪化。景気の牽引役である大企業製造業のDI(業況判断指数)も1年振りに低下。景気が踊り場局面を迎えたのか、ピークアウトしつつあるのか、先行きが気になるところです。
景気の先行きを見通す際の参考指標のひとつが長短金利差。一般的には長短金利差が縮小すると景気の先行き不透明感が増すと言われます。先行きの景気悪化を見通し、長期金利が低下するという「通説」です。
「通説」の背景には、「景気悪化はデフレにつながり、長期金利を低下させる」という連想があります。逆に、「景気好転はインフレにつながり、長期金利を上昇させる」という連想から、長短金利差が縮小するのは先行き物価が上がりにくいことを示しているという解釈、言わば「異説」もあります。
最近、その長短金利差が3年半振りの水準まで縮小。日銀の利上げで短期金利が上昇するとともに、長期金利が低下しているからです。長期金利の指標である10年物国債利回りは1.6%前後で推移。この動き、「通説」と「異説」のどちらが当てはまるのでしょうか。
政府は景気の先行きに心配はないとして「通説」を一貫して否定。この間、先月30日に発表された2月の消費者物価指数は前年比0.1%下落、10ヶ月ぶりにマイナス転化。しかし、大田弘子経済財政担当大臣は発表後の記者会見で「デフレ脱却は視野には入っている」と述べ、「異説」も否定しています。
「通説」でも「異説」でも説明できなければ「第三の説」が必要になります。「異常な超金融緩和政策」の影響という見方がそのひとつ。このメルマガでも再三指摘していますが、国債管理政策上のニーズ、つまり巨額の国の借金を賄うための人為的な超低金利維持の影響です。
余波は経済の様々な動きに及んでいます。国内の超低金利を嫌気した個人投資家の外貨資産残高が急増。昨年末に初めて40兆円を突破しました。アジア上場不動産投資信託(REIT)も投資対象。昨年末の日本以外のアジア市場の上場REIT時価総額は約242億4千万ドル(約2兆8000億円)。わずか1年足らずで4倍になりました。
海外投資家の円キャリー取引も「異常な超金融緩和政策」の影響。超低金利の日本で資金調達して内外の金融資産に投資しています。超低金利が続く日本の株式市場にヘッジファンドなどの海外資金が流入。東証売買代金は昨年度に初めて600兆円を突破し、外国人売買シェアは過去最高の約6割に達しました。
一方、最近の物価の低位安定は、デフレではなくディスインフレ、経済の構造変化に伴う「良い物価下落」だとする見方も「第三の説」です。IT化や技術革新による低価格化傾向を指します。そうであれば、デフレ脱却を目指すこと自体が政策の誤りになります。
長短金利差縮小に限らず、様々な経済現象に関して国民に十分な説明責任を果たすのが政府の務めです。どうも説明能力を欠いているように思えます。
6日、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第2部会が第4次報告書を採択。温暖化の深刻化により、水不足に直面する人口が数億人増加、平均気温が1.5から2.5度上昇して最大3割の生物種が絶滅の危機に晒されることなどを指摘。恐るべき内容ですが、報告書作成の過程では超大国による恐るべき愚行も続いています。
部会には110カ国が参加、温暖化の影響に関する予測値を巡って意見が対立し、報告書採択は大幅に遅れました。二酸化炭素(CO2)排出量が多い米国、中国が予測値や表現を和らげるように内容修正を求めたからです。
結局、許容できる平均気温上昇限度は原案の2度(1990年比)から3度に拡大修正。わずか1度の差ですが、CO2排出量には大きな影響を与えます。2度上昇に抑えるには2050年のCO2排出量を最低3割(2000年比)削減。3度上昇ならば最低削減率は1割に低下。CO2排出大国である米国に加え、経済発展でCO2排出量増加が確実な中国に有利な内容です。
そんな折柄、中国の温家宝首相が来日。当たり前のことですが、外交には必ず目的があります。今回の首脳会談、日中双方の思惑が透けて見えます。
首脳会談後の共同声明で、2013年以降の温暖化対策の国際的枠組みを決めるポスト京都議定書交渉に中国が参加する意向を表明しました。
京都議定書でCO2排出量の削減義務を負っていない中国は、これまでポスト京都議定書交渉への参加に難色を示していました。今回の急な方針転換は日本の足元を見た対応です。
安倍首相は来年日本で開催される主要国首脳会議(サミット)でポスト京都議定書交渉の枠組みを取り決め、外交的成果としてアピールすることを画策。この日本の思惑を見透かした中国の方針転換です。もっとも、あくまでポスト京都議定書交渉への参加努力の約束のみ。具体的なコミットメントは全くありません。先のIPCC第2部会での対応を鑑みると、真意は推して知るべしと言えます。
歴史認識、東シナ海ガス田開発などの懸案に関する具体的な成果が期待できない中、ポスト京都議定書交渉を巡る抽象的な合意は日中双方にとって都合が良い成果です。
ところで、朝鮮半島の温暖化は他の地域より急速に進んでいます。1910年代に比べて年平均気温が1.5度上昇。同期間の地球全体の平均値0.74度の2倍です。工業化に伴って中国東北3省でCO2発生量が激増。隣接する朝鮮半島の温暖化を深刻化させています。平壌の平均気温は1965年9.4度、1990年10.8度、1998年12.0度という急速なスピードで上昇しています。
温暖化の深刻さが増す中、IPCCの報告書の内容を歪曲したり、温暖化対策を外交カードとして使う愚行を続けている人類の未来は暗いと言えます。
異常な超金融緩和政策、温暖化対策の外交カード化、いずれも褒められたものではありません。
経済効果の薄い事業等への予算投入による税金のムダ遣い。要するに、財政健全化は進んでいないということです。だからこその金融政策依存。異常なまでの超金融緩和政策を行って経済の底割れ防止、下支えを行ってきました。
いつまで続けるのでしょうか。表面上は健康そうに思える日本経済ですが、内臓疾患が進んでいるかもしれません。
日中首脳外交の成功をアピールするための善後策。要するに、本当の懸案では具体的な成果が得られないということです。だからこそのポスト京都議定書交渉への参加努力の意思表示。交渉への参加努力だけなら、痛くも痒くもありません。その一方で、IPCC報告書の内容を巡る暗闘。
温暖化対策を外交カードとして利用する愚行。日本は温暖化対策で国際社会をリードすべきであり、愚行の片棒を担いではなりません。
政治、経済の動きについては、国民に対して十分な説明責任を果たしてもらいたいものです。
(了)